WE3 ウィースリー

仮に、それぞれの国が保持している“漫画力”(があるとして)を計測した場合、
やっぱりそのパフォーマンスが最も高い国は、この国、日本だと思います。

だけども、それは日本産漫画の個々の作品すべてが、
他国の漫画より優れているということではなくて。

日本の漫画界の最大のアドバンテージは、その異常なまでの裾野の広さであって、
ひとつひとつの作品では、海外コミックであっても日本国の漫画よりも斬新で、
心を動かし、かつ面白いとうなってしまう作品がある。

何を当たり前のことを、と思うかもしれんですが、
ここらへんをきちんと認めないと、そのすごさに気付きにくい作品だってある。

とゆーわけでグラント・モリソン(作)、フランク・クワイトリー(画)による
アメリカのコミック『WE3 ウィースリー』。

生物兵器として改造されたペットの犬、猫、ウサギたちが、
廃棄処分から逃れるべく、かつて住んでいた家を目指して逃亡する……。
という至極シンプルなストーリーです。

「オウチ、カエル」、「イイイヌ、ヒト、タスケル」など、
生物兵器たちが語る片言の人語は、たどたどしいがゆえに、
彼らの友情と悲哀、優しさ、兵器としての葛藤などを飾り気なく伝える。
動物好き・ペット好きなら、まず感情移入してしまうこと間違いなし。

かといって過度にお涙ちょうだいな展開にはなっておらず、
適切な距離感を保ったまま読み進めていくことができるはず。
ほのかな温かさを感じることができるエンディングもグッド。

しかし、何より素晴らしいのはそのビジュアル。特にコマ割りがすごい。

戦闘シーンや逃亡シーンではA4版サイズでの見開きでインパクトを演出し、
監視カメラによる映像(30~35ページ)は等間隔に並べられた合計108ものコマで
無機質感と緊迫感、そして“第三者の眼”的感覚を演出している。
この監視カメラシーンの作成にあたっては、
各コマのラフ画を108の小さなパネルに描き起こして、
配置の順番を検討しながら描いたそうな。(巻末の設定資料より)

コマ割りのなかでも特に圧巻なのは、50ページ~55ページの戦闘シーン。
小さい多数のコマを重層的に重ねることで、ページに奥行きを持たせつつ、
なおかつ複数の小さい流れ(頭部を撃たれた兵士がひざをつき、地に倒れるまで)を
同時並行でビジュアル的に表現することに成功している。

そして54~55ページでは、コマを立体的に配置し、
そのコマから飛び出ているようにキャラクターを描いている。
光学的な3D効果で飛び出して見えるんじゃなくて、
あくまで2次元的な描き方なのに、漫画の紙の上にキャラが飛び出て見える。

この立体的なコマ割りはぜひ一度見てしてほしいので、当該ページだけ載せます。
キャラが、コマとコマの間を飛び移るように移動しているのが分かる。

著作権は作者と出版社に帰属します。

作者であるグラント&フランクは、本作のコマ割りに徹底的にこだわったようです。
巻末の解説でも、意図的にこうした新しい手法に挑んだことが述べられている。

私達は、ページを平らな二次元として捉え、その上にコマを置いていく代わりに、
仮想的な3D空間上でコマを「つり下げたり」「入れ替えたり」、
他のコマの上に別のコマを積み上げたりすることを選んだ。


パネルを使ってコマの配置を考えたり、ページやコマの概念を捉えなおしたり……。
大げさかもしれんですが、作者2人がやったことは
漫画の描き方へのアプローチそのものに対する挑戦といっても過言ではないと思う。
極論すれば、この1シーンだけでも本作はこの世に誕生した価値がある。

もちろん、オレが未熟なだけで、
本作のような手法で魅せた作品が以前に存在したかもしれんです。
けども、今のところ、同様の演出方法が成功した日本漫画には
お目にかかった記憶はないです。

物語は100ページちょいと比較的短いですが、
徹底して練りに練られまくったビジュアル&演出のおかげで
ページ数以上の読み応えが感じられます。

日本漫画にはない演出方法を活かした作品を読んでみたい人、
ストーリーだけでなく見せ方にもこだわった作品を読みたい人、
そしてイラストや漫画の制作を趣味・仕事にしている人に読んでほしい。
コミックには“まだまだ先”があることを信じさせてくれる1冊。