Fables vol.2 "Animal Farm" (翻訳その3)
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Bill Willingham
Vertigo
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【前回からの続き。トラックを駐車し、ファームを見渡す2人と1匹。しかし誰もいない】
ローズ「打ち捨てられたようにも見えるんだけど。ゴーストタウンになったんじゃないの?」
スノウ「そんなはずはないわよ。誰かいないの!?」
【荷台にいるコリンの縄を外すローズ】
コリン「もう着いたかい?」
ローズ「そうですよー、コリンちゃん。もう着いたわ。誰もいないように見えるだけよ」
コリン「どういうこと?」
ローズ「わかんない。見たところ、ここのみんなは姉さんの到着を楽しみにしていたみたいね。と言っても、私と同じくらいにってことだけど」
スノウ「みんなはどこなの?」
【納屋の前で何かに気づくスノウ】
スノウ「待って、何か聞こえる。納屋の中から声がするようだわ」
スノウ「誰かいるの?」
【納屋の扉を開けると、中にはさまざまな動物たちが集まっている。ライオン、クマ、ニワトリ、長靴をはいたネコ、さらには翼の生えたサル、小さなトランプの兵隊、手のひらサイズのこびとなど、明らかにファンタジーの産物とわかる生きものばかり。中央の演壇には2匹のブタ(ダンとポージー)がおり、その1匹が演説している】
ダン「…そしてさらに皆の衆、私は言おう。『武器を取り、困難の海に立ち向かえ』という偉大な教訓は、優れた作家が弄する巧みな言い回し以上のものであると。この教訓はうわべだけのものとして軽々しく扱ってはらならず、文字通りのアドバイスとして扱わなければならない! 我々は直ちに決議すべきであり……おっと」
※ダンとポージーは、コリンと同じく「3匹の子豚」に登場するブタ。
スノウ「あー…こんにちは。お邪魔したかしら?」
【スノウの登場に演説を止めるダン、驚くファームの住人たち】
ニワトリ「逃げろ逃げろ! 連邦警察の手入れだ! 僕はこいつらの仲間じゃない! だまされてたんだ! 証言台にも立ちます!」
アヒル「ホワイトさん?」
セイウチ「ここで何を? 視察の時期には早すぎるんじゃ?」
スノウ「タウンミーティングでもやってたの? もしそうなら、どうしてウェイランド・スミスじゃなくてダンが指揮を? 誰かここで何をやっているのか説明できる人は?」
※ウェイランド・スミスは「ベオウルフ」などに登場する伝説的な鍛冶師。ヴェルンドとも。スノウの言葉から判断するに、ファームのリーダーを務めているようだ。
ダン「タウンミーティング? ああ、その通りです、もちろん。まったくもって悪事なんかじゃないですよ」
ニワトリ「ムショ生活は嫌だ! 僕はデリケートなんだ!」
ダン「誰かこのバカニワトリを絞めて…もとい落ち着かせてくれ!」
【ダン、演壇から降りて仲間たちに小声でささやく】
ダン「スノウ・ホワイトのサプライズ訪問に敬意を表して、残りの議題は延期にしよう。それなら彼女を歓迎できるだろうさ」
クマ「なんで? 何を隠さなけりゃならないんだ?」
ネズミ「議事規則違反だ!」
ダン「バカ、休会の動議はいつだって合法だ! これにて休会!」
<そのころ…>
【ニューヨークのフェイブルタウン、スノウのオフィスの前に数名のフェイブルズが集まっている】
ブルーボーイ「すみません、みなさん。でもスノウ・ホワイトはしばらく留守なんです。ですので、すべてのアポは来週まで延期となります。何か緊急の用事があればビグビー・ウルフまで直接お願いします」
ビューティ「どうして待たされなくちゃならないの? あなたが担当すればいいじゃない」
シンデレラ「私たちにはサービスを受ける資格があるわ」
