トップ10

はあい、ひさしぶりの海外コミックですだよ。

今回紹介するのは本国でアメリカズ・ベスト・コミックスから刊行された『トップ10』。
原作はアラン・ムーア先生。作画はジーン・ハーとザンダー・キャノンです。

舞台は、ホームレスから大富豪まで、さらにはネズミから犬、猫に至るまでが
何らかのスーパーパワーを備えている超巨大多層都市“ネオポリス”。

その治安維持に奮闘する第10分署──通称「トップ10」──のメンバーが繰り広げる、
波乱万丈でシリアスで、涙も笑いもパロディもある刑事ドラマを、
人間味たっぷりに、いきいきと描きあげています。

いちおうの主人公は、新人の女性巡査であるロビン・“トイボックス”・スリンガー
数十の小型ロボット軍団を操りながら、街の治安を守るべく成長していくんだけど、
彼女以外にも個性豊かすぎる面々が揃っています。

例えば……。
ほとんど不死身の肉体&胸部からフォースビームを放つ無骨な“スマックス”。
人語を解し、強化外骨格に身を包んだハイパードッグのケムロ・シーザー。
核兵器搭載の重火器パワードスーツを着込むイルマ・ウォーナウ。
においを“聞き”、音を“見る”共感覚の持ち主、ミリアム・“シナステシア”・ジャクソン。
非実体化能力で何でもすり抜けるジャッキー・“ジャックファントム”・コワルスキー。
超人的な説得能力を持つ人質交渉人、ハリー・“ワード”・ラブレイス。   ...etc,etc

もちろんトップ10のメンバー以外の一般人=容疑者や被害者だって、
大なり小なり、何かしらのスーパーパワーを所有している。
なので、トップ10が扱う事件・事故は、そんじゃそこらの刑事ドラマとはわけが違う。
異星人も神話上の神様も、怪獣も並行世界も当たり前のように出てくる。

それなのに、ああ、なんでだろう。見事に刑事ドラマしてるんですよ、これが。

容疑者との駆け引きやパートナーとの信頼関係、一般市民とのちょっとした会話、
気のきいたジョーク、正しさを追い求め、悪を許さないという信念、
細かな糸口から犯人を追いつめる過程や、街に隠された権力の腐敗まで、
TVや小説などで描かれてきた“刑事ドラマらしさ”が遺憾なく盛り込まれている。

少なくとも、海外の刑事ドラマを見たことがある人なら懐かしさを感じるレベル。
実際、ムーア先生はCBRのインタビューにおいて、
「NYPDブルー」や「ホミサイド/殺人捜査課」のファンだと述べているから、
本作には、刑事ドラマがかなり影響を与えているのだと思われる。

とはいってもムーア先生が原作なので、単なる刑事ドラマでは終わらない。
複数の事件・エピソードを同時並行的に描きながら、
大きな陰謀に向けて収束させていくというムーア先生お得意の手法が採用されてます。
無論、ト書きや説明口調なんて野暮なものはナシ。
物語を読み進めていくに従って、自然にキャラクター&世界観の設定が掘り下げられ、
作品全体の要素が読者の中でしっかりと肉付けされていく。

テキストの情報量が多く、登場人物も大量なので、
海外コミックを読み慣れない人は混乱するかもしれないけど、
2回・3回と読み返せば、その全体像の大きさや確かな構成がわかるはず。

物語の本筋から離れて描かれるサイドストーリーも見事。
特に、第2巻に収録されている#8は素晴らしい。
不幸な事故に巻き込まれ、余命いくばくもない被害者の最期を看取る警部補らの姿は、
確かにトップ10こそが街を守るにふさわしいと思わせてくれる。
ちなみに、このエピソード、折り込みの注釈によれば、
コミック情報誌「ウィザード」が選ぶ「トップ100シングルイシュー」の第1位だとか。納得。

さらに、おまけとしていろんなコミックやドラマ、映画の
パロディ&小ネタ、モチーフがいたるところに描き込まれています。

マーブルやDCの超有名アメコミヒーロー達は、キャラクターレベルでモデルにされてるし、
背景のモブキャラには古今東西のヒーロー&ヒロインらしきものが登場。
機関車トーマスパワーパフガールズといった非ヒーローキャラから、
ゴジラ鉄腕アトム鉄人28号といった日本製キャラクターまで出てくる。
読めば読むほどニヤリとさせる小ネタが見つかるので、お得感はかなり高いです。

翻訳されている第1巻と第2巻は、シーズン1(全12エピソード)に相当。
ストーリー自体はきっちり完結しており、
第2巻にはオマケとして読み切りの2エピソードも収録されてます。

ただ、アメリカ本国ではシーズン1以降もいくつかのエピソードが続いているようなので、
できればまた新たに翻訳を刊行してほしいところ。どうでしょうか、ヴィレッジブックスさん。
原書で読めって? はい、ごもっともです…。まあとにかくおススメの1冊。読めよぉー。