Fables vol.1 "Legends in Exile" (翻訳その4)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたファンタジーコミックです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

【前回から引き続き、オフィスの地下室でジャックを尋問するビグビーとスノウ】

ジャック「青髭は尋問すべきうちの1人だよ。あいつの女ぐせは知ってるだろ。ローズが青髭のところを去ったのは、俺とヨリを戻すためだって知ったら怒り狂ったろうな」

ビグビー「青髭のところにはあとから行くさ。まず今はお前の尋問を終わらせる。お前はこの建物内の貸部屋に住んでいるな?」

ジャック「ああ」

ビグビー「しかしローズのアパートの部屋の合い鍵も持っていて、大抵の夜はそこで過ごしている」

ジャック「いつもはね。でも毎晩じゃない」

ビグビー「なぜあの夜はそうじゃなかったんだ?」

ジャック「正確には憶えていない。あの日は友達と遅くまで外出していたし、ローズを起こしたくなかったんだと思う。それで自分の部屋で寝たんだ」

ビグビー「なるほど、しかし遅くまで外にいたとしてもそうじゃなかったとしても、警備員のグリンブルはお前が帰ってきたのを覚えていないそうだぞ」

ジャック「グリンブルは警備員の机で寝ていたんだ、いつもみたいねに」

ビグビー「彼が寝ている間でさえどれだけの記録を付けられるか、知ったら驚くだろうな」

ビグビー「お前は何をするにも日頃からルールを無視しようとしていたな、ジャック。“セブン・リーグ・ブーツ”を盗み出して、ニューヨーク・マラソンで優勝しようとしたこともある」

※セブン・リーグ・ブーツ:一足で7リーグ(約34キロ)駆けることができるという魔法の靴。複数のおとぎ話で登場する。

ジャック「ボストン・マラソンだよ。最終的にはフェイブルタウンのみんなの注意を逸らすために、州外でやろうとしたさ」

ジャック「俺だって、どうやってフェイブルズの秘密を“こっち側”から隠す作法はわきまえている。『フェイブルズはクローゼットの中から飛び出て正体を明かすべきだ』、なんて言ってる狂信者たちとは付き合っていない」

