Fables vol.3 "Storybook Love" (翻訳その9)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

青髭の屋敷。早朝、青髭が執事を呼びつけている】

青髭「朝食はどこだ? 何をやってる、ホブズ!」

【プリンス・チャーミングが現れる。両手にそれぞれサーベルとマン・ゴーシュ(受け流し用の短剣)を持っている】

プリンス・チャーミング「君の執事はいない。休暇を与えたからな。ここは俺たち2人だけ。用件を邪魔する者はいない」

青髭「用件? 何のことだプリンス」

プリンス「剣での勝負だ、青髭候。伝統的だろう?」

青髭「何を言っている、気でもふれたのか」

プリンス「部屋から逃げようとしたり、隠した銃や他の武器を取ろうとするなよ」

青髭「なんの話をしているんだ!」

プリンス「これから数分後に生きていたいのなら、剣を取って俺を殺すことだ。さもなきゃ俺が君を殺すだろうからな」

青髭「なぜそんなことをしなきゃならん」

プリンス「お前みたいな哀れな存在を消すためだよ。厳しい決断だった。だが一番の理由はスノウのためだ。ここ数年、彼女にひどい仕打ちをしてしまってね。そろそろ彼女のために何かしてやる時期かと思ってるんだ」

青髭「私を殺すことでか? それでなんになるというんだ。彼女には何もしていない!」

プリンス「知らないとは言わせん。お前の日記を読んだぞ。直接にではないが、俺のスパイが報告してくれた。ビグビーの殺害計画も知っている」

【結局、ウィルフレッドはプリンスのところまで報告に戻れたようだ】

プリンス「理解したくないが、彼女はあの不潔なオオカミ男のことが好きらしい」

青髭「それがなんだと…」

プリンス「おっと、スノウがビグビーとどう付き合っているかは知ってるな。彼女はこれまで、愛した相手に容赦なく裏切られてきた。だから彼女には相手をぶつか、不満を言うやり方でしか愛せないんだよ」

プリンス「俺が彼女から好意を受け取るのはもう終わりだ。お互いを傷つけ合うようなものだからな。スノウの継母ほどじゃないが、俺の不倫は彼女にとって耐えがたいものだった。何度もあることじゃないとはいえ、後悔しているよ」

プリンス「とにかくまあ、どういう理由であれ、スノウはビグビーが好きらしい。個人的には不愉快な男だが、彼の殺害を許すわけにはいかないね」

青髭「貴様のような居直り強盗が、なぜ急に紳士らしくふるまう? 偽善で息が詰まってしまうぞ」

プリンス「それはつまりこういうことだ。俺くらい高貴になると滅多に怒らないが、ごくまれに無視できないこともあるのさ」

プリンス「さあ、時間稼ぎのおしゃべりは終わりだ。剣を取れ。嫌な仕事は片付けようじゃないか」

青髭「いいだろう、そこまで言うならやってやる」

青髭、サーベルを手に取る】

プリンス「そこまで言うさ」

青髭「フェンシング教室でやすやすと倒されたことを忘れたのか?」

プリンス「確かに。だが本物の剣と危険を目の前にしたら、少し違ってくるんじゃないか?」

青髭「ほざけ!」

【戦う2人。一方、場面転換して薄暗い森の中を歩くスノウとビグビーら】

スノウ「疲れたわ、ビグビー。足が棒よ。もう一度オオカミになって、私を乗せてくれたらもっと早く進めるんじゃない」

ビグビー「いずれな。だが今じゃない、しばらく待っていろ。あまり追跡者と距離を離し過ぎたくない」

スノウ「どうしてよ。逃げるべきなんじゃないの?」

ビグビー「常にそうとは限らん。とにかく走れば今回は逃げ切れるだろう。だがそれでは彼女に次の機会を与えてしまうことになる。いまのうちにいい場所を見つけて、この事態を終わらせるんだ」

【ビグビーは周囲を注意深く観察しながら襲撃ポイントを探す】

スノウ「彼女? 彼女って言った?」

ビグビー「ああ。ようやく敵の匂いを掴んだ。間違いなく女性で、おそらくフェイブルだ。かすかに近づいてくる音が聞こえるか?」

スノウ「チェーンソーの音?」

ビグビー「似ているが違う。推測だが、バイクのモーター音だ。近づいてきているが、こっちもようやく迎え撃つ場所を見つけたぞ」

スノウ「きっとゴルディロックスよ!」

ビグビー「だろうな。銃が好きで殺人狂で、君に敵対している女の変人フェイブルが他にいるか?」

【ビグビー、岩が重なってできた隙間を指差してスノウに言う】

ビグビー「ここに隠れていろ。君には安全なシェルターが必要だ」

スノウ「あなたはどうするのよ」

ビグビー「おやじから受け継いだ力を使わせてもらう。良い子でいる間は使わなくてもよかったんだがな。少しばかり乱暴に行くぞ」

【再び青髭の屋敷へ場面転換。青髭は左手に持っていたバスローブを鞭のようにプリンスの足に巻きつけ、彼を転倒させる】

プリンス「うっ!」

青髭「死体の王子様の出来上がりだ! 慈悲など与えんぞ!」

プリンス「必要ない!」

【振り下ろされた青髭の剣を受け止めるプリンス】

青髭「こんなの馬鹿げている! 俺たちが血を流す必要はない。金ならいくらでもあるんだ。退け、そうしたら運べるだけの金をやるぞ」

プリンス「物わかりの悪い男だな。お前を倒したら、すぐにお前の全財産をいただくんだよ。高貴さなんてそんなもんだ!」