山原バンバン

地方コミックというものがあります。
東京ではなく、それ以外の地域で出版されたコミック。
さらにその地方コミックの中に沖縄コミックというものがあってですね……。

……あっ、バカにされてる予感。

まーいいや。大城ゆか『山原バンバン』です。
やまはらバンバン、ではありませんよ、やんばるバンバンと読みます。

…と思ったけど、裏表紙みたら「YANBARA BANBAN」と書いていた。
語感の良さを重視した変読みか。「山原」という語句自体は「やんばる」と読みます

沖縄の山原(やんばる)エリア、つまり本島北部を舞台とした漫画なんだけど、
なんと主人公が女子高生。しかも描かれるのは、毎日のゆる~い日常。
そう、ズバリ本作は沖縄版「らきすた」なのです。ウソつけって? うん、ウソ。

まあ小話はいいんだよ。

本作は沖縄の漫画家によって描かれて、沖縄の出版社で発行された天然モノ。
セリフは自然なウチナーグチだし、登場するのも等身大の沖縄県民。
まあ1994年発行ということもあって、いささか昔の描写もありますけれど、
それでも、沖縄県民が読んでさえ驚くくらい、“沖縄らしさ”を漫画で表現している。

例えばこんな何気ない会話。
主人公の夏美(県民は「なつみー」と語尾を伸ばす)と、
野球部の男子生徒・つよしの会話。

夏美「うそ、つーよーレギュラーね」
つよし「あと2回勝ったら甲子園どお」
夏美「スゴーイ。相手はー? 今日の相手」
つよし「沖水
夏美「へー」
つよし「やー勝つんり思とーねんさに」(お前、勝つと思ってないだろう)
夏美「思ってる思ってる。へー甲子園か。スゴイねぇ」
つよし(思ってない…)

わかる? この……なんつーか……わかる? 
読んでる端から脳内でウチナーなまりに変換されるこの感じ。
沖縄県民にしかわっかんねーのだろうなあ。もちろん、別の方言では、
別の地方出身者にしかわからないニュアンスがあるんでしょうけども。

方言だけじゃなくて、細かい、けど大したことのない日常生活の描写。

沖縄県民だからといっても、女子高生は日焼けを気にする。
・ゴキブリは飛ぶからこわい。
・女子高生の夏休みのバイトといえばアイスクリンだ。
・山原の住民からしたら那覇は都会だ。
・「だー」と「とー」の汎用性の高さは異常。
・高校生でも飲む。
・沖縄のオバーたーは元気、というかバイタリティがある
・学校で甲子園中継見るなら職員室。
・甲子園で沖縄の高校が勝っていると、おばさんたちは小躍りする。
・夏祭りではカチャーシーを踊る。これは全員踊る。
・夏は石灰岩の道の照り返しがまぶしすぎる。
・祝いの席には、いつの間にか知らないオジー・オバーが増えている。

物語の本筋とは関係のない細かい描写なんだけど、こういうところがすごくリアル。
いやホント、“リアリティは細部に宿る”とは、よく言ったものですよ。

ぶっちゃけた話、沖縄の自然とか、豊かな心とか、
観光名所の紹介とか沖縄豆知識とか、そんなものは一切ない。
ただ沖縄独特のゆるやかな空気の中で、女子高生視点での日常が描かれるだけ。
でもそれが「いい!」んだし、それでいいんだなー。

沖縄の時間・空間・県民性を理解・共有できる人にとっては、間違いなく名作。
絵柄も玖保キリコみたいでかわいいです。そう言う意味では女子向けかも。