Lady Killer #2
※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。
【前回からの続き。ネコのコスチュームを着たジョシーが、中年男性らの座るテーブルまで注文を取りに来る。そのうちのひとりが殺害のターゲットのようだ】
ジョシー「こんばんは、クリスタルといいます。今夜、私が皆さんの子ネコになりますわ。お飲物はいかがです?」
ボディーガードら「スコッチ、ロックで」「ストレートのウイスキー」「クレム・ド・ミント」
VIP「しっぽを一切れもらおかな、子ネコちゃん」
ジョシー「ごめんなさい、それはメニューにないのよ」
VIP「なら俺もスコッチだ」
【談笑するターゲットらのもとに、注文のドリンクを持って戻ってくるジョシー】
ボディーガードら「やつの顔見たかよ」「泣き叫んでたぞ」
【ターゲットがドリンクを飲むと、コースターにメッセージが書かれているのに気づく。メッセージは「店のクロークで会いましょう」】
VIP「すまんな、諸君。ちょっと席を外すぞ」
【クロークルームにやって来るターゲット】
VIP「子ネコちゃーん、いいことしようぜ。お堅い女の子は嫌われるぞ」
【ジョシーの姿を探すターゲット。その背後からジョシーが飛びかかり、首のうしろに蹴りを食らわせる。倒れるターゲットに馬乗りになり、ネクタイを締めて彼を窒息させようとする】
VIP「なん……ぐあっ!」
【ターゲットはジョシーを平手打ちする。今度はジョシーのほうが倒れる】
VIP「このクソアマ、てめえが誰かなんて知らんが……誰に手を出しているかわかっちゃいねえようだな」
ジョシー「いいえ、はっきりわかってるわよ」
【倒れた状態からターゲットの顔を蹴り上げるジョシー】
VIP「殺してや……うっ!」
【再び倒れ込むターゲット。ジョシーはもう一度背後からネクタイを絞め上げる。ほどなくしてターゲットは絶命した。そのとき、背後から人影が現れる。タクシー運転手の姿をしたペックだった】
ペック「呼んだかな? その格好、似合ってるじゃないか。ここで正式に副業したらどうだ?」
ジョシー「この男をどかすの、手伝ってくれない? それとも、まだぼさっと突っ立っていたいわけ?」
ペック「なら聞け。今週の金曜はどんなに忙しかろうと……」
ジョシー「早くして」
ペック「ハッ! ずいぶん傲慢な態度だ。いいから心して聞けよ。ボスがきみに会いたがっている」
ジョシー「ステンホルムが? なぜ?」
ペック「知らん。とにかく会いたいんだとさ。よし、これで別人だ」
【ペックは遺体の首にネッカチーフを巻き、さらに帽子をかぶせた。2人は遺体を両脇から抱えて、そのままクラブの入り口から出て行く】
ペック「そうそう、一歩ずつ足を出して。おっと! 酒よりチーズバーガーのほうをたらふく食ってきたんじゃないですか?」
【クラブ入り口の女の子に声をかけるペック】
ペック「自宅まで送り届ける乗客をゲットしたよ。また今度どうかな、お嬢さん。電話してくれよな」
【ペックはタクシーの後部座席に遺体を載せる】
ペック「気分が悪くなりそうだったら、自分の帽子に顔を突っ込むんですよ、お客さん。……やれやれ、この死体を下ろすときは重労働だろうな。で、ステンホルムには6時に待ち合わせだって伝えるぜ」
ジョシー「ええ、いいわ……いや、やっぱり待って。ジーンが家にいるわ。3時にならない?」
ペック「おいおい、マジかよ」
ジョシー「ボスに言えないの? 私のためなのに?」
ペック「わかったよ」
【遺体を載せたタクシーはその場を去っていく。その場に残されたジョシーに、店の女の子が声をかける】
店のウェイトレス「ここにいたのね、クリスタル。7番テーブルがお待ちよ」
【場面転換。役員室で待つジョシー。そこへスーツ姿の中年男性がやって来る】
ステンホルム「すまん。遅れたな、ミス・シュラー。持ち帰りのカウンターがいつもより混んでいたもんでな。座っててくれ。食べてる間、顔を上げたくないもんでね。消化不良を起こすかもしれん」
【包みの中からサンドイッチを取り出すステンホルム】
ステンホルム「食べながらでも気にせんだろ? きみは聞き分けのいい女性だから。無論、問題が発生したときを除いてだが。教えてくれ、ミス・シュラー。この仕事は好きかね?」
ジョシー「はい、もちろん」
ステンホルム「ふーむ、カンパニーで働いてどれくらいになる?」
