Fables vol.3 "Storybook Love" (翻訳その7)
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※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【タイヤのパンクにより車ごと崖から転落したスノウとビグビー。一命を取り留めたようだが、車は大破してしまった】
ビグビー「スノウ! スノウ、大丈夫か?」
スノウ「…生きてる?」
ビグビー「たぶんな。幸運だった。車がダメージをほとんど吸収してくれたようだ」
スノウ「ありがたいわ。現世人たちの工業技術に感謝しないとね。今度はダメージを全部吸収してくれるようデザインしてほしいわ。少なくとも五体満足でいられたようだけど」
ビグビー「俺もだ。この傷以外はな」
【ビグビーの左上腕からは骨が飛び出ている】
スノウ「ひどい怪我だわ!」
ビグビー「大したことない。オオカミの姿になればすぐに治る。ただ、骨を戻す必要はあるがな。手伝ってくれ」
【スノウに自分の怪我したほうの腕を掴ませるビグビー】
ビグビー「用意はいいか? 楽しい仕事じゃないぞ。終わるまでは心を鬼にしてくれ」
ビグビー「しっかり引っ張ってくれ。だが急激に引くのはダメだが、俺が悲鳴を上げても、骨が中に引っ込むまでやめるなよ。最低でも、のたうち回らないようにするつもりだが。用意はいいか?」
スノウ「たぶん」
【ビグビーの腕を思い切り引っ張るスノウ】
ビグビー「ぐあああっ!」
【腕を伸ばした勢いで、飛び出ていた骨は中へと引っ込んだ】
ビグビー「うまくいったようだ。ありがとう。少し休ませてくれ。それからまた移動しよう」
スノウ「ひどい傷じゃない。しばらくじっとしているべきだわ」
ビグビー「狙撃手との距離を広げる必要があるし、そうしなきゃならん」
スノウ「狙撃手? なんのこと?」
ビグビー「あれはただのパンクじゃなかった。自分の叫び声で聞こえなかっただろうが、あの時、俺には銃声がした。俺の耳は鋭いもんだからな」
ビグビー「崖から転落したのは幸運だった。第二射の狙撃範囲から逃れることができた。だが、それも時間の問題だ。ハンターは常に俺たちのあとを追跡してくるだろう。だから、オオカミに変身したら昼夜を問わず移動しなきゃならん。俺なら背中に誰かを乗せていても、素早く移動が可能だ」
【そう話すビグビーの眼は、次第に野生動物のそれに変化していく】
ビグビー「さあ、服を脱ぐのを手伝ってくれ。それと、脱いだ服は荷物にまとめておいてくれ。変身が解けたときにハダカでいてほしいのなら別だが」
【やがてビグビーは、馬ほどもある巨大なオオカミへと完全に姿を変えた。スノウは彼の背にまたがり、そのたてがみを掴む】
ビグビー「強く掴まれ。痛くはない」
【場面転換。森を見下ろせる崖の上に、モトクロスバイクに乗ったゴルディがいた。電話で誰かと話している】
ゴルディ「もしもし? 良いニュースよ。2時間ほど前に、やつらの車をパンクさせたわ」
【話し相手は青髭のようだ。ゴルディの背中にはライフルが見える】
ゴルディ「いいえ、車を見つけるのを阻止することはできなかった。こっちでライフルを手に入れるのに2日もかかったのよ。今日の午後になって、あいつらのキャンプを見つけたばかりなの。もう2人はいなかったけど」
ゴルディ「ともかく私のせいじゃないわ。あんたがもっと長く続く魔法をかけていたら、歩いて行って至近距離から仕留められたんだけど」
ゴルディ「ええ、もう現場に向かってるわ。あなたが電話してくる前からね。仕事に戻るわよ」
【場面転換。ニューヨークのフェイブルタウン。こっちの世界のネズミに襲われたマウスポリスのウィルフレッド巡査だったが、からくもネズミたちを撃退したようだ。傷ついた体を引きずりながら戦いの場を離れるウィルフレッド】
【再び森の中へ。オオカミになったビグビーと、彼の毛皮にくるまれるように寝ているスノウ】
スノウ「あっ!」
ビグビー「静かに。俺はもう少し休息が必要だ。姿を隠すには十分暗い。寝ていろよ」
スノウ「でも気づいちゃったのよ。テントと寝袋、どっちも1つずつしかないのよね」
ビグビー「だから?」
スノウ「魔法にかかっている間、私たち一緒に寝てたってこと?」
ビグビー「それはないな。この体ではテントに入りきらない。それにキャンプ地でオオカミの足跡も見つけた。俺の足跡だ」
ビグビー「明らかに俺はオオカミ形態で歩き回っていたらしい。ならば寝る時もオオカミの姿で寝ただろう。そのことが君の気に障るとは思えんな。今はもっと別のことを心配すべきだろう」
スノウ「魔法にかかっていたときに私とあなたの間で何があったか、心配し過ぎだっていうの? あなたがいるから心配しているのよ。私のせいじゃないわ」
スノウ「あなたは私の気を引こうとしているでしょ」
ビグビー「君に速攻でフラれたあとにな。しばらく眠ろう」
スノウ「なぜ?」
ビグビー「俺は疲れているし、明日はずっと歩き続けないといけない」
スノウ「そうじゃないわ。なぜ私なの? 何で気を引きたいわけ?」
ビグビー「いま突然その話をしたくなったのか? 興味深いタイミングだ」
スノウ「眠れないのよ。この状況のせいでまだ少し変な気分なのかも。ねえ、何百年も一緒にいて、なんで突然私に魅力を感じたわけ?」
ビグビー「少しも突然じゃないさ。知っておいてほしいんだが、衝動的に気持ちを打ち明けたわけじゃない」
スノウ「言い逃れ?」
ビグビー「いいや。君の質問に答えているだけだ、ただし俺なりのやり方でな。それでいいなら、聞いていてくれ」
【会話は次回に続く】