気を取り直してね、行きましょうかね。
マンモス団地に住んでいる、小学4年生の男子、木下友夫(ともお)。
彼とその周辺人物たちの日常を描いた漫画です。
連載は今年で10年目に突入し、単行本は20巻まで続いている長期連載作品でもある。
『江豆町』の紹介でも述べたような、“どこかズレてる”テイストは本作でも変わらず。
プロ野球が「藻リーグ」と「蛾リーグ」だったり、スナック菓子が「うどん味」だったりしてて、
それらに対しては当然のごとくノーツッコミというフリーダムさ。
でも今回考えたいのはそんなことじゃなくて、
「この漫画はいったい本作は何漫画なのか?」ということ。
『団地ともお』は、基本的には1話読みきり形式。
ともおやその友人たちのバカバカしくも小学生スピリットにあふれた日常がメインですが、
笑いがあるかと思えば、じんわり感動するエピソードもあり、
含蓄に富んだセリフや、しんみり悲しくなる話もある。
ひと筋縄で片付けられない、いろんなジャンルから少しずつはみ出しまくった作品です。
子どもたちだけでなく、大人たちの妙にペーソスあふれる生活が描かれたり、
ときには犬猫、カラス、昆虫、無生物が主役のエピソードも登場。
セリフなしで進むサイレント漫画、サスペンス調の復讐譚、
登場人物全員がアメリカのコメディドラマ風にしゃべるエピソードや
重力を操るオモチャや“のろし”でやりとりする携帯電話といったありもしない道具が
キーアイテムとなっているエピソードなど、無軌道っぷりがハンパないのです。
もちろん1話1話は面白いんだけど、果たしてこれを何漫画というべきか。
考え出すと、夜も眠れない、こともない。
ただ、ずーっとこの作品を読み続けてきて、うすぼんやりと見えてきたものがあります。
まだ連載途中の作品なので、確証は持てないんですが、
『団地ともお』のテーマは、おそらく“気づき”です。“価値の発見”としてもいい。
すべてのエピソードに共通するわけじゃないですが、
本作では登場人物たちが何かに気づくシーンが非常に多い。
小さな生命が秘めたパワーや、才能とやりたいことのバランスの取り方、
自分の中のちょっと嫌なところ、親子のちょっとした絆、友達の隠れた長所、
“事務的なものの中に垣間見える個人の私情”の楽しさなど、
それこそ身の回りのささいな価値、今風に言えば“イイネ!”に気づくシーンが多いのだ。
当然、読者であるこちら側も、ハッとさせられることが多々あるし、
時おり、本当に感動するくらい衝撃的な“気づき”に遭遇することだってある。
例えば単行本16巻所収、「大切なのは心技体と何なんだ ともお」のエピソード。
マルバツ(3×3のマスに○と×を並べるアレ。三目並べ)を指して、
「最善を尽くして引き分け続けるか…いいゲームだよな」と評価するんだけど、
このセリフを読んだ時、ほんとに天地がひっくり返るくらいハッとした。
マルバツを「最善を尽くして引き分け続けるいいゲーム」なんて評した漫画、
今までにあったか、いやない。(反語)
もちろん、ギャグのセンスも高いし、ストーリーそのものも面白いんだけど、
こうした見えない価値・気づいていない“イイネ!”に出会えるから、
10年近くにわたって本作を読み続けているんだと思います、はい。
テイスト的には全然違うけれど、
笑えるストーリーの中に忘れられがちな“気づき”を織り混ぜるという意味では、
アメリカの過激アニメ『サウスパーク』に通じるものがあるんじゃないかとも思う。
突拍子もない描写も平気で出てくるし。
今年の春にはアニメ化されるみたいだけど、
こうした“気づき”感がどう映像化されるのか、興味深いところではあります。
すごくフェイバリットではないけど、なくなったら悲しいなーと思ってしまう、
そんな末永く読み続けていきたいタイプの作品。おススメ。