中学生日記

いや昨日さ、友人宅で初めてドラマ版『孤独のグルメ』を観たんだけど、
やっぱり実写でもゴローちゃんはゴローちゃんだったから、安心した。
あと言うまでもないんだろうけど、見てて腹ぁ減った。

いや、そうじゃなくてさ、『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之
この人の“何気ない日常生活”に対する目の付けどころはすごいって話。

孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』での食に対するこだわりは言うまでもないけど、
ぶらぶら散歩に対する深い洞察を見せる『散歩もの』や、
弁当のおかずの食べる順番や町中で急にお腹が痛くなったときの対処法など
どうでもいいことにいちいちダンディズムを追求する『かっこいいスキヤキ』まで、
読者のシンパシーを刺激することに関しては天才的なアンテナを持ってると思う。
(『かっこいいスキヤキ』は泉昌之名義ね)

まあひと言でいえば“あるある”を発見する才能がすごいわけだけど、
その無駄といえば無駄な才能が一番発揮されてるのが本作、『中学生日記』です。
なお、作者のQ.B.B.は、原作者・久住昌之と、
その弟であり作画担当・久住卓也による兄弟ユニット。

同じ『中学生日記』でも、NHK教育のアレとはまったく別モノですが、
タイトルに偽りなしという意味では、むしろこっちのほうが真の『中学生日記』です。

中学生。
扉絵に「一生で一番ダサイ季節」とありますが、
まさにこの一文ですべて説明できるのが中学生という時期です。

大人でも子供でもなく、やたら自意識過剰で斜に構えてて、
変なあこがればかりが先行しているのに頭はバカで、ひとりで悶々としていて
それでいていざというときには大人に頼らざるを得ない……。

そんなダサさ全開の3年間を切り取り、
「クラスにいた、こーゆーヤツ!」というエピソードで4コマに仕立てたのが本作です。

あ? 私の中学生時代はそんなダサくなかった?
ハハハ、まさか、ご冗談を。 …え? 冗談じゃなくて?

オーケーオーケー、じゃあ下記のうち当てはまるものがないか、確認しなさい。

・頼まれてもないのに自分のサインの練習した
・消しゴムのカスをまとめて練り消し(でもコレ消えないんだ)にした。
・夜中に泥棒に襲われたら…と妄想してしまい、対処法をシミュレートした。
・年賀状にやたらと凝った絵を描いていた。
・遠足とかの写真撮影のとき、無駄にカッコつけようとしていた。
・作曲も演奏もできないのに、ノートにオリジナルの歌詩を自作していた。
・学校では大人しいのに、家ではやたらワガママ大王だった。
・友人が勧めてくれたSF作家にハマり、大人の階段を上った感でいっぱいだった。
・吸えもしないのに、タバコのカッコいい吸い方を練習していた。
・自室でヌンチャクの練習をして、頭にぶつけた。
シャドーボクシングをして、足をすべらせて盛大にこけてケガした。
・オリンピック開催時に、日本人選手への失望感をあらわにしていた。
・道端の空き缶や小石で謎の変形サッカーしながら帰宅した。
・異性から突然手紙をもらい、一文一文その内容を過剰なまでに吟味していた。
・男なのにやたらピアノが上手かった、あるいは上手いやつがいた。

な? あるだろ、1個くらい、当てはまるのが。

程度の差こそあれ、こうした益体(やくたい)もないことに無駄なエネルギーを注いだり、
あるいは振り回されたりするってのが、中学生時代なわけだ。

あとから振り返れば“痛い”思い出でしかないし、
実際のところ中学生時代の本人だって「うわー、バカ丸出し」とか思ってるんだけど、
それでもこの“ダサさ”は避けようがない。
(中学生からスポーツなどで大活躍しているような人でない限りは、ね)

むしろ、“ダサくないように、カッコよくしよう”と思えば思うほど、
本人の意図と反して、ダサく・バカっぽくなっていく。
実際、本作に登場する男子中学生たちも、「これってカッコいいかも」という発想から
分不相応な背伸びをして、どんどんダサい方向へと転がって行ってしまう。

じゃあ最初っから上記にあるようなカッコつけ・おバカ行為から遠ざかっていれば、
いわゆる中学生的なダサさを避けられるのかというと、それも無理だと思う。

というのも、中学生的なダサさや“痛さ”ってのは、麻疹(はしか)みたいなもので、
成人する前に患っていたほうがいいんだよ。
よく言うじゃん、「大人になってからの中二病は症状が重い」って。
それと同じで、こうしたダサさや“痛さ”を知っておくことで、
大人になってから「分相応」だとか「自然体」って概念をを理解できるんじゃないかと。

そういう意味では、本作で「あったあった、こういうこと!」と共感できる人は、
中学生的ダサさや“痛さ”に対する免疫ができていることになる。

逆に、笑いの内容が理解できない人は、免疫ができていない恐れがある。
つまり、今これから「一生で一番ダサイ季節」を経験するという可能性もあるわけだ。
どうでしょう、免疫テストとして読んでみてはいかが?