Fables vol.1 "Legends in Exile" (翻訳その1)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたファンタジーコミックです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
※なお翻訳はシロウトが趣味で行っています。意訳も多いので、細かい解釈で間違いがあるかもしれません。
<チャプター1:おとぎ話再考>
<むかしむかし…>
【タクシーから聞こえる声】
「急げ」
<ニューヨークと呼ばれる架空の街…>
【猛スピードで走るタクシー】
若者「もっと早く進めないのか?」
ドライバー「つばを飛ばさないでもらえますか、旦那? あっしをとてもイライラさせてるんですがね」
【金髪の若者がタクシーから飛び出し、建物に駆け込む】
若者「おつりはいらないよ」
ドライバー「どのおつりですって? あと25セントは払ってもらわないと!」
【建物の看板】
<ウッドランド・ラグジュアリー・アパート>
ドアマン「おや、ジャックじゃないか、今日は誰も見えないと思っていたが。このあたりじゃ久しぶりじゃないか」
ジャック「ハイ、ジョニー」
【あいさつもそこそこに建物内に入るジャック】
清掃員「ジャック、どうしたよ」
ジャック「急いでるんだ」
【案内板の文字】
<マネジメント関連>
【ドアに掲げられたプレート】
<ビジネス・オフィス S・ホワイト>
【ジャックが部屋のひとつに駆け込む。プレートには】
<セキュリティー・オフィス B・ウルフ>
ジャック「ビグビー!」
【探偵事務所のような薄暗い室内。中には無精ひげの中年男性】
ビグビー・ウルフ「息も絶えだえだな、ジャック。また豆の木にでも登ったのか?」
ジャック「ハァハァ…違う…。そっちこそ、子豚たちの家を吹き飛ばしたのか?」
ビグビー「少し忙しいんだ、ジャック。皮肉の応酬をするために走って来たのか、それとも何か用でもあるのか?」
ジャック「恐ろしい事件があった、いやあるんだ。事件が、恐ろしいことが起きたんだよ!」
【場面変わって、S・ホワイトのオフィス内】
スノウ「今、このビジネスオフィスに直接関連する唯一の問題は、あなたがどれほど獣のように見えるかということと、見られているかということです」
【ツノと牙が生えた大柄な男性。大きな牙のせいで、うまくしゃべれない】
ビースト「ほれは私のへいらない! 再ひ現れた古代の呪いのへいだ。この呪いは妻が結婚を受へ入えたときに消えらが、今は現れたり消えたりひれいる」
【その隣に座る美女】
ビューティ「ほらね、彼は呪いを私のせいにするって言ったでしょ?」
ビースト「君のへいらとは言っれいないよ、マイ・フイート。れも僕は獣の姿に戻っれいるように見えるららないか。そひて君は僕に対ひて怒っれいるように見える」
【デスクに座っている長い黒髪の若い女性】
スノウ「おっしゃることをより理解できればいいのですが、ビースト候」
ビューティ「彼はこう言ってるのよ。自分の呪いは、妻が激怒するくらい“自己主張”が激しいって。でも、千年近くも変わり映えのない結婚生活をしてみなさいよ。完ぺきかつ至上の愛と幸福なんて、誰が得られる?」
ビースト「問題は呪いら移行期間にあうころだ。私の牙は成長ひ続けれいうが、口はまらそえにフィットすうほろ成長ひていない。だからおかひなひゃべり方になう」
スノウ「あなた方が抱える結婚生活の難しさと同じくらいに残念ですが、それは私のビジネスではありません。“地下政府”の最低限のサービスをなんとか支えられるだけの資金と人員しか、我々は持っていないのです。率直に言って、我々は結婚カウンセリングを行う余裕はないですし、余裕があったとしても行うつもりはありません」
スノウ「些事は“地下政府”が解決してくれるように思うでしょうが、しかしこのフェイブル・コミュニティーにおいては、我々は一人ひとりが自分の生活を全うできると期待しています」
スノウ「我々の唯一の関心は、意図的にせよ・そうでないにせよ、あなた方が重大な法則『寓話禁止令』に違反しているということ。その呪いは私たちの魔法的性質を現世に知らせてしまうのよ」
スノウ「あなたが通常の人間の姿を維持できない、もしくはその牙とツノを隠すほどの魅力を得られないのなら…ルールに従って農場(ファーム)に続く州の北部へ移住してもらうことを通達します。あそこは他の人間以外のフェイブルズが暮らしているわ」
ビューティ「でも全財産と一緒にホームランドから脱出したわけではないのよ! 夫の呪いを覆い隠すほどの魅力を手に入れる余裕なんてないし、ギリギリ何とかやってきたのよ」
ビースト「ほれに、私たひの結婚生活や呪いを悪化さへるたくはんの問題もあるらないか」
スノウ「同情しますが、助けることはできないんです。たくさんの──私たちのほとんどと言ってもいいくらいのフェイブルズが、生まれた土地を失いました。肩書も財産も、敵勢力の手によってホームランドから失われました。我々は、自分にできることのベストを尽くさなければならないんですよ!」
【室内の様子が明らかになる。室内には巨大な石像や巨人用?の武具、高さ数十メートルはある枯れた木などがある。建物以上に大きく見える】
スノウ「フェイブルズの“地下政府”は、多くの難問を抱えています。深刻なオーバーワークと無駄遣いに直面しているんです。となれば、我々にできる最善のことは、私たち“追放者”のコミュニティーを団結させることです」
スノウ「我々は仲間たちに課税するだけの力さえありません。半分の時間で寄付金をやりくりし、半分の時間でそのわずかな寄付金を毎年得るためにペコペコして回っているの。だから、信じてください。この状況を片付ける手助けはできないんです」
