関よしみ傑作集 マッドハウス

せっかくのホラー特集なので、たまにはオーソドックスな作品も。

関よしみマッドハウス』。短編集です。

関よしみは、ホラーMとかに代表される少女向けホラーに位置する漫画家。
もともとは普通の少女漫画を描いていたんですが、
1982年、伸び悩んでいた時期にたまたま描いたホラー作品がウケて、
それ以降、ホラー漫画をメインに描くようになった、とのこと。(Wikipedia調べ)

関よしみ作品の怖さは、ストーリーや絵の怖さというよりも、状況設定の怖さ。
つまり「もし~~だったら…」というシチュエーションの設定から始まって、
そこから恐怖をつむぎだしていくのが、大抵の作品に共通しています。

本書の収録作品からいくつかピックアップしてみますと……
・「マッドハウス」:念願のマイホームの隣家が“呪われた家”だったら…
・「愛の墓標」:愛を信じない大富豪の狂ったゲームに巻き込まれたら…
・「壊れた教室」:教師に認められたいがために壊れていくクラスメイトたち…
・「孤独な激痛」:他者の痛みを感じられる少女に待ちうける悲劇とは…
・「オーロラが殺す」:磁気嵐のせいで街中のコンピュータが狂ってしまったら…

……などなど。あ、ちなみに全7作品を収録してます。

どの作品も、特殊な状況下に追い詰められた人間たちが、
憎み、怒り、狂って、殺し合ったり、あるいは死に足を踏み入れていく。

特に上記の「愛の墓標」はトラウマ作品としても有名。
誰もが一瞬“フッ”と考えそうな狂ったシチュエーションを、
しっかり漫画として読ませるカタチに描きあげています。

個人的には、「オーロラが殺す」も、3.11を経験したあとだからこそ読んでおきたい。
でもまー、肉体的に残虐なシーンが多いので、読めない人もいるんだろうなー。

反面、オカルトな要素はあんまり見られない。(ゼロではないですが)
作者いわく「一番怖いのは人間」だそうなので、
例えば夜、風呂で髪を洗っているときに思い出して怖くなるようなホラーではない。

そうではなくて「もし自分がこんな状況になったら」と想像させたときの怖さ、
それをきっちり漫画としてオチも含めながら描いていく。

しかも、ただ特殊なシチュエーションというのではなく、
あくまでも、読者の共感を得られる状況を設定しているのが上手い。

“恋人との真実の愛”や“痛み”といった普遍的な要素だけでなく、
「念願のマイホーム」、「教師と生徒の恋愛」、「2000年問題」といった
そのときどきの社会情勢や世相を反映させることで、
「もし自分が~~だったら」感を強調している。これが見事。

話は飛ぶけど、こうした“読者の共感を得つつホラーを描く”ってのは、
実はホラー作家にとって重要な才能なんだよね。

口の中に手を突っ込まれて体を裏返しにされた絵よりも、
足の小指を強打した絵のほうが「痛そ~!」と共感を得る。
それと同じように、ただ狂っている、ただグロテスク、
ただスプラッタなだけでは、一部のマニアにウケることはできても、
それこそ少年少女を含めた一般読者に広く訴えかけることはできない。

“共感を呼び起こすリアルな恐怖”というものは確かにあって、
関よしみは、それを描くのが上手いんだと思う。
根っこのところは、ごく普通の・一般人の感性をもってるんだろうな。
だって他の作品集のあとがき漫画じゃ田舎で野菜作ってるんだぜ。

マイナス点として、ビジュアル的な古さはあります。
絵柄は、ひと昔前の少女漫画だし、
コマ割りやセリフ回しなどにも目新しさは感じない。

けどやっぱりシチュエーションホラーの定番作家として、
今後も読者にトラウマ級のリアルな恐怖をお届けしてほしいです。
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