Fables vol.2 "Animal Farm" (翻訳その19)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

【ウッドランド・ビルの前に駐車されたトラックで、ウェイランドがローズに話しかけている】

ウェイランド「さあ行ってきな。スノウは教会で待ってる。場所は…」

ローズ「知ってるわ」

【ビル内にある小さな聖堂のようなスペース】

ローズ「さあ、来たわ。放蕩娘のお帰りね」

スノウ「ローズ、私は…その…」

ローズ「よそよしい姉妹の、いつ終わるともしれないぎこちない瞬間。その最新版がまさに今ね」

スノウ「そうは思いたくないわ。ようやく、お互いの関係が修復するんじゃないかって思えるようになったんだもの。昔みたいになれるんじゃないかって」

ローズ「本気でそう思ってるの? そんなことができると?」

スノウ「ええ。あなたが昔やったことは、もう許してるもの」

※ローズはかつてスノウの夫であるプリンス・チャーミングと不倫した。

ローズ「へえ? なんとまあ立派だこと」

【ローズ、真剣な顔になって言う】

ローズ「でも、私はまだ姉さんのことを許していないといったら?」

スノウ「なんのこと? 私が何をしたから、そんなに何年間もあからさまに軽蔑し続けているのよ?」

ローズ「明らかでしょ? 姉さんみたいな忘れっぽい人にだって分かる」

スノウ「言葉して言ってちょうだい」

【ローズ、スノウを指差し、語気を荒げる】

ローズ「自分を見てみなさいよ! あんたは生きてる! 私はいつもあんたの隣にいたわ! あんたの髪が私の服にかかるくらい近くにね!」

ローズ「姉さんはいつも…今でも聡明だったわ! なぜかわかる?」

スノウ「いいえ」

ローズ「私は分かるのよ、残念ながら。何百万人、何億人もの現世人が、姉さんを好きでいてくれるからよ!」

ローズ「あいつらは姉さんが主人公のアニメ映画や絵本を作り続けているわ。だから姉さんは死ねないの。現世人がそうさせないのよ!」

ローズ「だけど、こっちの世界で誰が私のことを覚えているの? 100万人に一人もいないでしょうね。昔は『白雪と紅薔薇(しらゆきとべにばら)』だったのに、今じゃただの『白雪姫』、それだけ! 妹なんて必要とされていないのよ。まったくありがたいこと!」

『白雪と紅薔薇』グリム童話のひとつ。スノウ・ホワイトの名前以外に『白雪姫』とストーリー的なつながりはない。

ローズ「もし撃たれたのが私だったら、完璧に死んでたでしょうね」

スノウ「どうしてそれが私のせいになるの?」

ローズ「子供のとき、私たち2人はいつまでも一緒にいるって誓い合ったわ。世界は、私と姉さんとそれ以外だった…覚えてる?」

ローズ「それがあのプリンス・チャーミングが現れた瞬間、あんたは彼と一緒に去ってしまった。振り返ることもなくね!」

スノウ「そんなことない。私たちと暮らそうって手紙を送ったわ」

ローズ「最後の最後には、でしょう」

スノウ「それがダメだったの? あなたのことを後回しにしたから? だからプリンスと不倫して、私の結婚生活を壊して…私に罰を与えたの?」

ローズ「ビンゴ」

スノウ「わかったわ。あの不倫は報復だったってわけね。なら、その後にも何年も私に反抗し続けてきたのはどうして?」

ローズ「姉さんは人気者で、私はその影として生きていかざるをえなかったからよ」

スノウ「それについても仕返しすればいいじゃない」

ローズ「もうやってるわよ。今、私はファームで働いてる。ちゃんと公共料金の未払いも片付けてからね」

スノウ「ファームの後始末はもう終わったはずよ」

ローズ「そう思えるのは、私が姉さんを煩わせないようにしていたからよ。驚いたことに、私ってああいう仕事に向いてるみたい。それに、悪くないなって思ってるのよね。ってことだから、残りの仕事は正式な配置任命だけ。新しいファームの管理者が必要なんでしょ?」

スノウ「あなたが?」

ローズ「いけない? ウェイランドはいなくなったけど、私なら管理できる。姉さんはタウンを運営して、私はファームを運営する。ようやく対等な関係に戻れるってわけ。姉さんにファーム管理者が務まる? 私ならできるのよ」

<ローズ「最初の公務は、目覚めさせられた巨人たちとドラゴンをどうするか、よ。これはもう解決策を思いついているんだけどね…。まず、彼らは再び何百年も眠りたくないと言っている。起こしちゃったのは私たちだから、責められないわよね。けど、現在の彼らの姿を魔法で隠し続けるには無理があるし、彼らの食費をまかなうだけでファームは素寒貧よ。なら大きな損害を食い止めるために、小さな犠牲を払うしかない」>

【巨人の三兄弟とドラゴンに語りかけるローズ】

ローズ「オーケー、やるべきことを説明するから聞いて。みんなは『永久変化』の呪文は知ってる?」

<ローズ「姉さんがすべきことは、残っている本年度の予算を私たちが自由に使えるように認可を出すことよ。ものすごく高価な呪文をかけてもらう必要があるから、たぶん来年の分の予算もね」>

<しばらくのち…>

【ファームの広場にローズとスノウ、ウェイランドやその他のメンバーが集まっている】

ローズ「紳士淑女の皆さん、それとお偉くないけどご招待された皆さん、亡くなったオリジナルに代わりまして、“三匹の子ブタ”パート2でございます。ジョニー、ドニー、それとロニー。かつて巨人だった三兄弟よ」

【小さな子ブタたちが姿を現す】

三兄弟「新しい住み家はどこだい?」

スノウ「大したものね」

プリンス「やったな」

ウェイランド「よくやったな、ローズ」

ウェイランド「現世人に愛される『三匹の子ブタ』としては十分だろう。三匹の名前と姿が変わったことも、彼らには気づかれないはずだ。ドラゴンのクララシアはどうなった?」

【大きなワタリガラスが舞い降りてきて、ローズの肩に止まる】

ローズ「クララは私の親友、それと用心棒」

青髭「用心棒? どうやって守るんだ?」

ローズ「見せてあげて、クララ」

【ローズがそう言うと、カラスのクララは口から火炎を吐きだした】

プリンス「愛らしいこと」

ローズ「ドラゴンの能力のうち“都合のいいところ”は残しておくことにしたのよ。もう革命は起こさせないわ」

【ラストシーン、薄暗がりの中でうなだれるスノウのシルエット】

<そしてその後、スノウ・ホワイトは皆を下がらせて、できるだけ丁寧にその場を後にしました。彼女は一人になれる静かな場所へ行き、そこで涙を流しました。ファームで起きた凶行のため、そしてその凶行で命を落とした全員のために。そしてまた、何年間も心が離ればなれだったけれど、(たぶん)再び心が通い合った妹のローズのためにも泣きました。しかしとりわけ、殺された友人──賢い子ブタのコリンのために泣いたのでした。>

Fables vol.2 “Animal Farm” 完