Fables vol.4 "March Of The Wooden Soldiers" (翻訳その11)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

【ウッドランド・ビルにコール老王が外出先から帰ってくる。】

ジョン「こんばんは、市長。現世人たちのディナーはいかがでしたか?」

コール老王「満足だよ、ジョン。満足だ」

【守衛のグリンブルの前を通りがかると、そこの壁にはプリンス・チャーミングの選挙ポスターが貼られていた】

コール老王「グリンブル! その醜悪なポスターを外すんだ、今すぐ!」

【場面転換。ビーストとビューティーの家に、プリンス・チャーミングがやって来たようだ】

プリンス・チャーミング「ビースト候、ビューティー夫人。お招きいただきありがたく存じますよ」

ビースト「小さい家ですが」

プリンス「こぎれいでいい」

ビューティー「私たちの稼ぎじゃ、これが精いっぱいで」

プリンス「それも変わるでしょう」

ビースト「いま何と? ミスター・チャーミング?」

ビューティー「プリンス・チャーミングよ、あなた。王子の肩書を買い戻したのを忘れたの?」

ホームランドから追放後、プリンス・チャーミングは金策のために自分の王子の位を売り払っていたが、エピソード「Legends in Exile」にてそれを買い戻した。

ビューティー「どうぞおかけになってください。コーヒーのお味はいかがですか? もっとクリームと砂糖は?」

プリンス「完璧ですよ。さて、今日話したいのは…」

ビースト「私たちの収入についてだとか」

プリンス「そう。今の勤め先についてお聞き願ってもよろしいかな」

ビースト「私は、フェイブルタウンのビルのボイラーメンテナンス係です」

ビューティー「私はノッズ書店の店員」

プリンス「なるほど、よろしい。今回、おふたりに新しい仕事を推薦するためにお伺いしました。収入の増加につながるオファーだと確信しています」

ビューティー「お続けになって」

プリンス「ポイントはこうです。来月の今頃は、私はフェイブルタウンの新しい市長になっているはずですな」

ビースト「おそらくね」

プリンス「確実に、ですよ。コミュニティー全体にとって、選挙なんて、はっきり言えば単なる絵空事にすぎないし、誰かにとっての目的にすぎません。そして、私は常に自分の目的を達成してきました。私が当選すれば、スノウは市長代理を辞めるだろう。別に私のせいじゃない。彼女自身が、私の元で働きたがらないだろうからね」

プリンス「その後、ビグビーも保安官を辞めるでしょうな、実質的に同じ理由で。2人の役職は、我らの小さな政府の安全と防衛にとって重要だ。この2つは空席にはできない。空けてしまえば、役職の移行にぎくしゃくした長い時間がかかってしまう。そこで、おふたりに保安官と首席行政官の役職をオファーしましょう。できれば今すぐお返事いただきたいのですがね」

【驚くビーストとビューティー。場面転換。赤ずきんとともに、彼女の隠れ家に行くことになったブルーボーイ。2人は使われていない工場のような建物に入る】

ブルーボーイ「昨日はここに泊まったのかい? 誰の建物? どうやって見つけたんだよ」

赤ずきん「長い話になるの。もう少ししてから話すわ。でも最初に、ビグビー・ウルフについて聞きたいの。彼は私を疑ってるわ」

【建物の中には、簡素なベッドといくつかの木箱があるだけだ】

ブルーボーイ「だろうね。でもそれが彼の仕事だから。新参者はいつも疑われるんだ」

赤ずきん「私に限ってはそれ以上かも。彼が、私と私の家族にしたことを話したわよね、覚えてる?」

※童話「赤ずきん」のことを指している。

ブルーボーイ「一言一句ね。でもあれは大赦前の話だろ」

※大赦:ホームランド追放後、童話や物語のなかで登場人物たちが犯した罪を放免にするようなイベントがあったらしい。

赤ずきん「なら、あなたは彼を許せるの? どうして?」

ブルーボーイ「そうだな…ビグビーは自分が犯した罪のせいで十分に傷ついたよね。君は、彼のお腹を切り裂いて石ころをつめて縫いあわせ、湖に投げ捨てた」

    

