Fables vol.5 "The Mean Seasons" (あらすじ翻訳4)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界「ホームランド」から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

 

チャプター4「春が来て……」

【シーン1】

ファームの一角で、何やら人だかりができている。その中心には、動物型のフェイブルズが倒れている。

ビースト「5人目の被害者だ。知ってる限り、5人目ってことだが」

一方、上空では、スノウの六つ子らが鳥たちとともに、楽しげに空を駆け巡っている。それを別のところから眺めるスノウと北風。

北風「あんな風に空を飛ばせるべきではない」

スノウ「どうして止められます? あの子たちは飛び回るのが好きなんです」

北風「孫たちは普通の子供ではないだろう」

スノウ「わかっています、北風さん」

北風「私たちは家族だ、スノウ。さん付けで呼ばなくともよい。お望みなら私のことをお義父さんと呼んでもかまわないのだぞ」

スノウ「それは適切ではないでしょう。私はあなたの息子さんと結婚していない」

北風は、話題を六つ子たちの教育方針に戻す。彼が言うには、六つ子らのような特別な子供には、特別な教育が必要だ。六つ子らは、歩かずに空中を飛び、いまだしゃべることもせず、また6人中3人は非人間族の見た目をしている。スノウはそれはわかっているものの、生まれつきの性質をどう教育すればいいのかと答える。

北風「無論、変身魔法を教えるのだ。遅くなればなるほど、習得できなくなるぞ。ビグビーはオオカミに変身することしかできん。母親と過ごしすぎたからな。孫たちも、せめて人間とオオカミの形態に変身するようになってほしいが……」

スノウ「それは……考えてもみませんでした」

北風「それと、なぜ孫たちはいまだにしゃべらないのだろうな」

スノウ「一週間後には誕生日です」

北風「うむ。時が過ぎるのは早い。あの子たちが話せるようになればいいが」

2人は話しながらファームの広場へやってくる。人だかりをみて、スノウはキツネのレイナードにたずねる。

スノウ「レイナード、何があったの?」

レイナードは今朝早くに、広場でメリーさんの羊の死体が見つかったのだと答える。スノウと北風が現場へ向かうと、すでにビーストとスウィンハート医師が検分をおこなっていた。

スウィンハート「ほかの4人と一緒だ。窒息死しているようだが、なんの痕跡も見られない。メリー、今は子羊を家へ連れていってくれ。検死しても得られる情報はなにもないだろうから」

メリーと呼ばれた女性は、子羊の遺体を腕に抱え、さめざめと泣きはらしている。

スウィンハート「いったい誰がやったのか、見当もつかん」

ビースト「殺人であるのは間違いないんだろう?」

北風「ゼファーのしわざだな」

ビースト「なんだって?」

北風「犯人はゼファー(西風)だ。生きている風だよ。私や私の従者たちと違って、固体化することはできんがね」

北風によれば、ゼファーは風の精霊の一種で、目に見えず、生き物の肺に吸入された空気を好むという。未熟なゼファーが肺に入り込み、その空気を奪われると、哀れな儀礼者は呼吸困難で死んでしまうこともある。

プリンス「そんな生き物、聞いたことがないぞ」

北風「ゼファーはわれわれの種族の中でも希少種だ。そして特にタチが悪い。産まれる前に殺せるなら、この手で殺しているほどにな。しかし、こちら側の世界でも生きていけるとは驚きだよ」

ビースト「あなたが来るまで、そんな生き物はやってこなかったぞ」

スウィンハート「最初の犠牲者は、彼が来る前に亡くなっている」

ローズ「本当はもっと早くにこちらへ到着していた可能性もあるわ」

プリンス「あるいは他の可能性もあるぞ。木製人形たちの襲撃から1年以上がたつが、再び魔王軍が攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。姿の見えない暗殺者を送り込んできたのかも……」

北風「ありえないことじゃない」

プリンスは、魔王軍襲撃の可能性について検討するとともに、ホームランド奪還に向けた草案を練るためにタウンへと帰っていった。北風は、捜査のために残ったビーストに協力するという。

 

【シーン2】

そのころ、タウンのウッドランドビルの受付。副市長のビューティーが、床の汚れに憤慨している。受付にはビーストとの面会にやってきたカイがいるが、ビューティーに夫は不在だと告げられる。

 

【シーン3】

再びファーム。スノウは六つ子たちを連れて、ゼファーを捜索中の北風のもとへやってきた。スノウは北風に対し、先ほど話した変身能力を子供たちにトレーニングしてやってほしいと頼む。

