Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その21)
※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
<3月29日、金曜日>
ニュースキャスター「ではローカルニュースに戻ります。昨晩、アッパー・ウェストサイドで開催されたブロックパーティーの収拾がつかなくなり、雑居ビル1棟で火災が発生しました。火はすぐに消し止められ、けが人はいませんでした」
ニュースキャスター「続いてのニュースです。昨晩、アッパー・ウェストサイドの家族が屋上でバーベキューをしていたところ、火の収拾がつかなくなり、雑居ビル1棟で火事が発生しました。火はすぐに消し止められ、けが人はいませんでした。さらに続いてのニュースです…」
【フェイブルタウンの戦いが終結した翌日、ローカルニュースで火災のことが報じられている。戦いの詳細が現世人に知れ渡ることは防げたようだが、スタジオでは、ニュースに対してひとりの成人男性が疑問を抱いている】
ケヴィン「あのニュースキャスターがしゃべってる内容を聞きましたか、マイク?」
ニュースキャスター「昨晩、アッパー・ウェストサイドの2つのストリート・ギャングが乱闘騒ぎを起こし、雑居ビル1棟で火災が発生しました。火はすぐに消し止められ、けが人はいませんでした」
マイク「何が言いたい、ケヴィン? 放送中だぞ、忙しいんだ」
【番組のディレクターらしい太った男性が、ケヴィンの疑問に答える】
ケヴィン「あのキャスターは、ほとんど同じ内容のニュースを3回に分けてしゃべってる。細かい違いしかないのに! 妙だと思わないんですか?」
マイク「どうでもいいローカルニュースをレポートしてることがか? ニュースが少ない日なんだよ」
ケヴィン「3回ですよ、3回! 気づいていないんですか! テープを巻き戻して確認すれば、1回にまとめてレポートできるはずです」
マイク「どういう意味だ? また俺にXファイルを見せるつもりか? お前はモルダー捜査官じゃあない。『真実はそこにある』かもしれんが、俺たちが扱うのは真実じゃない。事実だ。わかったか?」
ケヴィン「この話には続きがあるんです!」
マイク「何の話だ、もう時間いっぱいだぞ」
ケヴィン「同じ地域の住民たちが、奇妙なものを見かけたという報告があるんです。メン・イン・ブラックと空飛ぶ…」
【戦いを秘匿する呪文を解き、その代わりに豪雨を降らせたことで、バーバ・ヤガーや黒服たちの姿が、一部の現世人に目撃されたのかもしれない】
マイク「円盤か? 空飛ぶ円盤だって言うんなら、お前はクビだぞ、ケヴィン・ソーン!」
ケヴィン「空飛ぶベッドです。美女を乗せた」
マイク「出てけ!」
<3月30日、土曜日>
【場面転換。火災で廃墟になったビルの前に、喪服に身を包んだスノウとコール老王が座っている】
コール老王「これからどうするべきかね、スノウ」
スノウ「再建しましょう。これらのビルは、長く建ち続けるように建設されました。修理できるはずです」
コール老王「では、死者を弔ったあとにな」
スノウ「時間ですか?」
コール老王「ああ、さあ行こう」
【場面転換。ウッドランド・ビル内の地下と思しき場所に、喪服を着たフェイブルズらが集まっている。その中央には大きな深い井戸がある】
コール老王「倒れし戦友、クマのブー。そなたの身を魔法の底なし井戸にゆだねる。願わくば彼の魂が新たな生をさずかるか、この深みと魔力に抱かれ、安らぎを得んことを」
母クマ「ああ、私のブーちゃん! ママはお前を愛してるわ!」
【白い布に包まれたブーの遺体が井戸に投げ入れられた】
コール老王「次は?」
ビグビー「マウスポリスたちだ」
フライキャッチャー「彼らも戦ってたのか?」
プリンス・チャーミング「ああ、気付いた者は少なかったがね。彼らも勇敢によく戦った。それも非常に危険な任務を。ブルフィンチ通りでの戦闘が始まって火災が起きる前まで、彼らは敵中に散らばっていたんだ。マウスポリスたちは黒服たちの脚によじのぼり、そのひざの関節のネジを外して、やつらを行動不能にしたんだ。だが半数以上のマウスポリスたちが犠牲になった。任務を遂行したことで、倒れた黒服の体に下敷きになってしまったんだ」
【プリンスは、トレーにマウスポリスとネズミたちを載せ、それを井戸の中に投げ入れる。】
コール老王「彼らを魔法の井戸にゆだねる…。さてこれは?」
ビグビー「赤ずきんだ」
母クマ「何ですって?」
