百鬼夜行抄
どーん、またホラー漫画です。ひねりのないヤツ!
物語の主人公は、亡き祖父から強い霊感を受け継いだ飯嶋 律(りつ)。
不思議で、奇妙で、ゾッとするような物語が繰り広げられます。
いわゆる妖怪や幽霊、呪いなどがアレコレ出てきますが、
それらとバトルしたり、呪文でエイッと片付けたり、なんてことはほぼないです。
ときおり友好的な人外のものたちと付き合ったりもするけれど、
基本的にはおっかなびっくり夜道を歩くかのような、危うい駆け引きを演じている。
確かに、主人公の律には見えないものが見え、感じられないものが感じられる。
またそう言った“モノ”と付き合ってきた場数も踏んでいる。
でも、だからといって妖魔折伏ができるわけでもない。
なので、律としては極力、そういった妖魔の類とは関わりをもたないようにしている。
(ストーリーの展開上、そうもいかないことばかりだけど)
そういう意味では、本作における人間とモノノケとの関係性は、
以前紹介した『もっけ』のように、非常にデリケートなものとして描かれています。
軽々に交流を持ったりする間柄ではない。
とある年老いた妖怪いわく、
「私たちは別々の世界の生き物 仲良くする必要などない それでいいんだよ
時には菓子を持って互いをたずねる
ほんのいっとき茶飲み話をして別れる…それが一番さ」(単行本8巻「狐の嫁入り」)
しかしだからといって「なるほどそうですか」といかないのが辛いところ。
ちょっとした行き違いや心変わり、気の迷い、油断がきっかけで“トラブル”は起きる。
なので律は、人や妖怪たちの絡まった気持ち(情念、怨念)を解きほぐし、
できる範囲で、最善と思える選択をする。
できる範囲で、ってのがミソです。
妖怪・幽霊・呪術が登場するといっても、何でもかんでもできるわけじゃない。
救えない命もあるし、事態に直面したりもする。
そういうシーンにおいても、律は、別に熱血しないし、命の大切さを説いたりしない。
どうしようもないこと・できないことは、ある。そう分かっている。
でも、そうやって身の丈をわきまえているからこそ助かる命もある。
そこにあるのは、『もっけ』と同じく、妖魔──広く言えば“異”な存在への畏敬の念。
「私たちは貴方達のことを“わかったつもり”なりません」という謙虚さだ。
そうした敬意があって初めて、アヤカシたちとギリギリ付き合うことが許される。
とまあ、小難しいこと書いてみましたが、漫画自体は大層面白いです。
きれいめのサラッとした絵柄なのに、執念・業(ごう)などが結構エグく描かれており、
読んでてゾッとさせられることもしばしば。
また、1話完結ですが、どのエピソードも物語が一筋縄ではいかず、
謎ときやミステリーも絡めてお話が展開されるのも特徴。
叙述トリックっぽいのミステリーまであり、最後になって話の全貌がわかる、なんてことも。
連載誌の「ネムキ」は、前述のとおり2012年に休刊になりましたが、
完版作品として、また新たに連載がスタートしています。
実は自分も途中までしか単行本揃えていないので、また買いそろえようかしら。おススメ。