読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読めよぉー。(´;ω;`)

あとプレイしたり、観たりしろよ。アメコミ翻訳はじめました。

ユートピアズ

 えー、比較的マイナーだと思われます。うめざわしゅん『ユートピアズ』。

どこかが“ズレ”た関係や社会、世界を描いた短編集です。

たとえば……

・政府公認のSMの女王様がいる社会
・“歩く”のではなく“走る”社会
・話し合いやネットですべてをさらけだすコミュニティー
・亀の甲羅の上にできてしまった宇宙
・ボケとツッコミが制度化した社会  
                               ……などなど。

いずれも設定を活かしたストーリーテリングがなされており、
じんわり心温まるラストやゾッとするようなものまで、話のオチも多彩。
特に上記、「ボケとツッコミが制度化した社会」は秀逸。うちの教授もおススメしてた。

んが、今回は別の一編をとりあげます。作品名は『チューブ』。

以下、ややネタバレを含みます。

ひと言でいえば、「安全、健康、長生きが金科玉条の国」を描いた短編です。

主人公は自爆テロに巻き込まれたため、
12年間もチューブにつながれる植物状態だった元自衛隊員。

目が覚めると、日本はODAを各国に供出する代わりに防衛上の安全を手に入れており、
すべての国民には、より健康で、より長生きしなければならなくなっていた。

週1回の健康診断が義務付けられ、風邪を他人にうつしたら裁判沙汰であり、
不摂生や不注意による病気・ケガは刑事罰の対象になる。

自動車には「事故で死亡する恐れがあります」と大きく注意書きがなされ、
釣り堀でさえ、水際にはフェンスが張り巡らされる。
喫煙者だった主人公だが、もちろんすでに販売禁止になっている。

別段、思想警察がいるわけでもないが、
それでもすべての人々が“健康であらねばならない”と信じきっている、そんな社会。

当然、新しい生活に馴染めない主人公。
息子は何事にも無感動で、自分のことを「父さん」とも呼んでくれない。
かつては「秘密の釣り場を教えてやる!」と約束を交わしほど仲がよかったのに。

いらだつ主人公は、しかし、ひょんなことからタバコを手に入れる。
おそるおそる一服した彼は、あることに気づく。

「……うまい。そうだ…タバコはうまい…
 いったい俺は何をしていたんだ!?
 身体を管理されてるってことは心も管理されてるってことじゃないか!!」

これが本作を取り上げる理由です。

つまり、国や社会が個人に“健康であれ”と強制することは許されるのか?
結論からいえば、許されないし、許されることがあってはいけない。いや、マジで。

だっておかしいJAN。たとえその人のためであっても、
健康を強制されるってことは生き方の自由を奪われるってことであって、
それは要するにBIG BROTHERと本質的には何も変わらない。

あるいはこう言ってもいいです。

自分で健康と病気、ケガと安全のリスクを考えて行動する人間と、
周囲が言うまま盲目的に健康・安全を追求して130歳を迎えた人間と、
果たしてどちらが“まとも”か。

別に健康・安全を追求するなとは言ってない。それは個人の生き方の自由。
であればこそ、健康・安全を追求しないのも、個人の生き方の自由であれよ、と。

それが許されないのであれば、
不健康な人、命の危険にさらされる仕事のプロも、存在を許されないことになる。
例えば老人、太った人、喫煙者、引きこもり、登山家、格闘家、F1レーサーなどなど。

畢竟、ボク様はパターナリズムが大嫌いなんよ。

上から目線で生き方・考え方を強制されることほど反吐が出るものはない。
それは自分が悪だと気付いていない、最もドス黒い悪」(byウェザー)であって、
人間を人間扱いせずに、しかもそのことを是だと思い込んでいる認識。
いやまったく、どうかしてる。

さて、本作『チューブ』においては、主人公は心を管理されていることに気づいた。
ラストはその気づきが活きるものになっており、爽やかな読後感。

翻って私達はどうだ? 2002年に制定された健康増進法が、
「国民は健康の増進に努めなければならない」と規定していることを知る人は?

人間の身体と・心と・生き方の在り様について考えさせてくれる優れた短編。
この1作だけでも読む価値ありと思えます。読めよぉー。