Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その5)

『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

【前回から引き続き、赤ずきんについての見解を述べるビグビー】

スノウ「聞きたかったんだけど、なんで戦争で戦ったの? あれは私たちの戦いじゃないわ、現世人たちのビジネスよ」

ビグビー「そりゃ短絡的な見方だな。オオカミは、成長とともに自分のテリトリーを守ることと、それを失うリスクを知る。俺たちフェイブルズは、どの現世人たちよりもはるかに長くこの国に住んでいる。この国のために戦う正当性も増すってもんだ」

スノウ「で、それが赤ずきんの話とどう関係するわけ?」

ビグビー「戦争中、俺は敵陣の後ろに配置され、そこで戦うことが役割だった。ほとんどひとりで、ときどきコマンド部隊と一緒にな。心配しなくても、俺の本当の姿はバラさなかったさ」

ビグビー「俺たちはしばらくして、敵軍の中に配置されることの利点に気づいた。脱走兵のふりができるんだ。脱走兵だと信じこませるには、文字通り、敵の手中に逃れればいい。1~2発だけ撃ったあとにな」

回想シーンのビグビー「イッヒ・ビン・アイン・ドイチャー・アメリカーナ(俺はドイツ系アメリカ人だ)! 祖国の人間と戦いたくない! わかるか?」

ビグビー「危険な賭けではあったが、敵軍に加わろうとして負傷した兵士にとっては、これ以上に説得力があるやり口はない」

スノウ「まさか! 赤ずきんが魔王軍によって送り込まれたスパイだって言うの?」

ビグビー「タウンに合流させないために、ゴブリンたちが赤ずきんを殺すために尾行してきた、と彼女が話していたな。たしかに理にかなっている。そうだろ? ホームランド侵攻の際にも、彼女は似たような経緯をたどって、ブルーボーイたちの守る城までたどり着いたそうだ。ブルーが言うにはな」

スノウ「それでも彼女が魔王軍のスパイだと?」

ビグビー「駐屯地を攻める際、魔王軍の司令官は決して生き残りを出さないようにしていた。ホームランド侵攻においては、常にそうだった。ならなぜ赤ずきんだけが生かされていたんだ? やつらは小間使いの女を必要としていたとでも? それと、カナダの<門>は200年近く閉ざされたままだったんだ。しかも<門>は反対側から閉じられていたんだぞ、こっち側からじゃなくて」

ビグビー「ではいったい誰が<門>を開けたんだ? 赤ずきんはどうやってゴブリンたちの車両の追跡から逃れたんだ?」

スノウ「それは彼女が言っていたじゃない。守備兵が彼女を守って倒れたあと、車を運転してきたって」

ビグビー「ああ。で、誰が彼女に運転の仕方を教えたんだ? 誰がゴブリンたちに追跡用の車両を与えたんだ?」

スノウ「自作自演だと?」

ビグビー「本当に赤ずきんが運転してきたのならな、ホームランドの誰かが教師役をこなさなければならないんだ」

<ゴブリン「こっちのペダルが進め、こっちのが止まれ。もう一個のペダルはギアチェンジに使うんだ」>

<赤ずきん「ギアって何?」>

ビグビー「しかし、いくらなんでもそれはあり得ないだろ」

スノウ「でもそれはあくまで推測だわ。決定的な証拠がない」

ビグビー「その通り、ここまではただの疑惑の集まりだな。そして俺は生まれつき疑い深いんだ。調べてみる価値はある、いいだろ?」

スノウ「何をするつもり?」

ビグビー「嗅ぎまわるんだよ。その間、コール老王の舵とりを頼む。新しい住民が増えて少しはしゃぎ過ぎてるようだからな。すぐにでも赤ずきんをタウンの市民にするつもりだろう」

スノウ「彼女の存在は、いいニュースには違いないわ。いいニュースは寄付金に貢献するのよ」

ビグビー「俺たちの市長はカネにしか興味がないようだ」

スノウ「どんな政府も資金なしには立ち行かないわ。彼の性格を正したいのなら、早く戻ってきて」

ビグビー「了解」

【場面転換。演説からウッドランドビルへと戻ってきたプリンス。入り口でホブズと話している】

プリンス「署名はいくつ集まった?」

ホブズ「67つです、サー」

プリンス「ファームへの最初の遊説で3倍、いや4倍にはなるだろう。あのスピーチは、ファームでなら特に効果的なはずだぞ」

ホブズ「でしょうな」

プリンス「今度はポスターが必要だな。赤と青と白を使ったやつがいい。我々には国旗はないから、この国の愛国者的な色を拝借しよう」

ホブズ「旗を描けばいい感じではないでしょうか?」

プリンス「いいアイデアだ、ホブズ。描き加えてくれ」

【ビグビーもやって来る。守衛のグリンブルに話しかける】

ビグビー「起きろ、グリンブル」

グリンブル「何です?」

ビグビー「しばらくの間…もっとかかるかも知れんが、旅行に出る。俺がいない間にやっておいてほしいことがあるんだが…」

【場面転換。ペントハウスで赤ずきんをもてなすコール老王】

コール老王「もっと子羊肉の照り焼きはいかがですかな?」

赤ずきん「もう結構ですわ。お腹いっぱいですの」

コール老王「ではワインは?」

赤ずきん「いいえ。本当にもう満腹なの。こんなにたくさんのごちそうは初めてです」

コール老王「健康を取り戻すためにも、あなたにはごちそうが必要ですよ。我らのホームランドを支配している怪物どもに虐待された年月を思えばね」

コール老王「ここではいくつの試験もありますが、ご理解いただきたい。どれも取るに足らないものですよ」

赤ずきん「どういう意味ですの?」

コール老王「ビグビーからいくつか聞き取り調査があるでしょう。すべての新規市民を相手に行っているものなんです。でもご心配いりません。あなたと不幸な出会いを果たしたあのときから、彼はだいぶ変わりましたから」

赤ずきん「どうことかしら、私はビグビーさんを知らないし、これまでにも会ったことはないわ」

コール老王「現在の彼のことではありません。かつて彼は貪欲なオオカミだったのですが…」

赤ずきん「オオカミ? なんてこと、彼はオオカミだったの? 私を食べた…? ここの人々は怪物だわ!」

コール老王「待って、そうじゃないんです!」

赤ずきん「私を見捨てて、レイプされて奴隷になるきっかけを作った男を紹介する。そして今度は、私を食い殺そうとしたオオカミに尋問させる気なの?」

コール老王「しかし…!」

【席を立って涙ながらに走り出す赤ずきん】

赤ずきん「ここは狂気の世界だわ!」