BLAM!

リエーターの資質のひとつに、いわゆる“センス”ってやつがありますな。

Yahoo!辞書の大辞林の解説によると、センスってのは
「物事の感じや味わいを微妙な点まで悟る働き。
                感覚。また、それが具体的に表現されたもの」
だそうですが、まあそんなこといわれてもピンとこないくらい、説明しがたい概念です。

だけども、「センスがあるか・ないか」は、何となくわかる。
また、「これは他と違ったセンスだぞ」というのも、何となくわかる。

本作、弐瓶勉『BLAM!(ブラム)』も、そんな“センスのある”漫画です。
しかし、センスがあるっつーても、別に某NANAみたいな、
ファッショナブルなオシャレ漫画じゃあないです。
(あれをオシャレ漫画としか認識できないが僕の限界です、先生!)

ここでいうセンスのよさとは、SF漫画としてのセンスのよさです。

ちょっと説明しますと、本作は、いつとも知れない未来の世界を描いたSFアクション。
人々は何らかの災害で超高度ネットワークへのアクセス権を失ってしまい、
AIから排除されるようになってしまった世界が舞台です。
主人公の霧亥(キリイ)は、アクセス権である「ネット端末遺伝子」を持つ人間を探し求めて、
無尽蔵に成長し続ける都市構造体の中をさまよい続ける……というのが大まかな物語。

いちおうそのようなメインの軸があるんですが、
実は本作はあまり…というかほとんどそういった説明がなされない。
説明口調のセリフは少なく、ト書きもほとんどない。もちろん巻末解説なんてのもない。
キャラの会話の端々や、ビジュアル的な描写から読み解いたり、
あるいは推測したりすることが求められる。

この突き放し感によって、SFが持つドライさ・無機質さを極限まで引き出している。
これです。これがセンスのよさです。粋、といってもいい。

えてしてSFってやつは、「俺の考えた設定!」を説明しようとすればするほど
作品として野暮になってしまいがちですが、
本作は推測しできるギリギリの取っ掛かりを描きつつ、絶妙なところで読者一任している。
その取捨選択っぷりが上手い。センスあるなと思える。

そしてその各種の舞台設定もセンスが光る。
例えば本作では、建設者と呼ばれる機械によって都市構造が縦横無尽に拡張されており、
成層圏はおろか、宇宙にまでダンジョン的な都市が広がっている。
なので、読者である私達の世界とは建築物や階段などの大きさがケタ違いなんだけど、
そのビジュアルをさも当たり前のように描写しており、読んでいてクラクラする。
あたかも天体の大きさ比較図のような、あの圧倒される感じ。センスがいい。

また、登場するSF的小道具のネーミングもイカす。
重力子放射線射出装置」、「珪素生物」(これは別のSF作品にも既出だけど)、
「ネット端末遺伝子」、「超構造体(メガストラクチャー)」、「ネットスフィア」、
東亜重工」、「生電社」、「電基猟師」、「統治局」、「セーフガード」、
「基底現実」、「予備電子界」、「塗布防電」、「防磁繭」、「重力炉」……。

ハード、としか言いようのない、炸裂しまくっている言語センス。
声に出して読みたいSF単語のトップ10に入るんじゃないかと思うくらいです。
重力子放射線射出装置、リピート・アフター・ミー、重力子放射線射出装置
あとなぜか擬音語もうまい。
「ガヂャ」、「ドドシュ」、「ヴッ」、「シャキ、サク」とか。非人間的でグッド。

SFってジャンルは宿命的に“新しいこと”を描かなければならないので、
マクロ・ミクロ、両方のレベルでの作り込みが必要なんだけど、
そういうときに“センスがない”となると、
設定上は未来の宇宙のストーリーであっても、「どっかで見た」レベルにとどまってしまう。
そして、「どっかで見た」は、単なる“古さ”以上に“古臭さ”を感じさせてしまうわけ。

だけど本作は、何度も言うように作者のSF的センス(「感度」と言ってもいい)が高いので、
非常にオリジナルで新しく、かつカッコいいセンス・オブ・ワンダーが楽しめる。

ある程度のSF的好きでないと気軽に読むのは苦しいかもですが、
非常に独特な世界観を堪能できるし、セリフのない絵を眺めているだけでも楽しいので、
食わず嫌いせずに読んでほしいなと思う1冊。