炎の筆魂―島本和彦傑作選
漫画読みの間で、結構な知名度&評価はあるけれども、
そのキャリアの割には、一般からは過小評価されている漫画家なんでは?
と思います、島本和彦という漫画家は。
そこらを歩く人に「島本和彦って知ってる?」と聞いても、いまいち反応がよくない。
こんなに実績と知名度のギャップがある漫画家は……まあ他にもいるだろうけど、
あんまりいないんじゃないのかしらん? と思ってしまうわけです。
収録作品は、『根性戦隊ガッツマン』、『ちょっとだけUターン』、『アカデミー』、
基本的に全作品とも、やたらと「!!」と集中線が多用されており、
作者の他作品に負けず劣らずイキオイがあります。
なかでもおススメは『根性戦隊ガッツマン』と『アカデミー』。
『~ガッツマン』は、なんと声優の宮村優子がビデオレターで
直々にお願いして描かれたという、あまり類を見ない経緯で誕生した作品。
突如、未来の地球人に侵略された現代の地球を、
なんの武器もないけど根性だけは腐るほどあるという5人組が救う、というお話。
もちろん、宮村自身も主人公=ガッツマンのリーダーとして登場します。
短編なんだけど、いろいろ展開できそうな熱量と情熱を感じさせる1作。
ガッツマンの変身ポーズは必見。
泣きながら「こ 根性ーーーッ!!」と叫ぶ宮村もちょっとエロす。
あと、最後の「平和になるしかなかった」という一文もウケる。
『アカデミー』は、作者である島本和彦自身が、
あとがきで「久しぶりに読んでみたら一発でファンになった」というほどの傑作。
専門学校で映画の課題制作に入れ込む監督志望の主人公と、俳優志望のゴウダが、
よくわからない情熱とよくわからないパワーで、よくわからない映画を作るというもの。
よくわからないだらけですが、いや、ほんとに説明しづらいんだよ。
ホレた女のために戦い抜く、というありきたりなシチュエーションを、
マジメに、真剣に、愚直に映画にすると、
やけに笑えて謎の感動まで味わえる──、という稀有な作品。
たぶん、『バクマン。』で主人公らが目指した“笑えるマジメ”がこの作品にある。
もちろん、ほかの3作品もちゃんと読める作品ばかり。
笑える人は限られてくると思いますが……。
島本作品は、一般的に熱血漫画と評されていますが、
単に熱いんじゃなくて、制動を使い分けた熱さだし、
しかもまずキャラが自然に熱血して、それに読者が共感するように設計されているので、
読んでいて押しつけがましくない。
本作はそんな島本熱血の系譜が手軽に味わえるエッセンシャルです。
忘れたころに読み返しても、やっぱり笑えるというコストパフォーマンスの高い1冊。