Fables vol.3 "Storybook Love" (翻訳その1)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
<チャプター1:ネズミの警察は眠らない>
【青髭侯の執務室。小さなネズミが観葉植物のあいだから頭を出す】
レックス「人の気配はないようです、警部」
【ネズミの背中には、警部補の姿をした小人が乗っている】
ウィルフレッド「なら前進だ、レックス伍長。誰かが戻ってきて捕まる前に、この面倒な仕事を終わらせるべし!」
【レックスとウィルフレッドは、青髭の机の上に躍り出た】
<フェイブルタウン、春。平和で何の憂いもなし>
【場面転換。フェイブルたちの暮らす界隈を歩くビグビーとスノウ、ブルーボーイ。スノウは前回からの怪我はほぼ完治したようで、杖をつきながらも自力で歩いている】
タウンの住人「こんにちは、ビグビーさん、そしてスノウさんも。また元気な姿を目にできてうれしいですよ」
ビグビー「スノウ、もう手助けしないでいいのか?」
スノウ「一人で、かつ車イスなしでストリートを歩けるようになったら、手助けするのをやめるって言ったのはあなたよ。そう言ったからには、何がなんでも自分の発言を守ってもらいたいものね」
ビグビー「俺に付き添ってもらうのは飽き飽きだ、と?」
スノウ「付き添いはこれっきりよ。数か月間、活動停止状態だったけど、それはまた別の問題だし。もう普通の生活に戻りたいし、あなたは自分のオフィスに、私も自分のオフィスに戻るわ」
ビグビー「君のあの巨大なオフィスがあれば、普段のどおりに戻るなんて簡単だろう。まだ空き部屋だってあるだろうし」
スノウ「あの空き部屋はいつか確保するわ」
ビグビー「俺のオフィスはクローゼットほどの大きさしかないんだがね」
スノウ「あら、ビグビーさん、週に一回は私のオフィスで定期ブリーフィングができるでしょ。私が小さい部屋に押し込められる理由はないわね」
ビグビー「ブリーフィングすべきことはあまりないな。各地に住んでいるフェイブルズたちも、特に騒いでいないようだし」
スノウ「それは、いわゆる“ツーリスト”たちの報告に基づいているの?」
ビグビー「そうだ。だが、たった3人のエージェントで、世界各地のフェイブルズたちをカバーしていることは忘れないでほしい。かなり厳しいんだが…」
スノウ「それについて話すことはないわ、ビグビー。あなたに割り当てた予算額を、新たな悩みの種にする気はないの」
【近くのフェンシング教室から声が聞こえてくる。教室内には、長髪で髭をたくわえた男性講師が、生徒たちを前にして話をしている】
エドモン・ダンテス「生徒諸君、集合」
ダンテス「今日は特別講師を呼んでいる。卓越した剣技を持つ、2人の有名なソードマンだ」
※ダンテスはデュマの小説『岩窟王』の主人公。別名モンテ・クリスト伯爵)。
【ダンテスのうしろには、青髭とプリンス・チャーミングが並んでいる】
ダンテス「ひとりは、みんなもよく知っている青髭侯。インストラクターとして、何度もその優れた技術を教えてくださったね。しかし、皆はまだ彼の本当の剣術を見たことがない。というのも、彼を本気にさせるほどの技術には今もって到達していないからだ」
ダンテス「幸運にも、今日はもう一人の優れた剣士である、プリンス・チャーミングにもお越しいただいた。彼は、最近フェイブルタウンに居を構えたばかりなのだ」
ダンテス「試合をよく見て、彼らから学ぶように」
青髭「プリンス、君が望むなら、競技用の剣じゃなくて真剣に替えてもよかったんだが。“先に血を流した方が負け”とするためにもな」
青髭「さあ、子供たちに本物の試合を見せてやろうじゃないか」
プリンス「いやいや、それだと午後のたわむれとしては刺激的すぎる。うまく君の引き立て役をやってやるさ」
ダンテス「用意はいいかね、2人とも」
青髭「いつでも」
プリンス「ああ」
ダンテス「それでは始め!」