Fables vol.3 "Storybook Love" (翻訳その2)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

青髭の部屋を調査しているネズミのレックスと小人のウィルフレッド】

レックス「ウィルフレッド警部、あなたはスパイ活動を好かないと思ってました」

ウィルフレッド「好かん。というより、嫌いだ。紳士は他人の手記など読むべきではない。しかし、我々には仕事を選ぶ権利はないからな」

青髭の机の上にある日記に近づくレックスとウィルフレッド。日記には鍵がかかっており、ウィルフレッドはナイフでその鍵穴をこじ開けようとする】

レックス「その責務とやらが、私たちをファーム外で住むことを許してくれたわけですが」

ウィルフレッド「ファームをパトロールしていたほうがよかったさ。我々がタウンに送り込まれるときは、巨人たちを監視するときだ」

レックス「でもまだ任務のほうがいい。監視相手と言っても、フェイブルであることに変わりないでしょ、私たちと同じ。ちょっと大きいってだけで」

ウィルフレッド「とんでもない。フェイブルだろうと現世人だろうと、巨人どもであることに変わりはない。厄介ごとに巻き込まれなければ、我々としては万々歳なんだが…」

レックス「“我々”ってどういうことです? 私はマウスポリスを乗せるための、単なる野ネズミですよ」

ウィルフレッド「騎馬警官隊(マウンテッドポリス)だ、レックス伍長」

【カチリと音を立てて日記の鍵が外れる。表紙を持ち上げて中を読むウィルフレッド】

レックス「確かに。でもそれ、あなた方が作ったあだ名ですよね。私たちじゃなくて」

ウィルフレッド「“私たち”と“あなた方”という話をしているんじゃない。我々フェイブルズにとって何が起きるか、という話をしているんだ」

ウィルフレッド「ともかく、情報は正確だったようだな。これが青髭の手記だ。読んでいる間、周囲を計画していてくれ」

レックス「青髭もヤツの執事もフェンシング教室ですから、しばらくの間は安全でしょう」

ウィルフレッド「だろうな。だが猫や犬、その他のペットがいるかどうか知ってるか? 私は確信がない」

【一方、フェンシング教室での青髭とプリンス・チャーミングの練習試合。青髭の剣がプリンスの胸元に触れる】

ダンテス「止め! タッチ、青髭に先制点!」

【次はプリンスの剣が青髭の太ももに触れるが…】

ダンテス「ノースコア! プリンス・チャーミングの攻撃は無効!」

【場面転換、タウンを見回るビグビーとスノウ、ブルーボーイ】

ビグビー「ファームは大方もとに戻った。君の妹はまずまずの仕事をしているようだ」

【ファームから元恋人のジャックに電話するローズ。そのそばでは、会計係らしいアナグマが資料を読み上げている】

ローズ「ジャック、私に会いに来ることないわよ。私たちはこれ以上一緒にいる必要はないもの。別にあなたは最高のボーイフレンドってわけでもないしね。スノウを徹底的にイラつかせる手助けをしてくれたことには、感謝するけど」

アナグマ「来年必要な量以上の飼料用トウモロコシはあるが、冬小麦とスイートコーンは足りなくなるぞ。その他、搾乳場と養鶏場は生産上昇だ。ただしヤギミルクは除く」

ローズ「ともかくこれ以上、姉さんの存在に悩まされることはなくなったし、それは私にとって最高のことよ。だから、私たちはお互いに最悪の組み合わせだってこと、受け入れましょ」

アナグマ「がらがらどんたちは、またトロルと戦いに行ってるんだよなあ」

【ビグビーとスノウは喫茶店でブリーフィング。ブルーボーイは外で車いすに腰掛けて、店の前で2人を待っている】

通りすがりの現世人「ティファナ・タクシーは吹けるかね?」

ブルーボーイ「まあね。でも今のところ吹く気はないな」

※ティファナ・タクシーはトランペット奏者、ハーブ・アルバートによる一曲。

ビグビー「ローズは才能を開花させた。彼女はようやく君の影から抜け出せたんだ」

スノウ「必要最小限のことだけ話してくれる?」

ビグビー「お望みのままに、ボス。ゴルディロックスは未だ逃走中。足取りは完全に途絶えた。タウンはおおむね安全だが…」

スノウ「だが?」

ビグビー「だが、公務以外のことについては確信が持てんな。特にそれがゴシップ関係の話だった場合は…」

スノウ「話してもらえる?」

【再びフェンシング教室の場面へ。青髭の剣がプリンスの胸を突く】

ダンテス「有効! 青髭がリード、2対0」

【続けざまに得点する青髭

青髭「タッチ」

ダンテス「3対0、青髭が優位」

ダンテス「4対0」

【喫茶店でビグビーとスノウのブリーフィング】

ビグビー「プリンス・チャーミングが、三番目の妻、ブライア・ローズの家に住みこんだ。といっても、彼女の家のゲストルームを使わせてもらっているだけのようだが」

※ブライア・ローズは童話「眠れる森の美女」の主人公。

【ブライアの家で現金をせびるプリンスの1コマ】

プリンス「君の買い物リストにいくつか追加があるから、もう少し現金をもらえないか?」

スノウ「ブライアは二番目の妻よ。最初が私、次が彼女、三番目がシンデレラ」

ビグビー「オーケー。ともかく、彼はまたブライアと付き合い出したようだ」

スノウ「というより彼女の預金と、でしょ。まあ、私にまとわりつきさえしなければ、どうだっていいんだけど。ブライアが彼のことをガマンできれば、彼ら2人の影響力は大きくなるでしょうね」

ビグビー「いい意見だ、スノウ。あの女たらしとは距離を置いておけよ。当然、もっといい男からの呼び出しに備えてフリーでいるべきだろうな。あんまり高貴過ぎない男からのな」

スノウ「ああもう、口説くのはこれで最後にしてもらえないかしら。恋愛は興味ないって何回言えばいい? 年老いた犬用のエサ皿も骨もないのよ」

ビグビー「さてね。そいつが納得するまで言い続けてくれ。そいつってのは、つまり俺のことだが」

※ビグビーはスノウに好意を寄せている。かつてプリンスに不倫された過去があるスノウは、恋愛から距離を置きたいようだ。

【場面転換。フェンシング教室】

ダンテス「そこまで! 5対0で青髭候の勝ち」

青髭「ハッ! 完全に避けたぞ」

プリンス「おめでとう、青髭候」

【気乗りしない返事をするプリンスに、青髭は過剰な余裕を見せる】

青髭「君もよくやったさ、もちろん。練習したばかりだったんだろ。旅行から帰って来たばかりなんだから、しっかり訓練すればいいさ。健闘したじゃないか、何も恥ずかしいことはないだろう」

プリンス「ああ、どうも。じゃあ失礼するよ」

【苦々しげな表情で立ち去るプリンス。青髭は人間姿の執事(本当は巨躯のホブゴブリンである)に話しかける】

青髭「プリンス殿はいつかこの敗北を乗り越えるだろうさ。来い、ホブズ、時間に遅れている。夕食の前に風呂に入りたい」

ホブズ「それはいいですな、サー」