Fables vol.1 "Legends in Exile"(翻訳その6)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたファンタジーコミックです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

<そのころ、ローズ・レッドのアパート…>

【ブルーボーイが現場に残されていた血文字について指示している】

ブルーボーイ「違うよ、フライキャッチャー、注意して。『HAPPILY』だよ、『HAPPENING』じゃない」

ブルーボーイ「『HAPPILY』は、エイチ、エー、ピー、ピー、エル、ワイ。『NO MORE HAPPILY EVER AFTER(不幸せに過ごしました)』」

ブルーボーイ「『NO MORE HAPIENNG(不幸せで過ごしました)』じゃあ意味が通じない。ランチに虫を食べるような男にもね」

フライキャッチャー「人間の食習慣に戻ってから100年後、間違って1~2匹のハエを食べちまったけど、そのことで人生に烙印を押されたようなもんだな」

※フライキャッチャーはかつてカエルに姿を変えられていたことがある。その際にハエ(fly)を食べていたのでフライキャッチャーというあだ名になったのだが、変身が溶けた後もカエル時代の習性が抜けないようだ。

【血痕の再現を終えた2人。現場と同じように部屋中に血が飛び散っている】

フライキャッチャー「完ぺき!」

ブルーボーイ「終わった、やり終えたかな」

フライキャッチャー「で、どれくらいの血を使った?」

【場面転換。ビグビーがデスクで寝ているアパートの警備員に話しかけている】

<ウッドランド・ラグジュアリー・アパートのロビー>

ビグビー「起きろ、グリンブル。過密なお昼寝のスケジュールを邪魔してスマンが、拘置所のカギが必要なんだ」

グリンブル「なんでだ?」

ビグビー「囚人に飯の時間なんだ」

グリンブル「またかい? ジャックを太らせて食べちまうつもりじゃないだろうな。それほど囚人に気遣うってんなら、次から俺がボランティアでやってあげてもいいぜ」

ビグビー「何の話をしているんだ?」

グリンブル「お偉いさんの男爵がでっけえ食事トレーを持って行ってから10分も経ってないぜ。俺の鼻がまだ衰えていないなら、ニンニク風味のローストチキンだったな」

ビグビー「誰だ、それは?」

グリンブル「誰って、青髭公さ。あんたが許可したと言っていたぜ」

グリンブル「とにかく、カギが必要なら、青髭から取り返してくれ。まだ戻ってきていないんだ」

ビグビー「しまった!」

【ビグビー、手にしていた食べ物を放り出して、地下のジャックのもとへ走り出す。走っている途中で、その耳はとがり、手には爪が生え、体が剛毛に覆われていく】

【拘置所から聴こえてくる声】

ジャック「彼女に何もしていない!」

青髭「知ってることを全部しゃべったほうがいいんじゃないか、小僧。お前が自白するまで、朝晩切り刻むのも悪くない」

青髭がジャックの背後を取り、その首にナイフを突きつけている】

青髭「今すぐしゃべったほうが楽になるぞ!」

【巨躯の狼男へと変身したビグビーが叫ぶ】

ビグビー「ナイフを置いてジャックから離れろ!」

ビグビー「さもなきゃノドを掻っ切ってやる!」

青髭「おやおや。長年の時を経て、ついにオオカミが内なる獣性を見せつけるために衣服を脱ぎ捨てたぞ。まあ、お前が昔のやり方に戻るのも時間の問題だとみんな知っていたがな、ビグビー。生まれつきの習性ってやつは決して無視できん」

ジャック「やってくれ、ビグビー。こいつは俺を殺す気だ!」

青髭「バカな。私が殺そうと思えば、お前は今にも死んでいる。お前から真実を聞き出す前に、殺すつもりはない」

青髭「しばらく戻っていろ、ウルフ。そうすればこいつは、自分がローズに何をやったか話させてくれと懇願するだろうよ。それと、ローズが──あるいはローズの死体がどこにあるのかもな」

ビグビー「それは俺たちが取るべき方法じゃない。ジャックから離れろ、青髭。俺が貴様に手をかけるとなれば、このフロアでどちらかが死ぬまで終わらんぞ」

青髭「それがどうした。俺が殺すのはお前が最初だとでも思うか? 俺はホームランドでは何世紀にもわたって自分の土地を“害獣”どもから守ってきたんだ」

ビグビー「槍の穂先が届かない距離からだろ。真の脅威をしりぞけてきたのは、お前がお抱えする大勢の警備員だ。今回は、その細いナイフでどうやって身を守るのか見せてもらおうか」

青髭「一本取られたな。だがこいつのノドを切り裂く前に俺を止めることはできんぞ」

ジャック「そんなことしないっつったろ!」

ビグビー「どうぞご自由に。やっかい者が消えるのはありがたいね」

ジャック「ビグビー、そんなこと言うなよ! 青髭公、あれは彼の冗談だ。言うことは無視してくれ。彼が俺のこと嫌うはずがない」

ビグビー「そうすれば、青髭、お前を殺す正当な理由ができるな」

ジャック「2人とも待ってくれよ! こんな早まった状況で話し合いたくはないだろ。いったん退いて、深呼吸して、お互いの脅し合いに休戦協定を結ぼう。もう少し合理的に物事を考えるためにさ、なあ?」

【一方、階上ではスノウや警備員らが武器を取って、青髭のもとへ向かおうとしている】

スノウ「急ぐわよ!」