Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その4)
※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。
【外は大雨で、雷が鳴っている。出勤してきたブルーボーイに、守衛のグリンブルが声をかける】
グリンブル「みんなが探してたぞ、ブルー」
ブルーボーイ「わかってる!」
【ビジネスオフィスの前には人だかりができている。一般のフェイブルズたちは、赤ずきんのことが気になる様子だ】
群衆「彼らは何を話してるんだ?」「コール老王は赤ずきんからにも寄付をお願いしているんだろう」「魔王の正体が何なのか聞きたいわ」
ブルーボーイ「ちょっとごめんよ、通らせて。どいてくれったら!」
【ドアを開けたブルーボーイに声をかけるビグビー。ブルーボーイは、中にいた赤ずきんを目にして驚きの声を上げる】
ビグビー「ようやくか」
ブルーボーイ「おはようございます。ビグビー、いったい何が起きて…? 赤ずきん!」
赤ずきん「ブルー?」
ブルーボーイ・赤ずきん「生きていたの!?」
ブルーボーイ「なんてこった、自分の眼が信じられないよ、本当に君なのか?」
赤ずきん「あなたこそ、どうやってここに? お城に残されていたはずよ。あなたを置いて脱出艇が行くのを見たもの」
ブルーボーイ「話せば長くなるよ。けど、あの後、ボートに合流できたんだ」
※ブルーボーイと赤ずきんがいた城は、かつて魔王軍の侵攻を受けた。ブルーボーイは愛する彼女を避難民用の脱出艇に乗せ、城に残って戦ったが、結局は敗戦してあとからボートに合流した。一方、赤ずきんはブルーボーイを残して逃げることができず、ひそかに城に残って戦った。ブルーボーイは彼女が死んだと信じていた。(ミニエピソード、Fables “The Last Castle”)
赤ずきん「私を見捨てたんでしょう!」
ブルーボーイ「違う! 僕は…」
赤ずきん「手を放して!」
ブルーボーイ「ボートに乗っていたと思ったんだ!」
赤ずきん「近寄らないで、話したくない! あなたは私を見捨てたのよ、一夜だけの関係を過ごしたあとに…。兵士どもが私を扱うような抱き方だったわね。愛している素振りを見せないように、はれ物に触るようなやり方!」
ブルーボーイ「そんなことは…!」
【言い争う2人をしり目に、スノウとビグビーは小声で話し合う】
スノウ「話がまとまりそうにないわね」
ビグビー「まったくだ。まったくもって定石通りのやり口だな」
【場面転換。プリンスの演説は続いている】
プリンス「善良なるフェイブルタウンの皆さんなら、ぜひとも私を市長に選出すべきでしょう。早急かつ全面的な改革をお約束します。新体制で始める最初の施策は、誰もが利用できる“自由形態”のための基金創設です。非人間に見えるというだけでファームに送られることはなくなります」
※現在、非人間タイプのフェイブルズは市外から離れたファーム(農場)で暮らすことが義務付けられている。
プリンス「長年にわたる不公平な幽閉生活を終わらせたい…。そう望むファームのフェイブルズたちに対し、政府として変身魔法で支援してやるのも良いかもしれませんな」
聴衆「彼らを人間にするってこと?」「人間になりたくないって言ったら?」
プリンス「ビグビーがいるんだから、ほかのみんなも同様に扱うべきでしょう。もし彼らがファームに戻りたいと言うのなら、子豚やアヒルや子ヤギとしての生活をいつでも再開することもできるようにしましょう」
プリンス「さあ、今こそフェイブルタウンの未来のために、率先的な決断を下すときです。新しい黄金時代の案内役を助けるおつもりがあれば、嘆願書にサインをお願いします」
【場面転換。ニューヨークの街中を、サングラスをかけた黒いスーツの3人組が歩いている。顔つき、背丈、髪型までそっくりだ】
露店の男性「レッドホットドッグはいかが? レッドホットドッグだよ!」
黒服の3人組「レッドホットとは何だ? なぜ俺に向かって叫んでるんだ?」
露店の男性「観光客かい? このあたりじゃ一番上手いスパイシーなホットドッグだよ」
黒服の3人組「食べ物か?」「俺たちに食いもんを勧めてるのか?」「なぜそんなことをするんだ、この人間は。なぜ俺たちに食いもんを勧める?」
【3人組のひとりが、露天商の首に手をかけ、締め上げる】
露店の男性「おい、何するんだよ!」
黒服の3人組「食べ物は必要ない」「必要なのは銃だ」「それとブルフィンチ通りへの案内だ」「さあ、早く。銃がある場所とブルフィンチ通りまで案内しろ!」
露店の男性「警察を呼んでくれ! 強盗だ!」
黒服の3人組「行ったほうがよさそうだ、兄弟」「賛成だ、兄弟。人間側の公権力との接触は避けろとの命令だからな」「賛成だ、兄弟。厚かましい田舎者相手におきてを破ることはうんざりするものだからな」
【露天商の男性を放して、再び歩き始める3人組】
黒服の3人組「この世界の人間どもは、優れた存在への尊敬の念を学ぶ必要がありそうだな」「奴らに教えてやるべきだな、兄弟」「俺たちに食べ物を提供するのを想像してみろよ、兄弟」
【場面転換。コール老王のペントハウスに案内される赤ずきん】
コール老王「厳しい試練をくぐり抜けてこられましたな、赤ずきんさん。今のあなたに必要なものは休息ですよ」
赤ずきん「もうずっと休めていないわ。どこで休めば…?」
コール老王「快適なゲストルームがあります。こちらですよ。自分の家のようにくつろいでください」
赤ずきん「ブルーが来ても案内しないでくれる?」
コール老王「会いたくないなら、他の人が来ても会う必要はありませんよ。私を個人的な要塞のように思ってくれていいんですから」
【場面転換。ビグビーのオフィスにスノウがやって来る】
スノウ「ビグビー、話があるの」
ビグビー「ブルーボーイの様子は?」
スノウ「軽くショックを受けてるみたいね。今日のところは帰らせたわ」
ビグビー「じゃあ何の心配事が?」
スノウ「わかってるでしょ、赤ずきんのことよ。いったいどういうことなのかしらね」
ビグビー「だよな。まあ座ってくれ。長い話になりそうだ。俺が1916年と1939年に長期休暇を取った理由は知ってるか?」
スノウ「バカにしないで。カレンダーくらい読めるわ。あなたが戦争に参加するために、ひそかにタウンを離れたことはみんな知ってるわよ。あなたは秘密にしておきたがってるようだったから、これまで質問してこなかったけど」
※1916年と1939年はそれぞれ第一次世界大戦と第二次世界大戦が勃発した年。
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Bill Willingham
Vertigo
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