拳闘暗黒伝セスタス

格闘技やってるわけじゃないし、カラダ鍛えてるわけでもないし、観戦趣味もないけど、
ウィキペディアで格闘技関連の記事を読みまくったり、
いろんな格闘技の知識だけは蓄えている、という人は結構多いんじゃないでしょうか。

そんな仮想格闘ファン御用達の漫画です。技来静也拳闘暗黒伝セスタス』。

帝政ローマ時代の古代ボクシングを舞台として、
自由のために強敵に挑み続ける少年拳奴・セスタスの戦いと成長とを描きます。

いろんな読み方ができる漫画でして、
①奴隷ボクサーであるセスタスが自由を勝ち取るまでのドラマとしても読めるし、
②“殴り合い”である古代ボクシングが、
 “打たせず打つ”の近代ボクシングに進化していく物語としても読める。
③セスタスと、そのライバルであるエリート格闘少年のルスカ、
 同年代でありながら強大な権力を得てしまった少年皇帝・ネロと、
 3人の少年たちが織りなす青春トライアングラーとしても読めるし、
古代ローマの栄枯盛衰をフィクション的な視点で描いた歴史漫画としても読める。

格闘漫画、それもボクシング漫画なので、殴り合いのシーンが出てくるんですけど、
同時にシンプルかつ説得力のあるト書き&セリフでの解説も挿入。
なんでもかんでもテキストで理解しようとする文系野郎にはありがたいものがあります。
「打撃の要は体重移動だ」だの「速度は戦力なり」だの
「死活を分けるのは間の占有に尽きる」だのと、やたら漢字が連発されるのも特徴。

格闘シーンだけでなく、日常的な場面でもテキスト量が多いので、
文字を“読む”楽しみも含めた漫画といえるでしょう。
特にセスタスの師匠であるザファル先生の“お説教”がたまらない。
厳格かつ長文なので、読者も主人公と一緒に説教されてる気分になれる。お得(?)。

もちろんビジュアル的にもかなり洗練された印象を受けます。
絵はカッチリした描線で読みやすく、身体の動きの描写も的確なので、
ダメな格闘漫画にありがちな“何がどうなっている攻撃なの?”ってことが皆無。
格闘シーンではナナメをコマを上手く配置しており、スピーディーさが脳内補完されます。

話の展開にも無理がなく、ハラハラしながら読み進められるんだけど、
いろんな要素を織り込み過ぎてて、伏線回収できるのかというのが若干の不安材料。
ただまあ、体格の小ささという拳闘士としての不利を抱えた主人公が、
工夫し、闘志を振り絞り、ギリギリの死線を越えて勝利を掴むというストーリーは、
やっぱりそれだけで面白いものです。

『拳闘暗黒伝~』は全15巻をもって完結。
現在は、第2部『拳奴死闘伝セスタス』がじっくりゆっくり連載中です。
完結してない作品をもってきたのは今回が初ですな、そういえば。
しかも1~10巻が実家で行方不明という。もっかい買い直そうかねえ。