ジョシー「15年です」
ステンホルム「そうだ。我々の仕事の重要性を知るには十分な年月だ。きみは仕事に真剣に取り組んでいる。そうだな?」
ジョシー「そう思いたいですわ」
ステンホルム「そうするべきだ。そして、自分の家庭のことも重要だと思っているな。だから厄介ごとが起きないようにしている。今後はどうするのかね?」
ジョシー「どう、とは?」
ステンホルム「現在のきみのポジションは、長く居続けるものじゃない。あと数年で、より上のポジションにいける」
ジョシー「私は満足しています」
【ステンホルムは赤いファイルを取り出し、ジョシーに手渡す】
ステンホルム「それはよかった。やってほしい、難しい仕事があるんでね。……それと、予定変更をペックに頼んだそうだな。聞きたくない話だった。スケジュールを変更させるのは、キティ・キャット・クラブが初めてではなかったぞ」
ジョシー「ペックが大げさに言っているだけです。スケジューリングは、プロにとっての取り組むべき仕事のひとつです」
ステンホルム「では家族は? 家庭を持つことも取り組むべき仕事なのかね?」
ジョシー「家族と仕事は別個のものですわ」
ステンホルム「自分にとって何が重要か、よく吟味することだぞ、ミス・シュラー。何が優先すべきことなのかもな」
ジョシー「求められる仕事は完遂します。今まで通りに」
ステンホルム「いいだろう。先ほど言ったように、この仕事はデリケートで難しい。この仕事をこなせる女性だと信じたいところだ。それと私が言ったことをよく考えるんだな。きみは、この部屋に上がってくるハシゴを上っているが、そこから転げ落ちるところは見たくない」
ジョシー「おっしゃることはわかりましたわ、ステンホルムさん」
ステンホルム「わかってもらえてうれしいよ。では良い週末を過ごしたまえ」
【場面転換。車で自宅まで帰ってくるジョシー。トランクから買い物袋を取り出している。庭では双子の子どもらが遊んでおり、近所の友人と思しき女性がベビーシッターを任されていたようだ】
ジョシー「2人とも、買い物袋を持つのを手伝って」
ベビーシッター「忙しかった?」
ジョシー「まあまあね」
ベビーシッター「あなたがボランティアに行っている間、2人の面倒を見るのが私だってこと、お母さまは気にしなかったみたい。よかったわ。ほら幸せそうよ」
【義母は庭先のベンチで黙って座っている】
ベビーシッター「あなたがホスピスで働いているなんて、信じられないわね。あそこじゃ、人が毎日亡くなってるんでしょ。気が滅入りそう」
ジョシー「気にならないわよ。最期のときにも、彼らにやってあげなきゃいけないことはある。それをやる人も必要よ。それが私だっただけ」
ベビーシッター「私より進歩的なのね」
【自宅へと帰っていくベビーシッター】
ジョシー「明日、ジーンの誕生日パーティーには来るんでしょ?」
※ジーンは夫の名前。
ベビーシッター「絶対行くわ」
ジョシー「このあいだ作ってくれたアンブロシアを持ってきてくれない? ジーンったら、すっかり気に入ったみたいで、話すと止まらないのよ」
※アンブロシアは、パイナップル、オレンジ、マシュマロ、ココナツなどを用いて作るフルーツサラダの一種。
ベビーシッター「わかったわ。マシュマロ多めでね!」
【場面転換。買い物袋をキッチンに運ぶ双子たち。うちひとり(ジェーン)が、ステンホルムから渡された赤いファイルを手にしている】
ジェーン「ママ、見て!」
ジョシー「ジェーン、それはあなたのものじゃないでしょ」
ジェーン「ごめんなさい、ママ」
もうひとりの双子「ジェーン、悪いことしたの?」
【ジェーンからファイルを取り返したジョシー。ファイルの中には次のターゲットの写真がある。見ればそれは小学生くらいの男の子だった】
ジョシー「手を洗ってらっしゃい。誰も悪いことはしてないわ」
【場面転換。ベッドルームで夫のジーンと話すジョシー】
ジョシー「ねえ?」
ジーン「ん?」
ジョシー「今日、妹と電話で話したのよ。いま作っているドレスのアレンジで、手伝いに来てほしいんですって。でも、あなたはベインブリッジ島に行きたがっていたし、断るべきよね?」
ジーン「いや、行っておいで。僕は車の修理をしているよ」
ジョシー「ホントに? 嫌なら……」
ジーン「また明日な、ダーリン。おやすみ」
【そういって眠るジーン。ジョシーはベッドに入って、思いつめたようにじっと目を開けている。第3話へ続く】