読めよぉー。(´;ω;`)

あとプレイしたり、観たりしろよ。アメコミ翻訳はじめました。

バットマン:キリングジョーク アラン・ムーアDCユニバース・ストーリーズ

でええ、前置きは不要だな。
今回はバットマンの傑作エピソード、『バットマン:キリングジョーク』です。
※以下、ネタバレを含むのでご注意。

タイトル、っつーか表紙からもわかるとおり、
本作はバットマンの宿敵・ジョーカーにフューチャーしたエピソードであり、
半世紀以上にわたるバットマンの歴史全体を通じても重要な作品と見なされています。

えー、ジョーカー。「犯罪界のプリンス」。
クレイジーで残虐で狡知に長け、やることなすことが混沌・混迷の極みであり、
大規模犯罪・大量殺人でさえ己のジョークのひとつにすぎないと言い切る究極狂人。
ある意味で最もバットマンのことを理解しているにも関わらず、
決定的な部分で対極に位置している存在、それが彼です。

バットマン史ではきわめて早い段階(1940年)に登場したジョーカーですが、
実はそのオリジン(誕生の経緯やキャラクターの背景)は、ほとんど語られてこなかった。

いちおう現時点での公式設定は、
「本人でさえ記憶が混乱しており、誰も知らない」というものですが、
“もしかしたら”というifのストーリーさえあやふやだった。
「当初は“レッドフード”というという怪盗であり、
バットマンに追われて化学薬品工場の廃液だまりに転落。
素肌を“漂白”されて、現在の白面狂気の犯罪者に変貌した」という、この程度です。

「じゃあそのオリジン、作ってやってやろうじゃん!」
と張り切っちゃったのが、ご存じ僕らのアラン・ムーア先生。
(さすがアラン・ムーア! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ)

タイミング的には、1988年3月のこと。
すでに『ウォッチメン』で名声を確立していたということもあり、すげー期待されたらしいです。

で、肝心の中身はというと、これがね、もうね、
「えっ、えっ。何これ。パねえ。いや、ハンパなくパねえ!」と驚愕するくらい面白い。

ストーリーラインそのものは、実際どうということもないです。

ジョーカーがアーカム病院から脱走して、ゴードン本部長宅を襲撃し、彼を拉致。
「この狂った世界では、狂ってない奴のほうが狂っている」という持論を証明するため、
彼を精神的に追い詰めて発狂させようとする。そこにバットマンが現れて……というもの。

だけども、ただそれだけじゃないってのが、ムーア先生のすごいところ。
発狂する以前のジョーカーのオリジンを要所要所に挿入し、
現在と過去、両方の物語を縦横無尽に読ませていく。

身重の妻のため、チンピラ仲間とともに強盗を計画した売れない芸人。
それがかつてのジョーカーの姿。

しかし、不幸な事故から失意のどん底に叩き落とされ、
さらにたまたま居合わせたバッツのせいで化学薬品の廃液まみれになってしまう。
理不尽とさえいえる不幸にさらされ、
化学薬品のせいで変わり果てた己の相貌に気づいた彼は……。

どこにでもいる普通の男が狂い果て、稀代の犯罪者に変貌してしまうこのシーンは、
ジョーカーのオリジンという要素を抜きにしてもアメコミ史上屈指の名場面だと思います。
(いや、言いきれるほど読んでないけどさ)

