読めよぉー。(´;ω;`)

あとプレイしたり、観たりしろよ。アメコミ翻訳はじめました。

魂の駆動体

おっと、何げにあれだ、同じ作者の別作品を取り上げるのは初めてだ。まあ意識的に避けてたんですけど。今回は神林長平、『魂の駆動体』です。『敵は海賊』と同じ作者ですね。

例によってざっとあらすじ。時は近未来。人々が意識だけの仮想空間“HIタンク”へと移住し始める中、老人ホームに住む初老の男性<私>は、その風潮に馴染めずにいた。そんな中、ひょんなことからクルマへの情熱と憧れを思い出した<私>は、友人の子安とともに完全オリジナルでクルマの設計図を作り始める……。

一方、人類がすでに滅びた遠い未来。翼をもつ翼人たちは、失われた人類の遺産を研究していた。研究者のひとりである、キリアは人類と人類の遺産を深く理解するため、特殊な装置を使って人間に姿を変えることを決意。パートナーである魂を持たない人造人間・アンドロギアとともに、発掘された設計図をもとにしてクルマを再現しようと試みるのだが……。

近未来、遠未来、現在の3部構成になっていますが、ストーリーを貫くキーワードは、ずばり「クルマ」です。自動車ではなく、あえて「クルマ」と表記したのは理由があります。というか、それが本書のテーマ。

実は、近未来編では、我々が知るようなクルマはすでに姿を消しています。その代わりに道路を走っているのは、完璧な自動運転・自動制動が可能になった、文字通りの“自動車”。行き先を告げれば、完璧なドライビングで、乗り手を目的地まで連れて行く。人々はハンドルを握ることさえ滅多にありません。

そんな中にあって、かつての運転する楽しみやガソリンエンジンの鼓動を忘れられない<私>は、あえて旧式のクルマを設計する。意識を収容するHIタンク内に入れば、何でも好きなことが可能になるし、現実と寸分たがわず同じことが再現できるのにみも関わらず、です。

つまり、生身の身体で、非デジタルな・アナログなクルマを設計しようとするわけだ。
そしてまた遠未来編でも、アナログなクルマが実際に製造される。電気エンジンや自動制動システムを組み込むことが可能なのに、あえて、旧式のクルマが作られる。実際に完成したクルマに乗ったキリアは言う。 「こいつはほんとに生き物だ。しかも人工ときている。なんて機械だ……このどこが自動車なんだ。自動じゃないじゃないか」。

そうです。自動車と、クルマとは、違う。これは誇張でもなんでもなく、本当に、まったく違う。ワープロの字と手書きの字くらいに違う。ロボットと生き物くらいに違う。もちろん、どちらがいい・悪いではないですよ。どちらが優れている・劣っているという話でもない。ただ、まったく別物なんだと。

えー、自動車・クルマを運転したことがある人ならわかるかと思いますが、久しぶりに思い出してほしいです、教習所で、いっちばん最初にアクセルを踏んだ“あの”瞬間を。自分よりはるかに強大な馬力を備えた物体が、ブオォンと咳払いをしたとき、驚きと、恐怖と、好奇心が ない交ぜになった不思議な感覚を味わったはず。クルマとは、要するにそういう感覚を味わわせてくれるもの。ともすれば自分の意志とは無関係に動きだしそうな(あるいは止まりそうな)、野生感。

機械に対して野生というのも妙な話ですが、クルマを運転していると、「今日はエンジンの立ち上がりがいいな」とか、「昨日はこんな振動なかったぞ?」とか、感じることがあるでしょ。それこそが、自動車になくて、クルマにあるものだと思う。

そして畢竟、それはコミュニケーションなんだろう。エンジンの調子やタイヤの摩耗具合などを踏まえながら、自分で加速・減速して、カーブのきしみなども感じながら目的地と到着地を結ぶ。会話に置き換えるなら、言い間違いや話題の脱線なども経て、相手の意図がわかる、ということになる。察したり、言い換えたり、時には無視したりしながら、意思のやり取りを行う。それがコミュニケーション。

本書の<私>やキリアたちが求めたクルマとは、そういった「自分とは違う、対話しうる存在」なのでしょう。自分とは違う存在だからこそ、それと一体になれた感覚は何ものにも耐えがたい。本書の言葉でいえば、“魂を駆りたてる”わけです。

逆に、ボタンを押せば自動運転で到着地、という「自動車」は、まさにデジタルそのもの。齟齬や揺らぎがまったくない。会話に置き換えるなら、「相手の言いたいことが完璧かつ無駄なく理解できる」ということだから、これはすでにコミュニケーションの域を逸している。精神感応とか、同一化とか、そんなキーワードで語られうる領域。(HIタンクは、そういう領域を可能にするものとして登場する)

もちろん、それはそれでいいものなんでしょう。ひょっとしたら世界平和を実現させるのは、そういう境地なのかもしれないです。しかし、いやそうじゃない、無骨で・無駄のある対話を好む人種もいるのだと、いや、いてもいいじゃないかと高らかに・自由に歌い上げるのが、本書です。

クルマというテーマ以外にも、“ものづくり”や“老い”、“意識と魂”などさまざまなキーワードについても織り込んだ1冊。神林長平にしては比較的読みやすく、またエンターテインメント性も高いので、“クルマ”好きの人や、初めて神林作品に触れる人におススメです。

加えて、男同士の友情というか、魂の交流というか、そんな感じの、なんかグッとくる描写が多いので、その筋の人にもおススメ。ラストは静かな感動を呼ぶこと間違いなし。長く語り継がれるべき傑作。  

魂の駆動体 (ハヤカワ文庫JA)

魂の駆動体 (ハヤカワ文庫JA)