世界の中心で愛を叫んだけもの

なんと、ブログ始まって以来、この記事が99本目らしいです。
うち15本が日記なので、作品紹介としては84本目なんだけどね。
まあ、三日坊主の俺にしてはよく続いたほうだと思う。

あのセカチューですね。違います。

エリスンさんの、いわゆる“ニューウェーブ”な作品がバランスよく収められた短編集。

ブームが起きた当時を生きていないし、SF専門家でもないので、
ニューウェーブとは!」みたいに語ることはできないし、する気もないです。

ただ、もし本作がニューウェーブというSFの一時代を築いた人の代表作であるとするなら、
ニューウェーブの一番重要な要素は、たぶん「反体制」という言葉で表わされると思う。

収録作をいくつかピックアップして、ざっと紹介。

狂気を別次元に“排出”することで安定を保つ場所「交叉時点(クロスホエン)」。
今まさに捕えられた狂気の持ち主が排出されようとしているが、
排出の管理者は、狂気を別次元に排出することに反対する。その理由とは……。
   ◇   ◇   ◇
何も考えずにダーッと読むと難解、な気がする。
というか暗喩の意味やら何やらを考えながら読まないと、すげー分かりづらい。
時系列も倒置するし、聞きなれない単語も登場しては去っていく。
作品の主張としては、「世界に狂気は必要であり、
その狂気が悲劇を生むとしても、落とし前は自分たちで付けるべき」といったところ。
もちろん、セカチューやエヴァ最終話とは何の関連もないです。
20ページくらいですが、ヒューゴー賞受賞。

・101号線の決闘
武装自動車を駆り、そのバトルでもって公的に決闘することが認められた世界。
とある夫婦と若きヤンキーとの死闘の行方は……。
   ◇   ◇   ◇
アメリカの自動車&ハイウェイ文化をマッドマックス的に描く。
スピード感あふれる戦闘描写だけじゃなくて、普通のファミリーカーを運転する男性が、
決闘と暴力の魅力に取りつかれていく心理こそが本編のキモではないかと。

・眠れ、安らかに
<睡眠者>と呼ばれる存在によって人々の思考は管理され、
戦争するという思いつきさえ不可能になった。
平和ではあるが、競争や進歩がなく停滞しきった世界を打破するため、
2つの大国は<睡眠者>を打ち倒すべく、海底に特殊部隊を派遣する……。
   ◇   ◇   ◇
心から平和を願い続けて人々の思考を管理するまでになった<睡眠者>と、
平和を捨て、戦争をしてでも新たな進歩を望む人々と、
そのはざまで揺れる主人公の葛藤が見どころ。
ストーリーは短いですが、想像力を刺激される要素があって読み応えある。

・星ぼしへの脱出
突如として異星人からの侵略を受けた地球の植民惑星。
軍は、人々が逃げ出すまでの時間稼ぎとして、とある男の体に太陽爆弾を埋め込む。
最後の地球人として、孤独に惑星中を逃げ回る男が選んだ道は……。
   ◇   ◇   ◇
比較的読みやすい一編。若いころの作品らしいです。
人々に見捨てられ、孤独な最後を強いられることになった男が、
自分の意志に目覚め、最終的に人類への復讐を誓うまでの過程が描かれます。
ピカレスクロマンな色合いが強く、『モンテ・クリスト伯』とかも彷彿とさせる。

・殺戮すべき多くの世界
依頼されれば、1つの星系全体さえ侵略・征服する世界殺戮者ジャレッド。
彼はなぜあらゆる世界を破壊するのか、その計画と真意とは……?
   ◇   ◇   ◇
ストーリーそのものは短く、しっかりした起承転結があるわけでもないけど、
重厚なテーマ性と作者の主張(つまり「偽善などクソだ」)が読みとれて面白い。
こちらもピカレスクな感じが強い。
ジャレッドのキャラは、『敵は海賊』のヨウ冥っぽくて、長編にも展開できそう。

・少年と犬
核戦争によって崩壊した、暴力の支配する世界。
武装した男たちは、人語を解しテレパシーを駆使する改良犬とパートナーを組み、
残されたわずかな食料や、それよりももっと貴重な女を巡って争い合っていた。
ある日、少年のヴィクと相棒の犬・ブラッドは、見慣れない姿の少女を発見する。
その少女はなんと戦争の影響を受けていない地下の町から来たと語るが……。
   ◇   ◇   ◇
傑作の中編。犬SFの代表作と言ってもいい。
ゲーム『Fallout』に出てくるレイダーみたいに立ち振る舞うヴィクと、
教養があり、皮肉も言うけど、いざというときは頼れるブラッド。
少年と犬が織りなす、荒削りで・粗野だけど・グッとくる信頼関係が描かれます。
単なる人と犬の“友情”物語とは違うんだな。あくまで“信頼関係”の物語。
乱暴かつ育ちの悪い少年が、管理された地下の閉鎖世界を捨てるというのは、
エリスン本人が兵役期間中、部隊内で札付きの問題児だったことと重なる。
犬好きなら必読の一編です。ネビュラ賞受賞作。


ほかにもいろいろあるんですが、特に目立って面白かったのは、この6編。
これらの作品の背景には狂気や暴力があると思うし、さらに突き詰めていけば、
「古臭い、新しいものを生みださなくなったSF界なんかクソ食らえじゃ」と
正面切って言いきっちゃうようなエリスンの反体制根性があるんじゃないかと思う。

とはいっても、確かに『世界の中心で~』なんかを読むと、
カッコつけで難しい言葉つかってるんじゃねーのかと疑りたくもなるのは分かる。
エリスン自身、そういう難解な単語で読者を“煙に巻く”作品と
いっしょくたにされるのが嫌いだったみたいだし、
その文脈で“ニューウェーブ”の作家と称されるのも嫌ってたみたいだしね。

読みにくい作品や変則的な作品、難解な作品もいくつかありますが、
ある程度、SFに素養のある人なら楽しんで読めること請け合い。
アシモフ、クラーク、ハインラインら御三家にはない、
成熟を拒む青い果実のような魅力があるのではないかと思います、はい。