変わってるから困ってる

グチだとか懐古だとか、そういうんじゃないですけど、
昔は、ダメ人間でも許容できる何かが・どこかにあった気がします。
ダメ人間でもダメ人間なりに社会に出て、
そこそこ人様に迷惑かけながらも、まあ何とかやっていけるような、大らかさ。

「そんなものあったか?」、「どこかってどこだよ」と問われると返答に困るし、
実際、昔は昔で現代以上に殺伐としていたんでしょうけど、
なんつーか、“意識高くない人は人にあらず”みたいな空気はなかった気がする。

わかりやすいのは“真面目系クズ”という罵倒語。
この言葉を目にするたびに、「それはただのナマケモノだろ。どこがクズだよ」と
ツッコミたくなる気持ちでいっぱいなんですが、
どうも昨今の風潮的には、「主体性や積極性がない」とか「努力しない」とか、
「リスクを回避する」、「ルールブレイカーになれない」といった諸要素を併せ持つ人は、
ひと言でいえば人間のクズらしいです。

自分もわりかしこうした真面目系クズの特徴にゃ少なからず心当たりがあるし、
非主体的・非積極的といった要素が確かにマイナスな志向だとは認めるけれども、
だからと言ってテメエ、他人からクズ呼ばわりされる筋合いはねーよ。
別に何かの罪を犯したわけでもあるまいに。ケッ、ぺっ。

……いや、そういうこと言いたいんじゃない。
ハイ、わかった、この話はやめよう。やめやめ!

えーっと、今日の紹介ですね。藤枝奈己絵『変わってるから困ってる』。
版元は青林工藝舎ガロ系は初めてじゃね、なにげに。

身もフタもない言い方をすれば、ダメ人間のマンガです。ほんとに身もフタもねーな。

もうちょっとオブラートに包んで言うと、社会的にどこか欠落した人たちのマンガ。
いや、こっちの言い方のほうがひどいか。

主人公は文房具工場でバイトする女の子。
一見フツーなんだけど、実は盗みグセがあり、万引き常習犯。
つい最近もバイト仲間のスカーフを盗んだばかり。
そんなある日、ひそかに憧れている男子の秘密を知ってしまい……というストーリー。

やりがいも刺激もないバイトにユーウツになりながら、
「少しでも得をしたくて」、人のモノを盗んでばかりいる主人公が情けなくて笑える。

で、憧れの男子はというと、淡白な爽やか系青年のくせにヘンなところでキレやすく、
ときおり過激な暴力に走ったりする。

ほかにも、小心者なのに他人のおびえる顔を見ないと興奮できない工場長や
借金するほどホストに入れ込んでいるバイト先の女子など、
いろいろダメ~な人たちが登場します。

が、別に彼ら・彼女らが心を入れ替えてマジメになるってわけでもないし、
教訓めいた不運にさいなまれるわけでもない。
最初から最後まで、主人公の盗みグセは治らないし、バイトもだらだら続く。

そういう意味では、読後に感動もへったくれもないっちゃないんですが、
ただ、読めば何となく、他者に対して(自分に対しても)大らかになれる漫画です。

社会の荒波を乗り切るために、必ずしも自分の精神を鍛え上げる必要はないし、
“強い人間”になれなかったからといって、人生終わってしまうわけでもない。

そうではなくて、弱さやダメさ、後ろめたさを抱えたまま生き抜く人もいるし、
そういう人がいてもいいじゃねーか、
どうせ世の中変わってる人ばっかりだ、うほほーい! みたいな気持ちにさせてくれます。

まあ、世の中にはこーゆー価値観に対して親のかたきのごとく怒りだす人もいるけど、
そういう人はサラッとスルーしてりゃいいんだよ。何様だっつの。ケッ、ぺっ。

絵柄についてはスッキリ系で今風ですが、驚くほどヘタです。
ぶっちゃけ犬がミュータントにしか見えない。マジで。一見の価値あり。
といっても5年以上昔の作品なので、今現在はどうなのか不明。

作者自身もだいぶダメダメな感じだったらしく、
かつては沈没家族(知ってる?)とかにも参加していたようですが、
いつの間にか結婚して子ども生んで、ブログで育児漫画描いてた。ひえー。
まだ2冊しか単行本出てないですが、何となく買い続けたい作家です。おススメ。