富江

いえーい、ホラー漫画大好き。
でもホラー映画はちょっと苦手。だって恐いんだもん。

で、ひさしぶりに伊藤潤二先生の作品です。今回は代表作でもある『富江』シリーズ。

本シリーズは、1987年から続く作者のライフワーク的な連作短編で、
悪魔的な美貌を持つ謎の美少女・富江(とみえ)と、
彼女に破滅させられる人々(男&女も少し)の姿を描いたホラー作品です。

この富江という女性のキャラクターがホントに秀逸で、
日本ホラー漫画キャラクター大全を作ったら、間違いなく十指に入るほどぶっ飛んでいる。

年のころは10代後半、透き通るような白い肌に黒髪、
泣きぼくろが特徴のコケティッシュな美少女だけども、性格はまさに傲慢そのもの。

どんな男も恋愛の対象ではなく“利用するもの”であり、自分の命令を聞く下僕。
男をそそのかすためなら突拍子もないウソを平気で口にするし、
下僕となった男には、時には死ぬことさえ命じたりする。

自分以外の女性はすべて並みかそれ以下であり、
誰よりもちやほやされていないと気が済まない。友人もいない。自分自身しか愛さない。
それでいて孤独や虚しさを感じることもない。

その魔性の美貌に多くの男達はとりこになるんだけど、
富江の魅力に取りつかれると、なぜか彼女を殺し、バラバラにしたくなる。
いわく「八つ裂きにしても飽き足りない……富江はそう思わせる女だ」。

しかし恐ろしいことに、なんと富江は死なない。比喩でもなんでもなく、文字通り、死なない。
殺されても殺されても、どんなにバラバラに切り刻まれても、必ず再生・増殖する。

首を切断すれば、頭部側の切り口には胴体と手足が生えてきて、
胴体側の切り口には新しい頭部が生えてくる。
他人に移植した腎臓にも手足が生えてくるし、切り取った髪も放っておけば伸び続ける。
で、増殖・再生し、完全な人間体を手に入れた新たな富江は、再び男達を破滅へと導く。

これだけ読むとほとんど『バイオハザード』かよってな感じですが、
実は、富江自身が他人を殺したりすることはない。

精神的に追い込んで自殺を強いたり、他者を殺すように命じたりすることはあっても、
彼女自身が他人に直接手をかけたりはしない。そこがまた恐ろしいところでもある。
富江自身が人を殺すことはないということは、彼女を巡る人々の破滅は、
実質的にその人たち自身が引き起こしたということになるからだ。

富江はただ自らの妖しい美しさを誇示し、他人を魅了し、増殖し続けるだけ。
それだけで多くの人々が狂わされ、精神を病み、他人や自分の命を断ってしまうし、
そうさせるだけの魅力、というかほとんど魔力のようなものが、この富江にはある。

現在、富江シリーズは20を超えるエピソードが発表されてますが、
いくつか連作となっているものもあるので、時系列で読むほうが楽しめます。
作者の魅力のひとつである端麗かつ病的な描線も素晴らしいし、
どこか間の抜けたセリフも登場するので、伊藤潤二作品の入門としてもおススメ。
(一番最初のエピソードの「ご苦労さまでしたっ」とか)

手元にあるのは文庫版作品集の1巻・2巻だけなんだけど、
まだまだ“増殖”を続けているようなので、今後とも彼女の成長を見守りたいと思います。