じゃあやるなよ。いや、そうやって始めた手前さあ。
だんだん冬が近づいてきまして、ほんと冬の寒さって大嫌いなんですよ。
沖縄生まれなので。熱帯ポケモン。寒さに弱い。
だけどもこの漫画を読めば、
「家があるだけで素晴らしいのだなあ」としみじみ、笑いとともに実感できます。
ロリコンSFギャグ漫画家(たぶん合ってる)として著名な作者の、
アル中生活、ホームレス、自殺未遂、肉体労働、入院生活をセキララに描いた快作。
ノンフィクション漫画として優れており、ギャグ漫画として優れており、
もちろん漫画そのものとしても優れているという、奇跡的な作品です。
特に前半「夜を歩く」のホームレス生活が素晴らしい。
野生の大根やキャベツ(畑のやつ)をかっぱらってカッターナイフで刻んで食べたり、
中華まんの表面のカビを取り除いて焼いて食べたり、
料亭の生ゴミは、煮物に味がしっかり染みてて合格! だったり、
ゴミあさりは朝4時に起きてその後2時間が勝負だったり、
「い●げや」のゴミ置き場は宝物で、マ●ドナルドは管理が徹底していたり、etc、etc...
なんともまあ生命力にあふれているというか、
根っこの部分がまともなら、家がなくっても何とかなるんだなあと感じさせてくれる。
そんでもって、読んでいて悲壮感がない。
いや、あるんだけども、ギャグとしてきちんと昇華されている。
例えば、居酒屋の生ゴミから鯛のカブト煮を食べ、腹壊して3日間寝込むんだけど、
その後でフラフラになりながら「くそ あの店訴える!」と悪態をつく。
ただ“腹壊して死にそうだった・辛かった”ではなく、
「ああ、今だから笑って済ませられる話なんだ」とオチをつけてくれる。
悲惨さの中に、しっかりとギャグが生きているわけ。
悲惨さを体験し、自ら反芻し、『読める』作品──しかもギャグとして再構築する。
これはもう吾妻ひでおという漫画家にしかできないんでしょうな。
本書のあとがきにて、作者との対談でとり・みきが語っていたんだけども、
この言葉がすべてを物語っていると言っても過言ではない。
「逆に、そういうのをギャグにしちゃわないで、パンツの中まで見せて、
ドロドロした部分もさらけ出したほうが凄いとか言われがちじゃないですか。
評論家とか、実作者でも。『作家たるもの』みたいなね。
僕はそれ、絶対に違うと思うんです。それを一旦ギャグにして出すという、
その辛さ、芸として見せることのほうがいかに大変なことかと思うんですけど」
かなりの確信をもって言うんですが、
おそらく同じことを他の漫画家が体験しても、ここまで面白い作品は描けまい。
つまり、作者の体験談そのものに、面白さの本質が隠れているわけではないだろう。
少なくともホームレスやアル中患者は、作者と似たような体験をしているはずだから、
体験談そのもののレア度というか、「ありえない」度はそこまで高くない。
じゃあどうしてここまで面白くなるのかというと、
やっぱり自分が体験したことを第三者的な視点から見つめ、
それを漫画としてどう演出できるのか徹底的に考えたから、ということになる。
単なる事実をなぞってありのままに描写するではなく、
事実を見つめ直して、「あっ、このエピソード、他人にとっては面白いかも」と気づくこと。
そして、その気づきを作品としてカタチにすること。
これができているから、本作は単なる“残酷物語”に陥っておらず、面白い。
ぜひとも、「俺の人生つまんねー」と言っている人にぜひ読んでほしい作品。
絵柄も素晴らしく洗練されており、読んでいて目に優しい。5つ星。