モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル

「頭いいクセにバカ」っていう人いるじゃない。バカってゆーても、はた迷惑なバカじゃなくて、いい意味でバカってことで。要するにコメディとして笑えるバカ。 こと映画では、その“頭のいいバカさ”が重要になるけども、本作『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』は、英国紳士たちによる「極めて真剣なおふざけ」が際立った傑作でございます。 モンティ・パイソンそのものについては、各自で調べてください。ウィキペディアなりなんなりで。→「モンティ・パイソン」要するに、イギリスを中心とした英語圏で大きな影響力を与えたコメディグループです。 『~ホーリーグレイル』はそんなパイソンズによる劇場映画で、アーサー王と円卓の騎士による聖杯伝説をベースにしたパロディ作品。アーサー王の伝説っつーと、今日でもさまざまに研究されている人物であり、日本でいえばヤマトタケルのそれと同じく、国家(ブリテンね)の成り立ちにもかかわる重要な歴史物語でもある。 んが、当然、というか言うまでもなく、モンティ・パイソンのメンバーらにはそんなことお構いなし。全編にわたって、これでもかというくらいにアホなシーンが散りばめられています。 アーサー王に向かって王政批判を始める農民や、ニンフォマニアの修道女、崇めたてられることに辟易している神様なんかは序の口。黒騎士や「まだ死んでない」死人、「ニッ!」の騎士、首狩りウサギ(ボーパルバニー)などの名キャラは、現在でもコンピュータゲームやファンタジー作品のパロディにされるほどです。 主要人物も大概アタマ悪いやつらばかり。どう見ても戦闘狂・殺人狂としか思えない騎士ランスロットや“勇敢にケツをまくって逃げ出す”サー・ロビンなんかが、まったくもって英雄らしくない冒険、冒険ともいえんな、コントを繰り広げる。そもそも中心人物であるアーサー王からして、馬の代わりにココナツの殻をパカラパカラと打ち鳴らして旅をしているんだから、もうどうしようもない。 でも一見してわかるのは、この映画を作り手は明らかに教養をつんでおり(実際、パイソンの主要メンバーは名門大学出身者ばかり)、意図どおりに笑うには、視聴者にもそれなりの教養が必要だということ。 例えば、前述した王政批判する農民のシーン。「湖の女王の言葉に従って王となった」と発言するアーサー王に対し、農民は「王に任命されるには市民の委任が必要であり、湖の女王なんて話はバカげている。誰が信じるか」と切り返す。明らかに、西欧諸国(イギリス含む)における王政支配および王権神授説への皮肉。 また、聖なる手榴弾(ええ、手榴弾です)の使用法を説明するシーンでは、修道士が聖書を読みながらうやうやしく言う。 「聖なるピンを抜いてから3つ数えて投げる。2でも5でもなく、3である。 読み上げる数は3であり、3が読み上げられる数字である。 つまり4つ数えてはいけない。6はもってのほかである……」 と、こんな具合で延々と説明する。これなんかは、聖書や聖職者にありがちな仰々しい言い回しのパロディ。キリスト教圏でこそ最大限に光る笑いといえます。 こういった「一見するとバカだけど、知識と教養をもって生み出された笑い」こそが『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』の見どころでしょう。ウィキペディア情報で恐縮ですが、 「パイソンのメンバーの1人であるテリー・ジョーンズが中世の歴史学研究家であるため、 アーサー王伝説を扱った映画の中で最も時代考証が正しい映画だと言われている」 のだとか。※参照、ウィキペディア「モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル」 じゃあ前提知識が必要なのかというと、別にそうでもなく、全体的にはバカかつアホな作品なので、小難しいことはあとから考えればOK。比較的わかりやすい笑いが多いのでモンティ・パイソン未経験者でも楽しめるはず。もちろん、パイソンズのファンなら、もっと楽しめます。おススメ。 なおDVDはユニバーサルから出ていましたが現在は絶版状態。廉価版(上記画像)およびブルーレイ版がソニーから出ていますが、こちらは日本語吹き替えなどがオリジナルから少し改変されているそう。ご注意を。オリジナル版が欲しい方は下のユーズド品をどうぞ。ブックレットも充実してます。