赤ずきん「でも結局、逃れられたのよ」

ブルーボーイ「簡単なことじゃなかったそうだ。ビグビーが言うには、石を取り除いて湖から出るまで3週間かかったって。水中でそんなに長く息が続いたのは、父親のおかげだってさ」

赤ずきん「いいわ。でも大事な点を忘れてる。彼の疑いに対して、私の主張を守ってくれる擁護者が必要なのよ。あなたが私を守る光の騎士になってくれないかしら」

ブルーボーイ「もちろん、何でもするさ。でも、僕の助けなしでも、君はフェイブルタウンに受け入れられるはずだよ。単純に、お役所仕事が面倒なだけの話なんだ。時間がかかるのは、事前に行われる質問だけ。たぶん面談より時間がかかるだろうね。新規参入者は全員、可能な限り自分の過去について打ち明けなきゃいけない。ホームランドに関する知識を共有するためだ」

ブルーボーイ「君は、僕らのうちの誰よりも長く魔王軍の捕虜だったから、細かい情報を聞き取るために、少し時間が必要になるだろうね」

赤ずきん「そこであなたの助けが必要なのよ。どんな問題に直面しているか分かれば、質問にもスムーズに答えられるわ。だから、ファームについて教えて。誰がファームのリーダー? 住民は魔法のアイテムを持ってるかしら? どこに保管してるの? 今はスノウのビジネスオフィスに保管されてるみたいだけど」

ブルーボーイ「ちょっと…」

赤ずきん「それと、あなたたち…じゃなくて私たちの街は魔女、魔術師、呪術師を何人くらい抱えているのかしら?」

ブルーボーイ「赤ずきん、フェイブルタウンに加わるのに、それを知る必要はないよ。アメリカの市民権取得手続きとは違うんだからね。僕らの政府の組織と構成について、簡単な口頭質問があるだけさ。実のところ、ビグビーが疑い深くなっているのは、いろいろと情報が足りないからだよ」

赤ずきん「ふん、あのノミだらけの年寄りオオカミについて話すのは、飽きたわ。私たちのことについて話しましょう。なんでまだキスしていないのか、とか」

ブルーボーイ「君がそう言うのなら」

【首に手を回す赤ずきんに応えるように、ブルーボーイは彼女を抱く。2人は服を脱ぎ、しばし時が流れた。赤ずきんが目を覚ます】

赤ずきん「ふああ…。もう起きてたの? 早すぎるわよ、まだ寝ていましょう」

ブルーボーイ「それはできない。ずっと考えてたんだ。君に対する疑いが間違いなんじゃないかって、自分自身を納得させようとした」

【険しい口調で問いただすブルーボーイ】

ブルーボーイ「君は誰だ? 赤ずきんじゃないことは分かる。彼女に何をしたか、話してくれないか」

赤ずきん「以前の私とは違うって言ったじゃない」

ブルーボーイ「もうやめろ。自分が誰なのか、それだけを話すんだ、ビグビーの前に突き出される前に。それと、この場所は一体なんなんだ」

赤ずきん「言葉に気を付けなさい、少年。そのような無礼な質問は許さないわ」

【そう言って赤ずきんがブルーボーイの手に触れると、彼の体に電撃のようなショックが走る。悲鳴を上げて倒れるブルーボーイ。それを見下ろす人影が現れる】

黒服「殺しますか?」「何発か銃弾をぶち込みますか?」「大型ターゲットの練習ですな」

赤ずきん「まだよ。最後には刻んでシチュー鍋に入れたいところだけど」

黒服「食べ物にすると? そいつは屈辱でしょうな」

赤ずきん「でも、まずはこいつに聞きたいことがあるわ。楽しいやり方で、というわけにはいかないけどね」