Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その1)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

<March Of The Wooden Soldiers チャプター1:森を抜けて>

<3月、北サスカチュワン──どこよりも早く冬になり、どこよりも遅く春になる地。>

サスカチュワンはカナダの州。アメリカとの国境に接している。

【降りしきる雪の中を大型トラックが走っている。ハンドルを握るのは老年の男。その隣りにはロングヘアの若い女性と中年男性が座っている】

老トラック運転手「もうすぐでハイウェイ入口だ」

中年男性「そろそろラック・ラ・プロンゲを迂回し終えて155号線に出る。そうしたらプリンス・アルバートで朝食にしよう。で、サスカトゥーンで昼飯だ。渋滞につかまらなければね」

※ラック・ラ・プロンゲはサスカチュワンにある湖の名、プリンス・アルバート、サスカトゥーンはいずれもサスカチュワン州にある都市の名前。

若い女性「聞いたことない地名ばかりだわ。フェイブルタウンにはいつつくの?」

老トラック運転手「何日もかからない。明日には着くだろうさ。サスカトゥーンであんたを飛行機に乗せるよ」

若い女性「飛行機? 空飛ぶ機械のこと? 私、空を飛ぶの?」

中年男性「もちろん。心配ないよ、安全だし、みんな乗ってる」

若い女性「でしょうね。ここは不思議の国だもの」

※どうやら彼女はホームランドからニューヨークのフェイブルタウンへ避難する途中であるらしい。運転手らはその運び屋なのかもしれない。

老トラック運転手「あんたはその不思議の半分も知らないだろう。この世界では手紙を送るよりも安く、国境を超えてしゃべることができる。どの家庭にも、音楽を演奏する箱や情報を集める箱、それに人形劇を延々と見られる箱があるんだ」

中年男性「しかもボタンを押すだけで喜劇も悲劇も、好きなものが見られる」

若い女性「驚きね」

老トラック運転手「おまけにそれが上流階級だけじゃなくて、普通の家庭にもある。これが、俺たちが“現世”と呼んでいる世界なのさ」

【突然、乗用車がトラックの側面にぶつかってきて、その進行を妨害する】

中年男性「危ない!」

老トラック運転手「なんだ一体?」

【乗用車からは、手にナイフや斧を持った4人のゴブリンが降りてきた】

若い女性「ゴブリン? こんなところに?」

老トラック運転手「驚くことはない。ゴブリンの頭に棍棒やら斧やらを振り下ろすのは何年ぶりか。正直な話、待ち遠しかったわい。来い、息子よ。我が家のかつての仕事を教えてやろう」

中年男性「後ろは任せて、父さん!」

【場面転換。明け方のニューヨーク】

<北国では数週間か数か月かかってやってくる春も、ニューヨークでは少しずつその気配が見え始めている>

【眠っているスノウが誰かの気配で目を覚ます】

スノウ「誰かいるの? ねえ。誰かいるなら返事しなさいよ」

コリン「僕だよ」

【ファームで殺されたままの姿(生首)でブタのコリンが現れた】

スノウ「コリン! あんまり怖がらせないでよ。こんな真夜中にどうしたの?」

コリン「起こしてしまうつもりはなかったんだ」

スノウ「カーペットに血が垂れてるわよ」

コリン「すまない、どうしようもなくてね。でも僕が消えれば、血も消えるよ」

スノウ「消えるって死んでるのにどうやって?」

コリン「なあに、いろいろ考えたけど死ぬのもそう悪くはない。タウンとファームの様子はどうだい? 新しい三匹の子豚たちはよくやってる?」

※「新しい三匹の子豚」は、かつて巨人だったジョニー、ロニー、ドニーのこと。死んだコリンたちに代わって子豚たちの役割を果たしている。参照

スノウ「まあまあね。今はローズがファームを運営しているから、私はそんなに顔を出さなくてもいいの」

コリン「で、君は赤ちゃんたちを産まなきゃいけないわけだけど」

スノウ「赤ちゃんたち? 複数形なの?」

コリン「その子たちがタウンにいられなくなることは、君も知ってるはずだ」

スノウ「どういうこと? 何でここにいられなくなるのよ?」

コリン「それについては、今は話せない。いつまでこの場に留まっていられるか分からないからね。それと警告しなきゃいけないことがある」

スノウ「何を?」

コリン「間もなくひどい出来事がやってくる。本当に最悪の事態。君にとってじゃなく、フェイブルタウン全体にとっての最悪の出来事だ。それを止められなければ、現世人にとっても恐ろしいことになりかねない」