ビグビー「それで、魔法の豆のありかを示した地図を売り払ったことについてはどうなんだ?」

※ジャックは「ジャックと豆の木」の主人公。

ジャック「それで何の規則を破ったっていうんだ。自分自身の財産だ。売り払ってカネを手にする権利はあるだろ」

ビグビー「地図がニセモノだった場合を除いてな。そもそもお前は、何世紀も前に魔法の豆を全部消費しているだろう」

ジャック「ご立派。俺は悪意のない冗談を今も昔も言い続けてきたんだぜ。それが何だっていうんだ? 確かに俺は生まれついてのトリックスターだ。けど、乱暴者じゃあない」

ビグビー「最近はな。だが以前、巨人殺し(ジャイアント・キリング)をやったこともあるだろ」

ジャック「それは全部、『大赦』前に起きたことだろ。ってことはつまり、同じことは2度と起きないってことだぜ」

※おとぎ話におけるさまざまな罪を放免にするような出来事があったと思われる。

スノウ「彼の言う通りよ、ビグビー」

【ビグビーとジャックの口論がエスカレートしていく】

ジャック「それとも何か? 『大赦』の庇護は、ホームランド追放後にポリ公になろうとして羊飼いの服を着た大喰らいのオオカミにしか適用されないってのか?」

ビグビー「口の聞き方に気をつけろよ小僧」

【叫ぶスノウ。眼には大粒の涙がこぼれている】

スノウ「2人ともやめて! これはあなた達のゲームじゃないのよ。私が知りたい質問は1つだけ。ジャック、妹は死んだの? あなたが殺したの?」

スノウ「そうして、あの子の死体をどこかにやってしまったの…?」

ジャック「まさか、そんなことするもんか。誓うよ」

ビグビー「ならお前のアパートの部屋の中を調べてもかまわないな? いや、待てよ。お前はいま、この地下室に住んでいるんだから、許可を得る必要もないか」

ビグビー「お前の部屋を調べるまで、ここで寝泊まりしてくれ」

ジャック「わかってるさ。逃げも隠れもしないよ」

【地下室を出ていくビグビーとスノウ】

スノウ「ローズを傷つけそうな人は思いつかない?」

ジャック「青髭しか思いつかないな。あいつは昔の生き方に戻ったのかもしれない。青髭が自分の妻に何をやってきたか知ってるだろ?」

ビグビー「それも『大赦』前の行為だな、ジャック、覚えているはずだ。そのことであいつを責められないぞ」

【ビグビー、地下室のドアを閉めカギをかける】

スノウ「泣いたりしてごめんなさい。プロらしい仕事じゃなかった」

ビグビー「別に謝ることはない。予想はしてた」

スノウ「あのときの気持ちは……ああ、わからないわ。ショックで心がマヒしちゃったのかしら。こんなことは起きたことないもの」

スノウ「でも私はデリケートなお花ってわけじゃないのよ、ウルフ。最悪のニュースを受け取る用意もできてる。もしローズが死んだと判断したのなら、そのことは率直に話してほしい」

ビグビー「必要があればそうしよう。約束する。しかしこれまでのところ、そんなことはなさそうだな」

【場面転換。街中のお菓子店でチョコレートを購入するスノウ】

ビグビー「気分はよくなったか?」

店員「6ドル45セントです、ホワイトさん」

スノウ「良くはないけど、落ち着いてきたわ。こういう場合、堕落だけが救いになるわね。チョコレートがすべての病をいやしてくれるわ」

ビグビー「ここから先は俺に任せてもいいんじゃないか?」

スノウ「そうはいかないわよ。さっきは少し冷静さを欠いただけ。一時の感情的な興奮を心配する必要はないわ」

ビグビー「そんなに自分を追い込むなよ、スノウ。一時的な興奮を律することは、容疑者の尋問するときには正しいやり方だ」

【再びウッドランド・ラグジュアリー・アパートに戻ってくる2人】

スノウ「次は誰に会うの?」

ビグビー「ジャックのアドバイスに従って、隠遁した青髭公に会うのさ。彼はまだビルの中に住んでいるよな?」

スノウ「ビルが建てられたときからね。1個食べる?」

ビグビー「甘いものは食わん」

【建物内の廊下でドアをノックするビグビー】

ビグビー「青髭は裕福だと聞いているが、それなら4階で何をしているんだ? もっとでかいアパートの階上に移ればいいのに」

スノウ「今にわかるわよ」

【スーツを着た巨体のトロルらしき人物】

トロルの執事「はい」

スノウ「事前に予約してあるわ。青髭が待っているはずよ」

トロルの執事「お入りください」

トロルの執事「こちらへついてきてください」

【部屋の中はまるで城そのものを思わせる構造になっている。建物以上の大きさがあるようだ。高価そうな彫像や調度品が置かれている】

ビグビー「なるほど、よくわかった。君のオフィスみたいに、小さなスペースに魔法で巨大空間を作り出しているのか。どうやったのやら」

スノウ「青髭は、ホームランドから財産を持ちだすことができた数少ないうちの1人よ」

ビグビー「財産だけじゃなく、この血なまぐさい城もな」

スノウ「うわさじゃあ彼は自前の地下通路を持っていて、ホームランドから他のフェイブルたちを密かに脱出させているらしいわ。敵勢力が侵攻した後でもね。でもその代わり、法外な金額を要求したとか」

ビグビー「追放者たちの財産は、敵勢力以上に青髭のやつの手に渡っているのか」

スノウ「そう言ってるでしょ。でも証拠はないでしょうね。“大赦”より前のビジネスのことだから」

ビグビー「この城全体を小さいアパートに押し込んでるんだ。青髭は魔法使いタイプの人間に大金を支払ったに違いない。あいつらは安い仕事はしないからな」

【部屋の前にたどりつく。大きな椅子に腰かけて2人を迎える青髭

トロルの執事「お客様です、サー」

スノウ「訪問をお許しいただき感謝します、青髭公。時間は取らせませんので」

青髭「遠慮はいらんよ。座ってくつろいでくれ。われわれの地下政府支援のための寄付金を集めに来たと推測するが。いつもは記念集会のときにコール老王に直接手渡しているんだが、今年は早めに集めたいと言うのなら…」