ビースト「ひかひ、君は我々の実際の市長れはないんらろう?」
スノウ「その通り。私はフェイブルタウンの市長ではなく、彼の代理です。もしコール老王にアポを取って直接身の上話を聞かせたいのであれば、それは越権というものですよ」
スノウ「しかし、そうしたとき何が起きるかは教えてあげましょう。彼はあなた達の話を聞き、その窮状についてどれだけ哀しんでいるか、もっともらしいことを言うでしょう。彼の同情は正真正銘の本物なのよ、彼は信じられないくらい共感しやすい人ですから」
スノウ「そうしてあなた達が去ったその瞬間、あなた達の問題について、『君はどうしたい?』と私にたずねるの。それが私たちの仕事のやり方なのよ。彼は公式な歓待を行い、ホストとのお披露目を儀式的なものにする。私がフェイブルのコミュニティーを動かす実務を担うというわけ」
スノウ「言いにしろ悪いにしろ、ともかくあなた達は地下政府に訴えを起こしました」
ビューティ「あなたは数世紀前に王子と離婚しているでしょ。そんな人はこんなに長く結婚生活を続けるのがどれほど難しいか、何の理解もできないでしょうね」
ビースト「個人攻撃に立ち入ってはいけないぞ」
ビューティ「個人攻撃をするな? 彼女が公然と私たちの結婚を批判した後でも?」
スノウ「そんなことはしていない!」
ビューティ「この人は誰にでも個人生活を批判するような人なのよ。この人と7人の小人との下品な“冒険”のことも聞いたわ」
【スノウが怒りの表情に変わる。後ろで見ていた少年のアシスタントが助け舟を出す】
ブルーボーイ「皆さん、ビジネスのお話はいったん持ち越しましょう。ホワイトさんは次の約束がありますので」
ビューティ「でも…」
【ブルーボーイ、ビーストとビューティを部屋の外へ送る】
ブルーボーイ「お越しいただきありがとうございました。いつでもお越しください」
ビューティ「でもまだ話は終わってないわ!」
ブルーボーイ「ええ、そうでしょう、あなたの最後のお言葉によればね。でもいくつかの話題を絶対に取り上げないよう、私からアドバイスです。『体の衛生についてブリッジ・トロールと議論するな』、『キャセロールのレシピを“黒の森”の魔女と交換するな』、とりわけ言っておきたいのは……『市長代理と話すときは、小人たちのことを口にするな』!」
【あきらめて2人は帰っていく。そばからビグビー・ウルフがやってくる】
ブルーボーイ「さよなら、ミスビューティ、ビーストさん。お気をつけて」
ビグビー「ブルーボーイ、ボスはいるかい?」
ブルーボーイ「ええ。でもすごく機嫌が悪いですよ」
ビグビー「もっと悪くなるだろうな」
【場面変わって、街の大きなステーキハウス。ウェイトレスがハンサムな黒髪の男性に話しかける】
ウェイトレス「ランチはお楽しみいただけましたか?」
ハンサム「とてもね。どうもごちそうさま、モリー」
モリーと呼ばれたウェイトレス「ステーキはいかがでした?」
ハンサム「ステーキ? ポテトの下にあったな」
モリー「まあ! ジョークがお上手な方ですのね」
※「ステーキはどうでしたか?(How did you find your steak?)」 という質問に対する古典的なジョーク。
ハンサム「お上手だって?」
モリー「そうですよ、他になにかございませんか?」
ハンサム「いや、食事はもういいよ、お互いに親しみ合えた午後を過ごせたしね。君の電話番号を聞きたくなるくらいに誘惑されたよ」
モリー「私だって、番号を教えてしまうほど誘惑されましたわ。実は私、シフトが空いてるんです。私の家までご一緒しません?」
ハンサム「それは素晴らしいね、モリー。でも、ちょっとした問題があるんだ。僕は無一文でこの店に来たんだよ。お腹一杯になったら食い逃げしようと計画していたんだ。しかし君の家へ一緒に行くとなると…いささか無様な瞬間を見せてしまいそうだな」
モリー「ホントに? 無一文なの?」
ハンサム「まったくもって完全にね」
モリー「だけど私の家に行きたい?」
ハンサム「それが一番の希望だな」
モリー「そうね、お勘定はどうにかなりそうだし、私が会計をもつこともできそうよ」
ハンサム「優しいね、モリー。もう君にメロメロだよ」
【仕事を終え、私服に着替えたモリー。ハンサムと一緒に店を出る】
モリー「あんなイケてる出会い方をしたんだし、そろそろ名前を教えてくれないかしら?」
ハンサム「もちろん、『チャーミングな王子様』だよ」
モリー「それはそうよ。でもホントに何て名前なの?」
ハンサム「財布を取りに行かなければならないと認めるのは、実際恥ずかしいものだね。毎日使ってたあの財布なら、自分の名前も思い出させてくれたんだけど」
ハンサム「でもそれがそんなに大切なことかな、ダーリン?」
【場面変わって、スノウのオフィス。彼女のデスクに腰掛けているビグビー・ウルフ】
スノウ「何か用かしら、ウルフ。いま忙しいのよ」
ビグビー「悪いニュースだ。落ち着いて聞いてほしい、スノウ」
ビグビー「芝居がかった言い方はやめて。私の元旦那が街に戻ってきていることなら知ってるわよ。どうも、ついにヨーロッパの上流階級から歓迎されなくなったようね」
ビグビー「プリンス・チャーミングのことじゃない。君の妹、ローズ・レッドのことだ」
スノウ「ウルフ、私はバカじゃないの。妹の名前くらい知ってる。で、彼女が今度は何をしたの?」
ビグビー「未確認だが、彼女が失踪したという知らせを受け取った。事件の被害に遭った可能性がある」
スノウ「ええっ? どういうこと?」
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