スノウ「何が起きているっていうのよ」

コリン「恐るべき事態だよ」

【このセリフとともに、先ほどのトラック運転手らとゴブリンたちの様子が描かれる。大型トラックは消え失せ、その代わり現場には2人の運転手とゴブリン達の遺体が打ち捨てられている】

コリン「生き残るためにはどうにか止めなきゃいけない」

スノウ「止めるって何を? なんでそんな暗号みたいに話すのよ。要点を教えて」

コリン「無理なんだ。話せることはすべて話したよ」

スノウ「それじゃ手助けにならないじゃない」

コリン「もっと話せたらよかったんだけど。前回は、君自身でどうにかできたじゃないか。回復してくれて嬉しいよ」

スノウ「完治じゃないわ。目まいのする頭痛と発作があるのよ。だからこれからずっと、この忌々しい杖が必要なの」

【そう言って手にした杖を指差すスノウ】

コリン「首を切られて棒切れの上に飾られたブタよりはましだろ」

スノウ「それもそうね」

コリン「さて、もう行かなきゃならない。目が覚めても俺が言ったことを忘れないようにな」

スノウ「どういうこと…コリン?」

【スノウ、夢から目を覚ます。場面転換。タウンのオフィスビルの入り口で、守衛のグリンブルがフライキャッチャーにあいさつする】

グリンブル「おはよう、フライキャッチャー」

フライキャッチャー「おはよう、グリンブル。ブルーボーイはもうオフィスを開けているかい?」

グリンブル「まだだ、自分で開けてくれ。ブルーボーイたちはまだ青髭の屋敷の地下で、戦利品を整理している。昨日の夜から一晩中だ」

【場面転換。青髭の屋敷の地下室で宝箱を数えるブルーボーイたち】

ブルーボーイ「これが最新の報告分です、市長。箱詰めの金貨5000枚、帝国印付き金の延べ棒50オンスが2200本、エメラルドシティーの銀貨が6箱分…これはまだ数えている最中です。ダイヤモンド、ルビー、エメラルドがバラで箱詰めされていて部屋に山積み。リストはまだまだ続きますし、隠し部屋も見つかっています。ここはまるで迷宮ですよ」

コール老王「素晴らしいじゃないか。おまけに故青髭氏はこっちの世界にいくつもの銀行口座まで持っていた。彼はフェイブルタウンでなんでも売り買いできただろう」

【そこへビグビーがやって来る】

ビグビー「市長、話がある」

コール老王「いいとも、いいともビグビー。だが今はダメだ、忙しいのでな」

ビグビー「そうはいきませんな。この数週間、あなたには避けられ続けてきたもんで」

コール老王「よろしい、では、しばし君に付き合ってから仕事に戻るとしよう」

【スノウのオフィスで掃除するフライキャッチャー】

フライキャッチャー「鏡よ鏡、俺の新しい嫁さんはまだ見つからないのかい?」

魔法の鏡「その方は別の世界、他の空の下におります。私の力もそこまでは及ばないのです、申し訳ない」

フライキャッチャー「でも探索は続けてくれてるんだろ?」

魔法の鏡「はいもちろん、毎日ね」

【再び場面転換。オフィスで話し合うビグビーとコール老王】

ビグビー「あんたは青髭を殺させるために、プリンスチャーミングを送り出したな」

コール老王「そんなことはしとらんよ! 彼が計画殺人をした疑いについては聴取を行った。しかしながら、彼は自衛のためだったと主張したんだ。それを覆すに足る証拠は見つけられなかった」

ビグビー「で、その聴取を即行で終わらせたから、あんたは青髭からの戦利品をリストアップできているってわけだ」

コール老王「口のきき方に気を付けよ、ウルフ」

ビグビー「青髭のやつは、合法的に捕まえるつもりだった。あいつは大赦後から長期間にわたって、フェイブルタウンへの避難民を助ける際に金をせしめていた。そのことについての証拠を集めている最中だったんだ」

※大赦:物語の中で罪を犯したフェイブルズを放免にする出来事があったらしい。

青髭は屋敷のどこかに地下通路を隠し持っていて、ホームランドからニューヨークへの避難民を受け入れビジネスを行っていたらしい。

コール老王「その証拠とやらを見つけるのに、どれくらい年月がかかったのやら」

ビグビー「合法的な仕事には時間がかかるもんだ」

コール老王「ならプリンスは君の仕事を何年も短縮したわけだ。スノウは君が務めを果たすのに申し分ない人物だと言っている。そのことについて、私に疑問を抱かせるべきではないぞ」