ビグビー「俺たちがいる理由はそれじゃない。この写真を見てくれ。おとついの晩、ローズ・レッドのアパートで撮ったものだ。この血は全部彼女のものだ」

青髭「なんてことだ」

ビグビー「知りたいのはなぜお前が彼女を殺したのかってことだ」

青髭「なんだと? よくもそんな…!」

スノウ「ウルフ!」

青髭を指さして糾弾するビグビー】

ビグビー「よくも何だ? 『よくも大量殺人者にそんな失礼な口が聞けるな』ってか!? これは貴様の仕業だろう、違うか? お前は彼女と結婚して、そして殺ったんだろう?」

スノウ「ウルフ、そこまでよ!」

青髭「君は無礼な男だ。謝罪を要求するぞ!」

ビグビー「謝罪なんかクソ食らえだ。お前が彼女を殺したんだろう。今すぐにでも逮捕する用意があるんだぞ」

ビグビー「裁判を召集してくれ、スノウ。この気取ったマヌケ野郎にローズ・レッド殺しの罪を課してやる。こいつは非協力的だ。たったひとつの質問に答えることさえ拒否しやがる」

青髭「何も質問していないじゃないか! 私は協力する気だぞ」

ビグビー「なら、すっとぼけずに質問に答えろ! 彼女を殺したのか?」

青髭「殺していない!」

ビグビー「どんな方法であれ、彼女を傷つけたことは?」

青髭「一度もない」

ビグビー「おとついの夜、どこにいた?」

青髭「この部屋だ。日中も夜もね。私は滅多に外出しないんだ」

ビグビー「1年前、あんたはローズとおおっぴらにとても親しくしていたな。それは恋愛関係だったのか? それとも彼女は公の場に連れてくる“トロフィー”に過ぎなかったのか?」

青髭「恋愛関係だ」

ビグビー「それで、彼女があんたを捨てて元カレのところへ戻ったとき、あんたは怒り狂わんばかりだったと?」

青髭「いいや。なぜなら彼女は私を“捨てた”ことはないからだ、君の使う言葉で言えばね。私たちはまだ付き合っているんだよ。自分たちの関係について慎重になることを学んだんだ」

【回想シーン。青髭とキスを交わすローズ】

青髭「1年前…記念集会の催しの日に、私とローズは婚約した。彼女なりの理由があって、ローズは婚約を1年間、秘密にしてほしいと要求した。私もそれに同意した」>

ビグビー「なるほど、たいした反論だな。彼は本当のことを言っているのか?」

スノウ「わからないわよ」

青髭「無論、真実を話している。私はウソをつかないし、この事件に関しては証明する手立てもある」

ビグビー「どうやって?」

青髭、デスクから書類を取り出し2人に見せる】

青髭「私たちは婚約を正式に文書にしたんだ。彼女の署名を確かめられるんじゃないか?」

スノウ「結婚を約束するために契約書にサインさせたの?」

青髭「金銭関係もあったからね。1年前、私は彼女に相当額の結婚持参金を払ったんだ。持参金というのはつまり、将来の花婿から将来の花嫁に支払ったお金を、そのように呼ぶのなら、ということだが」

【回想シーン。ベッドで逢瀬を楽しむローズと青髭

青髭「ローズ・レッドは私の婚約者だったし、いまもそうなんだ。もし彼女が本当に何かの被害に遭ったというのなら、私は個人的に復讐して、犯人を破滅させてやる」>

【椅子のひじかけにこぶしを叩きつける青髭

青髭「しかしまずは、報奨金をかける。この汚らわしい行為をしでかした犯人を捕えたやつには100万ドル払うぞ!」

(チャプター2終了)