Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その10)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

【ウッドランドビルの前にフェイブルズたちの人だかりができている】

マフェット「またブルーボーイがトランペットを吹いているの? なんでいつもあんな悲しい曲ばかり吹くのかしら。しかも外で! あの演奏のせいで、善良な市民にどんな悪影響があるか! こういうことに対しては条例を定めるべきだわ。市長のオフィスに行って、それから…」

ビースト「ブルーは最近特に調子がよくないんですよ、ミズ・マフェット」

ビューティー「そっとしてあげましょう」

マフェット「静かに暮らすためのコストを支払って?」

【場面転換。ビルの玄関近くでブルーボーイとピノキオ、フライキャッチャーの3人が座っている。トランペットを吹くブルーにピノキオが声をかける】

ピノキオ「少し休めよ、ブルーボーイ。お前の曲を聞いて、みんな地面の中にまで落ち込んでるぜ。俺たちがカミソリで手首を切っちまう前に、少しは明るくさせてくれよ」

フライキャッチャー「ピノキオの言う通りだ」

ブルーボーイ「そうだな、やめるよ」

フライキャッチャー「俺らを頼ってもいいんだぜ。何かできることはあるか?」

ブルーボーイ「特に何も」

フライキャッチャー「コミックショップにでも行くか?」

ブルーボーイ「やめとく」

フライキャッチャー「駄菓子屋は? おごるぜ」

ピノキオ「そんなんじゃ傷ついたハートは癒せないぜ、フライ。一番確実なのは風俗だよ、俺らのおごりで」

ブルーボーイ「言い訳するチャンスもくれずに、赤ずきんに拒否されたんだ。彼女、どうしてあんなことができるのかな」

フライキャッチャー「女心を本当に理解できるやつなんて、いないさ」

ピノキオ「もっとブルーボーイを元気づけたほうがよさそうだぜ、フライ。もう一度トランペットを吹いてくれるぐらいに」

【そこへ人影が近づいてくる】

赤ずきん「私はあなたの演奏、好きよ」

ブルーボーイ「赤ずきん!」

赤ずきん「あなたに謝らなきゃいけないわ。ホームランド陥落のときから、あなたがまだ生きていたなんて思いもよらなかったの。突然あなたに会えたから、幽霊でも見た気分だったのよ。ショックだったし、パニックになって…。バカなことしたけど、許してくれるかしら?」

ブルーボーイ「許す? まさか! 許しを請う必要なんてないんだよ。君は何も悪いことを…ああクソ、うまく言えない」

【見つめ合って話す2人】

赤ずきん「いいのよ」

ブルーボーイ「とにかく君はきれいで、完璧で、僕はそんな君を心から愛している」

赤ずきん「それが真実で、現実になるものと思いたいわ。でもいろんなことが起きて、何年もの月日が流れた…。私は、かつてあなたが愛してくれた私とは違うのよ」

ブルーボーイ「そんなことないさ。僕らは歳を取らない。僕らの愛も同じだろう」

【ピノキオがうんざりした表情でフライキャッチャーに言う】

ピノキオ「おい、このクソ甘いメロドラマで吐いちまう前に殺してくれ」

フライキャッチャー「静かにしてろ、ピノキオ。あわてるな」

【2人の会話に赤ずきんが気づく】

赤ずきん「なに? 何か言ったかしら」

ブルーボーイ「ああ、すまない。まだ紹介してなかったね。彼はフライキャッチャー。カエルの王子様って名前のほうが知られてるかな」

フライキャッチャー「お会いできて光栄です」

ブルーボーイ「で、こっちがルームメイトのピノキオ」

ピノキオ「あんた、ヤギでも飲みこんだような顔してるな。一度会ったことがあったか?」

赤ずきん「いいえ、そんなことはないわ。会ったことはなけど、あなたのことは聞いたことがあるのよ」

ピノキオ「聞いたことがあるって、どうやって? 小さな王国にある、一番貧しくて一番小さな町の生まれなんだぜ、俺は」

赤ずきん「そうはいっても、あなたは私たちの間で伝説的な存在なんだもの」

ピノキオ「なら父さんについて何か知らないか? まだホームランドにいるはずなんだ」

赤ずきん「実物に会えるなんて信じられないわ」

ブルーボーイ「2人で話したいなら…」

赤ずきん「ごめんなさい、ブルー。まだ話すことはいっぱいあるの。どこか2人きりで話せないかしら?」

ブルーボーイ「もちろん、それなら僕の部屋に…」

赤ずきん「ここじゃダメよ、気が散っちゃうもの。昨晩、私が泊まったところへ行きましょう」

ブルーボーイ「え、ああ、いいよ」

【赤ずきんはブルーボーイの手を引いて、その場を離れる】

ピノキオ「変な女」

フライキャッチャー「おい、見ろよ。ブルーボーイのやつ、トランペットを置いて行ったぞ」

ピノキオ「信じられねえ。ブルーはこいつを肌身離さず持ってたのに」

【フライキャッチャーがトランペットを指差す】

フライキャッチャー「見ろよ、へこんでる」

ピノキオ「良くないサインだ」

フライキャッチャー「凶兆ってやつか?」

ピノキオ「かもな。あの女がトラブルの元だってことは確かだぜ」