アストロシティ:コンフェッション
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3月17日の記事で紹介した『アストロシティ:ライフ・イン・ザ・ビッグシティ』と同じく、
作画はブレント・エリック・アンダーソン、カバーアート&キャラデはアレックス・ロス先生。
前回の『~ライフ・イン・ザ・ビッグシティ』は、
ユニークな切り口でヒーローコミックを描いたショートエピソード集でした。
本作『~コンフェッション』は、あるヒーローが成し遂げた正義の行いと苦悩を、
そのサイドキック(相棒キャラのこと)の視点を通して描きます。
言ってみれば、バットマンの正義&苦しみを、ロビンの視点から描くような感じです。
大まかなストーリー紹介。
ヒーローが集まる社交クラブで給仕係として働くブライアンは、
立身出世を夢見て田舎町からアストロシティに引っ越してきたばかりの青年。
彼は、クラブを襲撃してきた悪党を退治したことをきっかけに、
シティの夜を守る黒衣のヒーロー、コンフェッサーの弟子として抜擢される。
その後ブライアンは、コンフェッサーの相棒&弟子であるオルターボーイとして、
彼とともにアストロシティの夜を守るヒーローとなったが、
シティを巡る大きな陰謀に直面することになってしまい……。
“巨大な陰謀事件に巻き込まれていく”という点では、
エピソード主導型の一般的なアメコミと変わらないですが、
陰謀事件や悪役との手に汗握る戦いはあくまでもオマケのようなもの。
本作のメインテーマはサイドキックの成長、つまり青年ブライアンの成長と、
ヒーローであることの意義・意味についてです。
医師として安い賃金で働いていた亡き父親のようになるまいと、
若きブライアンはオルターボーイとしてヒーロー活動に励む。
実際に人々を助け、着実に他者から認められる存在に近づいていると感じていたが、
一方で、なかなか解決されない不審な連続殺人事件にいらだつ市民は、
アストロシティのヒーローたちを非難し始める。
焦燥に駆られたブライアンは、コンフェッサーに言う。
「僕らの事を誰が気にしてるっていうんだ! 市民は市長に拍手してるよ!
僕らにもゴミを投げつけただろ!?」
しかしコンフェッサーはブライアンに言う。
「この仕事をする理由がそれか? 市民の喝采と名声のためか?
人を助けるのは感謝して貰えるからなのか?
彼らが助けを必要としているからでなく?」
やがてブライアンはコンフェッサーの真の姿を知った上で、
彼の勇気ある行動を目の当たりにする。
同時に、多くのスーパーヒーロー達の正義の行いと、その意図するところも理解する。
真のヒーローとは、他者からの賞賛など求めず、
理解される・されないに関わらず正しいと信じたことをやり遂げるのだ、ということを。
物語の終わりに、ブライアンが選んだ道は──実際の漫画で確かめてください。
基本的に、エピソード全体がブライアン青年の目を通じて描かれており、
視点が単一なので非常に読みやすいです。
ブライアンがごく一般的な若者ということも、感情移入しやすい大事な要因。
バイトをして、学校にも行き、町を散歩しては思いにふけることもある。
そんなごく普通の青年がヒーローになる過程や、
正義・勇気の本質を学んでいく心の変化の過程が丁寧に描かれており、
「なるほど、サイドキックってのはこんな風にして一人前になるのか」と納得できる。
本作は、イントロダクションでニール・ゲイマンが語っている通り、
“一種の成長物語”であり、“若者が教訓を得るストーリー”です。
ただ、物語で描かれるのは、ありきたりな成長物語でも陳腐な教訓でもなく、
何年も語り継がれるに値する成長物語であり、忘れえぬ教訓なのだと、
そう思わせるだけのしっかりした骨組みと肉付けがなされた普遍的な傑作です。
本作を最後に、アストロシティシリーズの翻訳出版はストップしていますが、
版元のジャイブさんには、ぜひ改めて続刊の翻訳を手がけてほしいところですな。
Amazonでは中古価格が高騰してるので、既刊の再版も合わせて是非。