父クマ「膿んで腐った魔女の死体を、私のブーと一緒に埋葬するのか?」
フライキャッチャー「ウェイランドさんや他のフェイブルズもここに入ってるんですよ」
ビグビー「すまない。だがやるしかない。こいつは危険すぎる。トラブルを招かないためにも、こうするのが一番確実なんだ」
父クマ「なら、やってくれ。だが祝福の言葉は無しだ。この女にはもったない」
コール老王「これなるは我らの恐るべき敵にして名付けがたいほど卑劣な女。願わくば、彼女に終わりなき苦痛と拷問が与えられんことを」
【ブーやマウスポリスたちと同様に、ニセ赤ずきんの遺体も井戸に投げ入れられた。場面転換。ウッドランド・ビル内のどこかの部屋。部屋の壁一面に棚が設置されており、そこには黒服たちの頭部がずらりと並んでいる】
ビグビー「いい車イスだな、ブルー。よく合ってる」
ブルーボーイ「スノウがお古を貸してくれたんだ。彼女が必要になる前に返却したいんだけど」
ビグビー「治るさ。いい医者がお前の指を治療してくれるって聞いたぞ」
ブルーボーイ「スウィンハート先生は自信があるみたいだけど、僕は治るかどうか、確信がない」
ビグビー「良くなるといいが。お前の演奏は好きだからな」
ブルーボーイ「ホント? そんなこと一度も言ったことないのに」
【黒服たちに目を向けるビグビー】
ビグビー「こいつらは何かしゃべったか?」
ブルーボーイ「ずっと話してるさ。だけど重要なことは何も。お互いにぺちゃくちゃ意味のないことを話してるだけだよ。今は静かだけどね。寝てるのかな。こいつら、いつも同じときに同じ行動するみたい」
ビグビー「見張りを続けてくれ。時間をかければ、こいつらからは多くのものが得られるだろう。俺たちには、時間だけはある」
【ビグビーは部屋を出て行き、さらにビルの地下室らしき場所へと進む。そこには魔女のフラウと、十字架に貼り付けにされたバーバ・ヤガーの姿があった】
ビグビー「ニセ赤ずきんの様子は?」
フラウ「生きてるよ、驚いたことにね。だが魔力はない。こいつの魔力は毎日吸い取っているから、必要なだけこのままで維持できるよ」
ビグビー「数年間は無力化させたい」
フラウ「いいだろう。わたしゃ我慢強いんだ」
ビグビー「こいつ、話は聞こえてるのか?」
フラウ「ああ」
【ビグビーは、ピクリともしないバーバ・ヤガーに顔を近づける】
ビグビー「聞け、バーバ・ヤガー。お前は完全にひとりだ。俺とフラウ以外に、お前が生きていることを知る者はいない。食べ物も休息も楽しみも、仲間もない。俺たちだけだ。これはずっと変わらん。だから、魔王とそれらのことについて話す準備ができたら、いつでも知らせてくれ。自分なら耐えられると思っているだろう。だが、誰も長くはもたない。最後にはすべて話す、必ずな。それまでゆっくりしていてくれ」
<3月31日、そして幾日かが過ぎた>
【戦いが終わり、フェイブルズらの生活は少しずつ日常へと戻りつつある。市長選の選挙ポスターが貼りだされ、その前ではグリンブルとホブズが話している】
ホブズ「コール老王、これを見ましたかね?」
グリンブル「ああ。ちょっとうめいたあと、寝るって言ってたな」
【首をはねられたピノキオの体を検分するスウィンハート医師】
スウィンハート医師「ピノキオの体は木に戻ってしまった。こうなっては、もはや私の専門領域ではない」
フライキャッチャー「けど、この木にはまだ魔法がかけられてるでしょ?」
ブルーボーイ「それなら、とにかく修理はできるってことでは?」
【木陰で亡きブーのことを悲しむ父クマと母クマ】
父クマ「悲しいのかい、お前」
母クマ「憂鬱な気持ちだわ。ブーちゃんのことを考えていたの。あなたはまだブーのことを考えることがあって?」
父クマ「毎日だよ」
母クマ「そう。私、妊娠したみたい」
【ファームの納屋で静かに泣くローズ】
子ヤギ「どうしたの、ローズ?」
スティンキー「ボス、なぜ泣いているんです?」
ローズ「何でもないわ。ウェイランドがいなくて悲しいだけ…」
【庭園のベンチに座るスノウとビグビー】
スノウ「ビグビー」
ビグビー「んー?」
スノウ「生まれそう」
Fables Vol. 4: March of the Wooden Soldiers
- 作者: Bill Willingham,Mark Buckingham
- 出版社/メーカー: Vertigo
- 発売日: 2004/11/01
- メディア: ペーパーバック
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