地獄の玉三郎

えーと、取り上げる作品と上に掲載されてる書名が違いますが、短編なんす。

『御破算で願いましては』所収の短編『地獄の玉三郎』を取り上げます、今回は。

(別の単行本にも収録されてるみたいだけど、よう知らん)

雁須磨子。いちおう少女漫画? ってことになるんすかね。あまり意味ないや。

ひと言でいうと、家族の再生の物語です。

長男をささいなすれ違いから事故で亡くした父、長女、次女の家庭。

崩壊、というほど荒れた家庭環境ではないものの、

のどにかかった小骨を無視するかのように、3人ともどこかで無理している。

そこへひょんなことからやってきた玉三郎。明るく、誠実で、悲しみを知る男。

彼が、ずれかけた家族の歯車を、ほんの少し軌道修正してくれるというお話。

こう書くとなんのこっちゃないストーリーだし、実際ボリュームも40ページしかない。

だけどもネーム(セリフやト書きね)の出し方、

キャラのちょっとした表情の描き方、シーン構成が絶妙で、

絵として描かれているストーリー以上のドラマを感じさせてくれる。

読み手に「ああ、何かあったんだな」と想像させる余地を与えてくれる。

ただ、深刻な感じでもなく、雰囲気自体はわりとユルい。

かつて雑誌『ユリイカ』の漫画特集で、

雁須磨子の作品はマンガ的お約束からズレてるのが特徴」と評されてましたが、

この短編にもそのズレは見られます。「えっ、そこをさらっと流すんだ」的な。

でも、いや、ホントにセリフ回しが上手いんだよ、雁須磨子は。

ほかの漫画だったらもっと長いであろうセリフを、

歯切れよく、ポンポンポンとごく自然な感じで読ませていく。

そのくせ重い言葉だってしっかりと、読者の心に響かせてくるんだから。

よくさー、ファミレスとかで隣の席の話が耳に入ることあるでしょう。

会話の端々だけが聞こえてる感じなのに、

なんでかしっかり人間関係とか把握できちゃってさー。あんな感じ。

人が会話している感じを再現しているとゆーか。

漫画的なカタルシスはない。ちょっとだけドラマ。

だけど・だからリアルで、身につまされる。そんな雰囲気。

ただま、実際に読んでみないとわからん面白さではある。なので読めよー。