Fables vol.2 "Animal Farm" (翻訳その13)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【反革命派が身を隠している森の中。レイナードを十数匹の動物たちが囲んでおり、その囲いの中心には大きなライオンが座っている】
レイナード「できる限りシア・カーンを追いかけたんだけど、それも長くは続きませんでした。あいつは俺に奇襲されてすぐにスノウ・ホワイトを追いかけましたから、こちらには注意も払っていないでしょう」
キング・ノーブル「それで奴は成功したのか? スノウ・ホワイトは死んだと?」
※キング・ノーブルは、レイナードと同じ物語「狐物語(きつねものがたり)」に登場するライオンの王様。
レイナード「分かりません、キング。カーンの尻尾にかみついたことで、一日に振り絞れる勇気は使い果たしてしまいましたよ。あいつがスノウを追いかけたあと、慎重に反対方向へ向かったくらいですから」
キング・ノーブル「我々の仲間はどれくらいだ?」
レイナード「多くはないです。ブレア・ラビットたちのグループとジャングル・ブックたちのグループは、他の少数のグループと一緒に革命派側にいます。とはいえ、大多数はどっちつかずの状態です。事態の推移を見ているんでしょう」
キング・ノーブル「もう一度、スノウ・ホワイトを探すのだ。彼女が生きていれば、我々も抵抗を続ける。もし生きていないのなら、正午の決起会の間に逃げ出すしかないだろうな」
レイナード「できるプランは少ないですが、それしかないのなら…」
【駆け出すレイナード。場面転換してファームへ。ファームの家々をたずねて回るウサギとモグラがいる】
ブレア・ラビット「革命の名のもとに、ドアを開けよ!」
ビリー・ゴート「なんだブレア・ラビット。なぜそんなに強くドアを叩く」
※ビリー・ゴートは「三びきのやぎのがらがらどん」に登場するヤギ。角が生えているので、トロルを殺したほうのヤギかもしれない。あるいは、「がらがらどん」はヤギ三匹の名前なので、Fablesでは三匹を一体のヤギとして描写しているのかもしれない。
ブレア・ラビット「おはよう、ビル。わが偉大な革命軍は決起大会にて君を招待する。決起大会は村の中央広場で正午からだ」
モグラ「必ず出席するように」
【今度はドールハウスのような小さな家を訪問するブレア・ラビット】
ブレア・ラビット「ドアを開けよ、親指トム。革命の名のもとに!」
モグラ「また親指姫の家に行っているんじゃないか? 一緒に朝帰りしたって聞いたことがあるぞ」
※親指トム、親指姫ともに童話の主人公。
【場面転換。スノウとシア・カーンが戦った現場までやってきたレイナードは、崖下に転がるカーンの死体を見つける】
レイナード「スノウ・ホワイトは見た目ほど無力じゃないぞ。いい傾向だ」
【一方、ウェイランド・スミスの洞穴では、スノウがハンマーとくさびを使ってウェイランドの足にかけられた鎖を切断しようとしている】
ウェイランド「いててっ! 脚を切り落とす気かよ」
スノウ「ごめんなさい、こういう道具は使ったことがなくて。魔法の鎖で痛みにたじろがないようにしてくれればよかったのに」
ウェイランド「鎖にかけられた呪文と身を守ることの間には、何の関係もないぞ」
スノウ「我慢してよ、ベストを尽くすつもりだから」
スノウ「うーん、でもこれではダメね。鍵をこじ開けられそうなものさえ見つけられればいいんだけど」
ウェイランド「スマンが、君が私の鎖を外すことについては…」
※ウェイランドを拘束する魔法の鎖は、逃亡を直接手助けする行為も禁止してしまう。前回参照。
スノウ「はいはい、黙ってて」
【そのとき、レイナードが洞穴にやってきて、床に落ちている鍵を指し示して言う】
レイナード「なぜここにある鍵を使わないんです?」
スノウ「レイナード」
レイナード「それとも、もう試したんですか?」
スノウ「レイナード、いつから見てたかわからないけど、ウェイランドが作ったその鍵は私の鎖の鍵だったの。使えるわけないわ」
レイナード「どうして? 同じような鍵穴に見えるけど」
スノウ「ふーむ…わからない。ウェイランド、あなたの鎖も開錠できると思う?」
ウェイランド「スマンが、君が私の鎖を外すことについては、魔法の効果で何の助言もできないんだ」
スノウ「なあんだ! あなた、逃げる手段を伝えられないだけで、自分で鎖を解く鍵を作っていたのね!」
ウェイランド「スマンが、君が私の鎖を外すことについては…」
スノウ「そのセリフはもうやめて。文字通りの意味よ、この鎖から抜け出すんだから」
【ウェイランドの鎖の鍵穴に鍵を入れて回すと、カチリと音を立てて開錠された】
ウェイランド「やっと気づいたか、間が抜けてるんだからよ。鍵のことに気づくまで、マジでここの道具全部試すつもりだったのか?」
スノウ「拘束でフラストレーションがたまっていることに免じて、無礼な物言いは許可します。だけど一回だけよ」
レイナード「お二人さん、議論している時間はないよ」
スノウ「あなたの言う通りよ。ファームの馬鹿げた革命が進行する前に手を打たないと…」
レイナード「プランはあるのかい?」
スノウ「たぶんね。ウェイランド、もう質問に答えられる?」
ウェイランド「ああ」
スノウ「聞きたい事は3つ。まず革命派のおバカさんたちが持っている銃器はどれくらいなの?」
ウェイランド「大量だよ。既存の銃器を使えるやつなら、みんなそれぞれ一丁は持っているだろう」
スノウ「じゃあ通信用の装備はどうなの? 彼らが持っているものや、ここにあるものは機能するのかしら」
【スノウ、作業棚に置かれている無線機を見ながら言う】
ウェイランド「まだ多くは機能しない。歴史に習えば、アマチュアの兵隊ってのは、意思伝達の手段よりも先に武器を調達するもんだよ」
ウェイランド「ここの電子機器のたぐいは、俺が銃器の改造を終えてからようやく組み立てたものだけだ。何か必要なのか?」
スノウ「通信機が欲しいわ。それと、谷にいた巨人たちのことなんだけど、なぜ彼らは寝ているの?」
ウェイランド「それは、どんな魔法が巨人たちを睡眠状態にさせているのかってことか? それとも、なんであんなにあり得ない生き物が存在しているのかってことか?」
スノウ「どっちでもないわ。とにかく、どうやったら彼らを起こせるのか知りたいのよ。レイナード、あなたはできる限り素早くファームに侵入し、味方や革命派以外の住人に『決起集会までに居住エリアから離れていたほうがいい』と伝えて」