ピノキオ「僕らが正しいぞ!」
群衆「トイレづまりは緊急の用事かい?」
ビューティ「全部キャンセルされたなら、なんでオフィスは開いているのよ?」
ブルーボーイ「資料整理の遅れを取り戻さなきゃなんないんですよ、ホントに! どうかお帰りください、来週にはまた開いていますから」
【オフィスに入り、ドアを閉めるブルーボーイ。オフィスの奥の方へと歩いて行く。床には書物が散らばっている】
ブルーボーイ「さて、バフキン、お前は1日中サボっていたな。1冊の本も整理していないじゃないか。バフキン? バフキン!」
ブルーボーイ「ああもう! バフキン、飲んでるな?」
【翼の生えたサルが、酔っぱらってカゴにだらしなく腰掛けている】
バフキン「そのとーり、ブルーボーイ」
※バフキンは翼の生えたサルの姿=ウィングモンキー。ウィングモンキーは「オズの魔法使い」に登場する架空の動物。前述どおり、ファームにも同じ姿のサルがいるので、複数の個体が現世で暮らしているようだ。
ブルーボーイ「このバカ! なんてダメなお猿さんだ」
バフキン「鬼の居ぬ間に洗濯ってか」
【バフキンを叱るブルーボーイ。そのとき、上のほうから歌声が聞こえてくる】
歌声「♪戦いが始まる直前には、母さん…」
※『Just Before the Battle, Mother』という古い唱歌。
ブルーボーイ「なんてこった! まさかと思うけど…!」
バフキン「ヒーヒーヒー!」
【ブルーボーイが見上げると、オフィス内にある大木の枝に、甲冑を着た騎士が吊るされている。】
吊るされた騎士「♪母さん、僕はあなたのことを考えています」
ブルーボーイ「またフォースウォーン・ナイトに飲ませたのか? 散らかしたその直後に?」
※フォースウォーン・ナイトはあだ名。本名はランスロットというらしいが詳細不明。
<しばらくのち…>
【再びファームへ。3匹の子豚の家(もちろんレンガ造り)。家の前には「オオカミ禁止」の看板が。その家の中でお茶を飲むスノウら一行】
ダン「今年は早くに来られましたな、ミス・ホワイト」
スノウ「どうも早く来て正解だったようね」
スノウ「さて、私が踏み込んできたとき、何をやっていたかちゃんと話してもいい頃合いだと思わない?」
ダン「まったくその通り」
ローズ「このこぢんまりした部屋を見てよ。本物の人間の家みたい」
【空気を読まないローズ】
ポージー「我々は本物の人間ですよ、ミス・レッド」
スノウ「ダン、あれは何のミーティングだったの?」
ダン「記念集会が終わったでしょう? どうやれば我々のホームランドに進軍して、魔王とその邪悪な手先どもから土地を奪い返せるかを話合っていたんです」
スノウ「まるで“帰還主義者”のように聞こえるわよ」
ダン「その通りです。それを認めるのを恥とは思いませんよ」
※ホームランドから現世に移り住んだフェイブルズらは、ホームランドを取り戻したいという気持ちでは一致しているが、慎重派と積極派に別れているようだ。
スノウ「残念すぎるわ。それで、ファームには帰還主義者が他にもいるの?」
ダン「大勢ね」
ポージー「実際のところ、それが多数派ですよ」
スノウ「いつから?」
ダン「帰還主義者なんて名前が付けられる前からですよ」
スノウ「ダン、ポージー、なぜなの? 古びたホームランドを取り戻すという無分別な努力のために、どうして命を投げ出すことを本気で主張できるわけ?」
ポージー「大都市にいるあなた方と違い、我々はこの世界で気楽に過ごせるほど人間のようには見えないからですよ。その気になれば世界中を旅行できるあなたと違って、我々はこの土地の一区画につながれているんです。これまでも、これからもね」
ダン「私たちの本当の姿を現世人から隠すためという決まり…。それをあなたが主張する限り、この囚人キャンプの外では2本足で立つこともできない。要するに“恐怖のしゃべるブタ”や生きた巨人たちの秘密が漏れる、というわけだ」