Fables vol.2 "Animal Farm" (翻訳その2)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【前回からの続き。スノウとローズは郊外のファーム(農場。非人間型のフェイブルズが住んでいる)へ小旅行することに】
ローズ「で、どうして仕事させるんじゃなくて、姉さんと旅行に行かなきゃならないの? いつからえこひいきするようになったわけ?」
スノウ「私たちがお互いのズレが解決できるかどうか、確かめることに決めたの。それからよ、えこひいきするようになったのは。といっても、ここ数年はお互いに隠れて撃ち合うような関係だったけど」
【ガードマンが小型のピックアップトラックの荷台にブタのコリンを乗せている。スノウとローズも、荷物を荷台に乗せる】
ガードマンのジョニー「おはようございます、ホワイトさん、レッドさん。いい日よりですな!」
コリン「ファームには戻りたくねえよ、俺は都会のブタだぜ!」
※コリンは「三匹の子豚」に出てくるブタのうちの1匹。
スノウ「もう一度、姉妹のように付き合えるかどうか、確かめたいのよ」
【ジョニー、コリンの首に縄を結わえ、もう片側を荷台のフックにくくり付ける】
コリン「俺たちゃダチだと思ってたのによ、ジョニー」
ジョニー「悪い子だぞ、コリン。それはそれ、これはこれ。ファームに行くんだ。コリンをきつくひもで結びつけておきますよ、ホワイトさん。今度はコリンも逃げられないでしょう。ホントですよ」
※コリンはかつて、ビグビーにもファームに戻るよう言われていたが、途中で逃げ出していた。参照。
ローズ「ってことは、お互いに長時間顔を突き合わせる、話し合いみたいな旅になるってこと? 心を丸裸にして? 不満をさらけ出して、不機嫌を発散させるの? 文化的な女の子みたいにガールズトークするわけ?」
スノウ「そんなところね」
ローズ「床をモップがけするほうがマシだわ」
ジョニー「準備できましたよ、お二方。ガソリンは満タンですが、ラジエーターの水はよく見ていてください。オーバーヒートしやすいんです」
スノウ「お気の毒様ね、ローズ。あなたが自分の殺人を偽装した罰は、何であっても私が決めるものなのよ。乗りなさい。旅路のほうがかえってよく“すねる”ことができるわよ」
【ローズの運転でトラックが出発する】
ジョニー「いってらっしゃい!」
ローズ「ひどい旅になりそうね」
スノウ「楽しもうと努めたほうがいいわね、ローズ。私は2年に一度、郊外に出かけて、ファームのフェイブルズのコミュニティーをチェックしなきゃならないの。これはバケーションじゃないわ。仕事。あなたはその補助をするわけ」
スノウ「楽しむことも嘆くこともできるけど、あなたはまだ仕事中なのよ」
【トラックは都市部を抜けて、雑木林が立ち並ぶ郊外にまでやってきた】
コリン「ここはどこだ? まだ着かないのか?」
スノウ「タバコを吸うのはやめてちょうだい。本気よ。やめなさいったら!」
ローズ「言うのが遅いわよ」
【しばらくするとトラックがオーバーヒートしてしまう。ボンネットを開け、中を確認するスノウ。ローズは荷台でタバコを吸い、コリンは寝ている】
スノウ「くつろいでいて、ローズ。しばらくかかりそうだから」
ローズ「退屈な移動時間のあとは、かったるい待ち時間ってこと? そりゃよかった。私に適した罰を見つけたわね」
ローズ「あんたのファームに着くまであとどんだけかかるのよ」
スノウ「どれだけ? 何年も──何世紀も──私たちはニューヨークで暮らしてきたのに、郊外のコミュニティーに行きたいって困らせたことはないの? もうファームの土地内に入って30キロ以上は過ぎたわよ」
スノウ「私たちはファームを人里離れた場所に維持し続けてきたわ、人目につかないようにね。現世人が興味を持つことさえないように、最も強力な“秘匿”の呪文をこの土地に組み込んだのよ」
【道端に落ちている何かに気づくスノウ。拾い上げると、小さな円筒形の包みのようだ】
スノウ「実際、興味深いわね」
ローズ「何してるのよ、スノウ」
【スノウ、雑木林の中に入り、何かを拾い集めている】
スノウ「落ち着いて。見つけた物があるの」
ローズ「冬越し用の木の実? さっさとラジエーターに水を入れて先に進もうってば。確かに車の中で十分に退屈は味わったけど、これじゃ最悪よ」
【スノウ、拾い集めたものをローズに見せる】
スノウ「ローズ、これを見て」
ローズ「銃弾の空薬莢ね。大したものじゃないわ。郊外にはいろんな種類のガンマニアがいるものよ」
スノウ「確かにガンマニアはどこにでもいるけど、ここではありえないのよ」
スノウ「ほかにもショットガンのシェルと空薬莢が、そこいらにまき散らされているわ。だけど私たちの防護呪文は、現世人たちを森林地帯から遠ざけているはずなの。そして今現在、何か銃声がしたらファームに聞こえるくらい近い距離に私たちはいる」
ローズ「だから?」
スノウ「だから? ファームと私のオフィスには直通電話があるのよ。なのに、なぜファームの住人はそのことを知らせないの? さあ、モーターも十分冷えたわ。ファームまでの残りの道を行くわよ」
ローズ「ブタさんとお馬さんがアヒルさんと牛さんに宣戦布告でもしたんじゃない?」
【しばらく走り、ファームへ着いた2人と一匹。ファームには小麦畑や野菜畑が広がり、大きな納屋がある。さらに中世の城のような建物、ブーツやカボチャ、きのこを模した建物などが立ち並んでいる】
ローズ「わーお、これが有名なファームなのね。感動よ、姉さん。マクドナルドとウォルト・ディズニーがマンチキン国で出会ったみたいじゃない」