ヒットマン

最近(っつーても結構前から)はアメコミもどんどん翻訳が進んで、

俺みたいな原書を追いかけられない人にも嬉しい限り。

で、その最近の翻訳アメコミの中で一番グッときたのがこちら。

ガースエニス原作『ヒットマン』。ビジュアルはいろんな人が担当してます。

ざっと説明すると、本作の主人公、ヒットマンことトミー・モナハンは、

DCコミックスのクロスオーバー・イベント「ブラッドラインズ」から生まれた、

比較的新しいキャラクター。初出は1993年です。

トミーはもともとゴッサムシティを根城とする殺し屋だったんですが、

吸血エイリアンに襲われたことがきっかけで読心と透視の能力を身につけた。

スーパーパワーとしてはいささか陳腐ながらも、

優れた射撃の腕前と持ち前の機転、

そして何がなんでも生き抜こうというタフさを武器に、

スーパーヒーローやスーパーヴィラン専門の殺し屋として、

ゴッサムの路地裏を駆け回ることになる。

今回翻訳されたのは、そんな彼が活躍する7つのエピソード。

ヒットマン誕生のエピソードから、

人気が出始めてからの名作エピソードまでがバランスよく収録されており、

バイオレンス度はかなり高め。

バットマンやジェイソン・ブラッド(エイトリガン)といった

他のDCキャラクターとのウィットに富んだ絡みも豊富です。

注目してほしいのは、このヒットマンことトミーというキャラクター。

上記のとおり、トミーは殺し屋であり、殺し屋ゆえに人を殺す。

たとえ極悪人が相手でも、

基本的に殺しはしないのがアメコミ主人公の不文律なんですが、

トミーは「かまうものか」と言わんばかりに殺す。

しかも殺しが終わったら行きつけのバーでビールをあおり、

ポーカーと野球賭博でカネをすり減らすという、いわばボンクラ。

ゴッサムシティの下町の、そのまた路地裏が根城という

アンダーグラウンドでダーティな男でもある。

ただし、「筋の通らない殺しはしない」というルールを設けている。

理由もなく戦いの輪を広げることもしないし、

たとえ超能力を持っていても、自分から殺しを仕掛けることはない。

そして彼がそこらの悪党と一線を画すのは、

友情と仁義を何よりも大切にするところ。

飲み仲間たちとのポーカーでは読心も透視も使わないし、

彼らが傷つけられたら、必ず仇を取る。

また、自分を助けてくれた人のことは決して忘れない。

本作に収録されているエピソード、

「テン・サウザンド・バレッツ」や「ヒットマン アニュアル」を読めば、

トミーが彼なりの信念に基づいて行動していることがよくわかります。

まあもちろん殺し屋であることは変わりないので、

ヒーローかそうでないかと問われると、

グレーゾーンぎりぎりとしか言いようがないキャラでもある。

だからこそ普通のスーパーヒーローにはない

“等身大の人間臭さ”を感じられるんですけども。

路地裏に生き、仲間と自分の信念を大切にし、

ビールや賭け事に楽しみを感じる生身のキャラクターとして

ジャスティスリーグの面々が演じることのできない

オフビート感あふれる泥臭い男の生きざまを見せてくれる名作。

3000円とちょいとお高いですが、

370ページ以上あるし、予備知識なしでもかなり楽しめるので、オススメ。

収録のされている1エピソードには、

ちょっとだけですがみんなの人気者「犬溶接マン」も登場してます。

来年冬には続刊も翻訳予定らしいので、期待してます、エンターブレインさん。