北風「喜んで教えよう。ゼファーの探索を終えたらすぐにでも……」

スノウ「いえ、ぜひ今すぐ教えてやってほしいんです。時間がたてばたつほど、トレーニングの効果が薄れて、変身能力を身に着けられなくなるとおっしゃいましたよね。今がまさに訓練のときなんです」

北風はスノウの言葉にとまどうが、結局は変身のトレーニングを引き受ける。その言葉を聞き、スノウは六つ子らを北風に預けた。

「よかった。じゃあみんな、おじいちゃんと一緒にいるのよ?」

スノウは北風に耳打ちする。

スノウ「実は、あなたに預けたほうが安全だと思ったんです。見えない殺人鬼がうろついているんでしょう」

北風「なるほど。よい判断だ、スノウ」

一方そのころ、ビーストはローズのもとを訪れていた

ビースト「実際、北風氏とその精霊たちに手伝ってもらうほか、やれることはないんだよ。それで話っていうのは?」

ローズ「どうしてフライをクビにしたの?」

ビースト「クビに? いや、俺はフライキャッチャーを自由にしたんだ。ビグビーが細かい罪状で彼を延々と奉仕活動に従事させていたからさ」

しかしローズは、それは間違った判断だという。ビグビーがフライをビル清掃担当として従事させていたのは、彼を目の届く範囲に置くためだった。フライ自身も彼の仕事が好きであり、もし仕事を失えば、単なる気まぐれでトラブルを起こすだけでなく、妻子を探すためにホームランドへ戻ろうとするかもしれない。

ローズ「タウンに戻って、もう一度フライを逮捕するのね」

ビースト「わかったよ。この件が片付いたら……」

ローズ「すぐによ! どうせゼファー相手にできることはないんだから」

 

【シーン4】

タウンの小さなバーで、エドマン・ダンテスとツグミ髭が酒を交わしている。ダンテスはビグビーやスノウ、ブルーボーイ、ジャックらが街を去ったことを嘆き、ツグミ髭はフェイブルタウンが没落へと向かっているのではないかと懸念する。

 

【シーン5】

ファームを後にしてタウンへ向かうプリンス。スポーツカーを走らせながら、携帯電話でビューティーと通話している。

プリンス「有能な人材が必要だ、秘密を守れる人材が。そこでだ、ビーストのオフィスで海外居住者のファイルを見つけろ。そこに警備主任が有する3人のスパイの名があるはずだ。全員、フェイブルタウンの外で暮らしている。そいつらを呼び戻せ。今は私が市長なんだから、私のスパイでもある。連絡方法? 知らん。ファイルに書いてあるだろう。手段は問わない。多少、卑怯な手を使ってもな」

 

【シーン6】

夕闇の中、スノウは明かりもつけずに自室で一人、涙を流している。

子供の声「ママ?」

スノウ「来たのね。ずっと私を探していたんでしょう。一人で、ご飯の食べ方も知らずに。知らなかったの。ずっと六つ子だと思ってた。本当にごめんなさい。あなたのことに気づきもしなかった」

子供の声「でもママに会えたよ」

スノウ「わかってる。でもここにいちゃダメ。ほかのみんなに殺されてしまう。今から言うことを聞いて。もう二度と誰かの体内に入り込んで、その空気を奪ったりしてはいけない。それが動物でも」

子供の声「でも外の空気はおいしくない」

スノウ「それでも約束して。もう誰かの体の中に入り込んではダメ」

子供の声「守ったらここにいてもいい?」

スノウ「いいえ。あなたは遠くへ行かなきゃいけない。ここからずっと遠くへ。行ってお父さんを見つけるの。何があったか話しなさい。ビグビーならどうすればいいか知っているはず。あなたを傷つけさせることもないわ。できるわね?」

そう言ってスノウは部屋の窓を開ける。

子供の声「もちろんだよ、ママ」

スノウ「約束して、お父さんに会えたら、ずっと一緒にいなさい」

子供の声「ごめんなさい、ママ。ぼく、悪い子だった」

スノウ「行きなさい、早く! 誰かに見つかる前に……」

ゼファーとして生まれた7人目の子供を見送り、スノウは一人泣き続けた。

 

【シーン7】

それから幾日かが過ぎた。スノウと六つ子らが暮らす家で、子供たちの1歳の誕生日パーティーがおこなわれている。

スノウ「ハッピーバースデイ、みんな」

ローズ「ケーキは7つ分?」

スノウ「ええ。新しい『家族の伝統』なの。この子たちが大きくなったら、いつかわけを説明してあげるわ。さあ、プレゼントを開けましょう!」

("The Mean Seasons"、終わり)  

Fables Vol. 5: The Mean Seasons (Fables (Graphic Novels))

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