Fables vol.1 "Legends in Exile" (翻訳その10)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【ドレス姿のシンデレラが、壁際のソファに腰掛けている少年に話しかける】
シンデレラ「ハイ、ピノキオ。久しぶりね。楽しんでる?」
ピノキオ「いいや。もちろん楽しんでいないとも。このバカバカしい催し物を楽しんだことがない」
シンデレラ「ならどうして毎年来てるの?」
【ピノキオは12~13歳ほどに見える】
ピノキオ「なぜって、僕を本物の少年に変えてくれたあのブルーフェアリーが、いつかは顔を出すだろうからさ。彼女の真っ青なケツに蹴りを入れてやるんだ」
シンデレラ「どうして? あなたは本物の男の子になりたがっていたじゃないの」
ピノキオ「もちろんそうさ。だけど、永遠に男の子でいなきゃならないなんて、誰が考える? あのバカなクソ女は僕の望みを文字通りに解釈しすぎたんだ」
ピノキオ「もう3世紀以上も歳を重ねているのに、いまだに思春期を抜けないんだぞ。僕は大きくなりたいし、思春期を終えたい。セックスだってしてみたいんだよ」
【場面転換。ビグビーのオフィス。手錠をかけられたジャックと青髭がいる】
ビグビー「2人ともギャーギャー文句を言うな」
ジャック「でもパーティーが終わっちまう!」
ビグビー「今年だけじゃなくて、今後100年分の記念集会にも出られない可能性も頭に入れておけよ。お前ら2人とも、ファームに送って1世紀分の重労働をやらせてもいいんだぜ。だが、そんな過酷な義務を避けるやり方だって、多分あるだろうな」
ジャック「クソッ! 確かにあんたは青髭をここに置いている。こいつは血まみれの手で俺を拷問したんだからな…」
青髭「下手なことを泣きわめくな小僧!」
ジャック「だけど俺についてはどうだよ。何も証明していないだろ?」
ビグビー「俺がどれだけ真実を暴けるか、正確に理解したいところのようだな。まあしかし、俺が最終判断を下すまでは、2人とも残りのパーティーに参加していいぞ。ただしお互いに、常に距離を取って近づくんじゃないぞ」
【ビグビーは2人の手錠を解く】
ビグビー「青髭、市長のポケットに年間寄付金を突っ込むのに十分な時間はまだある。寄付金は、お前が良心的で人助けの好きな人間だとみんなに思い出させるだろうな。今回は銃もダガーも戦斧も自宅に置いておけよ」
ビグビー「そしてジャック、俺らは少し個人的に話し合わなくちゃならん。その時は、パーティーの招待客の1人にメッセージを届けてくれ。自分が役に立つ人間だと身の証しを立てるんだ」
ジャック「どうしてそのパシリ役を自分でやらないんだよ?」
ビグビー「いささかパーティーに参加するのが遅れすぎたってのが理由だ。だが大きな理由は、それはお前がやるべきことだからさ、お前が自由でいたいのならな」
【場面転換。記念集会の料理を作る大きな厨房。たくさんの料理人や給仕係でごった返している。あちこちから声が聞こえる】
「違う違う、かき混ぜすぎだ! ソースをカラメル色にするんだ」
「ここにあった若鶏はどこだ? 誰が持っていった?」
「エシャロットですって? 確かにレッドオニオンって言ったわよ!」
「急いで持っていけ、でもあわてるな。何もかもを正確な時間に調和させるんだ」
「スープはまだは運んでいないのか?」
「フォアグラがほとんどないが、まだまだ出すか? それとも…」
「至急、他の料理を出したほうがいいですね。連中、目についたものは何でも食べる状態ですよ」
【ブタのコリンが厨房にやってくる】
コリン「ついにやった!」
コリン「記念集会の厨房のこそ1年で最大のイベントだな」
【そこらにある野菜を食べるコリン】
コリン「うめえ」
コック「あんた、材料かい?」
コリン「おっと、そうならないことを祈るぜ」
【場面転換。パーティー会場。タキシードを着たビグビーがやってくる】
ビグビー「よお、いい感じじゃないか」
スノウ「ずっと立たされっぱなしなのかと思い始めてたところよ」
ビグビー「問題ない。この手のパーティーにはいつも1人で来てるんだろ? 俺が来なかったからといって、何の恥ずかしさを受けるわけでもあるまいし」
スノウ「ああもう! あなた、ほんとに社会的能力に欠けてるのね」
ビグビー「だろうな。こっちだ。ダンスフロアの外にいなきゃならん」
スノウ「どうして? これも妹の殺人犯を捕まえるための、複雑な手順の一部なの?」
【ビグビー、スノウとペアになる】
ビグビー「たぶんな。さあ、どうやるのか教えてくれ」
スノウ「一度もダンスしたことないの?」
ビグビー「ない」
スノウ「手はこことここに。もう少し優しくお願い。あなたと床で取っ組みあいをするなんて思いたくないわ。さあ、私のリードに続いて、私の足の動きに合わせて」
ビグビー「わかったよ」
スノウ「顔は上げて」
ビグビー「それだと足が見えない」
スノウ「とにかく上げて。ドレスの胸元を覗き見てるみたいじゃないの」
ビグビー「だから? 人に見られたくないなら、なんでそんなに胸元の開いたドレスを着ているんだよ」
スノウ「襟ぐりが開いた服を着るのは、たぶんスケベな男の中から本当の紳士をえり分けるためよ。こういう胸元を前にしても目線を向けない人は、紳士のポテンシャルがあるのかもしれないわ」
ビグビー「ほう」
スノウ「いたっ、足元に気を付けてよ」
ビグビー「顔を上げてって言っただろ」
【プリンス・チャーミングが嫌味を飛ばす】
プリンス「おやまあ、そいつがデートの相手かい、お姫様。哀れなもんだ」
スノウ「文字通りの意味で、足元を見ないでってことよ。ただ、私の足を踏むのはやめてよ」
ビグビー「わかった。で、食事の前にどれだけ踊ればいいんだ?」
【そばにいるフライキャッチャーの野次】
フライキャッチャー「ウルフさん、ダンスがイケてるぜ!」
スノウ「私に聞かないでよ。踊ろうと言ったのはあなたよ」
ビグビー「最悪のアイデアだったな。ダンスフロアのまん中がこんなに注目を集めるものとは」
【2人はダンスを終え、壁際へ】
ビグビー「ここがいい。何か食べに行くか、飲みに行くか。ダンス以外のことなら何でもいい」
スノウ「オーケー、でも来るのが遅すぎたわね。美味いものはもう食べられちゃったわよ。けど心配しないで。この集会のベテランなのよ、私」
スノウ「あとすごい秘密を教えてあげる。ほんとに美味しい料理は、給仕係の人たちがくすねちゃうのよ。いい料理は後ろに取っておいて、パーティーが終わったあと家にこっそり持ち帰ってるのよ」