そして、ジョーカーの真実を解き明かすと同時に、
彼が抱える狂気と孤独、さらには悲哀さえも描き上げていく。

セリフはシンプルでありながら含蓄に富み、
的確な表現でジョーカーの考える狂気の在り様について知らしめてくれる。
ちょっと長いけど引用します。

「で、おめぇの不幸は何だったんだ? 何が今のバットマンを作ったんだ?
恋人がギャングに殺られちまたか? 弟が強盗にバラされでもしたか?
まァ、だいたいそんなトコだろ。そうだろうとも
でな、オレ様もそういう目に遭ったんだよ。そいつが一体何だったのか、
今となっちゃあハッキリとは思いだせねぇが…
できる事なら、過去に、お好きな記憶をトッピングと行きたいね!
とにかくオレは狂っちまった
世界が、とてつもなく悪趣味なブラックジョークだと気付いた瞬間、
頭の芯までイカれたんだ! 認めるぜ! おめぇも認めなよ
おめぇにもアタマがあんなら事実ってモンから目を逸らしちゃいけねぇな
レーダーに映ったカモの群れのお陰で、
何度、第三次世界大戦が起こりかけた事か…答えをご存じかな? 
それから、第二次大戦のキッカケは?
ドイツが一次大戦の戦勝国に引き渡す電信柱の数でモメたせいだったんだと!
電信柱だぜ、電信柱!
何もかもジョークなんだよ…みんなが大仰に崇め奉ってるモノも、
後生大事に戦い守ってるモノも…全ては桁外れにバカげたジョークさ
だったらそいつを楽しみゃいいだろ? なのに…おめぇはなぜ笑わねぇんだ?」

実際、ジョーカーのセリフを読んでいると、
確かに世界が狂気に満ちていると信じてしまいそうになるから恐ろしい。
新米海兵隊を“その気”にさせるような感じです。

そのジョーカーいわく、自分が“こう”なってしまったのは「不幸な一日」のせいであり、
おかげで世界が「桁外れにバカげたジョーク」だと気づいてしまった。
そして、バットマンもそうした「不幸な一日」を体験したはずだと言う。

しかしバットマンは、ゴードン本部長がジョーカーの責め苦に耐え抜いたことを指し、

「普通の人間はそう簡単に壊れたりしないものらしいな
たとえ不幸に見舞われても、真正面から受け止める。決して逃げたりはしない。
そんな事をしたのは…お前だけじゃないのか?」

と、ジョーカーに詰めよる。
似たような境遇でありながら、理性と混沌のそれぞれを体現する2人。
彼らの思想の違いがハッキリわかるエピソードという意味でも、本作は必読です。

エピソードの最後、バットマンはジョーカーに対して歩み寄りを見せる。

「私はお前を傷つけたくない。我々の関係を、殺し合いで終わらせたくないんだ
だがすでに、選択の余地はなくなりつつある わかっているはずだ
多分、今夜が最後のチャンスだろう。今夜で全てを変えられるかもしれないんだ
もしお前が拒めば、我々はこのまま破滅への道をひた走ることになる
どちらか死ぬまでな…それでいいのか?」

しかしジョーカーには、差しのべられたその手を握ることができない。

「すまねぇ。けど…ダメだ。遅いよ。遅すぎるぜ…
なんか…笑えるよな…いつか聞いたジョークみてぇだ…」

顔を手で覆ってそう答えるジョーカーの額を雨だれがつたい、
その姿は泣いているようにも見える……。

とまあこのように、シンプルでありながら濃密な物語を読ませる本作。
ジョーカーのオリジンを解き明かす物語であり、
理不尽に翻弄された普通の男の破滅を描いた悲劇であり、
狂気というものがいかに人を蝕むかを説く警告書であり、
バットマンとジョーカー、理性と混沌のせめぎ合いを描いた名エピソードといえます。
(もひとつつけ加えるなら、バーバラ・ゴードン(本部長の娘)が“オラクル”として
 生まれ変わるのにも重要なエピソードです)

現在手に入りやすいのは、小学館集英社プロダクションから出ている
バットマン:キリングジョーク 完全版』のほうですが、
お金に余裕があるのならJIVEから出ている
バットマン:キリングジョーク アラン・ムーアDCユニバース・ストーリーズ』もおススメ。

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『Swamp Thing #21 The Anatomy Lesson』、
“鋼の男”が抱くひそやかな願望を描き、アニメ版のJLUでも再現された
『SUPERMAN ANNUAL #11 For The Man Who Has Everything』など、
ムーア先生が手がけた傑作エピソードが6作品収録されており、
アラン・ムーア作品の入門書としても最適です。
まあプレミア価格ついてますが、そこはほら、愛でカバーよ。10つ星。読めよぉー。