覚悟のススメ

この漫画を読んだことのある人は幸福である。心熱き人であろうから。

とまあバイストンウェルばりのナレーションから入りそうなくらい、

この『覚悟のススメ』を読んだことがあるか・ないか、

そして受け入れられるか・否かで漫画人生変わると思います。いやホント。

本作をひと言でいえば、

世紀末ヒーローによる愛と勇気と青春と内臓と脳漿と死山血河の物語です。

ひと言じゃないうえに、なに言ってんだか分かりませんね。

もとより説明するつもりもありません。

ものすごく純粋で実直でヒューマニティーにあふれた青年と

その彼の相棒である「生きた鎧」とが、

同じく「生きた鎧」と人類への怨念を身にまとう兄に戦いを挑む、というお話。

でもそんなことはどうでもいいんです。

よかあないけど、それは、まず読めっつー話。

この漫画ね、とにかくテンションが高い。

違うな、テンションが高いというより、読み手のテンションを上げる。

どうやって? そのテキストで、だ!

「負けることが恥ではない! 戦わぬことが恥なのだ!」

「その言葉、宣戦布告と判断する。当方に迎撃の用意あり!」

雑草などという草はない」

「零を観ていると涙が止まりません!」

「覚悟とは苦痛を回避しようとする生物の本能さえ凌駕する魂のことである!」

「父がいつかおまえだけに亀が兎に走り勝つ話をしたのを覚えているか?

 あれはおとぎ話ではないぞ!」

「正しいから死なない」

「天国で割腹!」

「ヘンタイか覚悟ー!」

「何だか知らんがとにかくよし!」

「牙を持たぬ人のため地下百尺の捨石とならん!

 この一念、この年齢まで言い聞かせたるこの身なれば

 首の落ちたるとて死ぬ筈はなし!」

「俺は君の歌になりたい…」

「残った右がやけに熱いぜ!」

「愛という名の後方支援! 現人鬼にはわかるまい!」

いやもう作者・山口貴由の言語センスが亜空間方向に向けて炸裂しまくってる。

強烈な言い切り口調、ありえないワードチョイス、歯切れのいい語調。

「声に出して読みたい」ってのはこーゆーことだと言わんばかりに、

あなたの大脳辺縁系をビシバシと刺激。

作中に登場するアイテムや技などのネーミングセンスも素晴らしい。

強化外骨格、零式防衛術、戦術鬼、戦術神風、怨霊成仏光線などなど。

まあ絵柄、たしかにクセがありますよ。

細部まで描き込まれてリアルだし、すぐ血みどろんなるし、

内臓ドバー、腕ズバー、目ん玉グシャーだし。

ヘタではない、むしろ上手だし描き込みもハンパない。ただクセがある。

でもそれはさ、すげー臭いクサヤが食ってみたら美味いのと一緒、

あるいは、見た目にグロいナマコが美味いのと一緒で、乗り越えられるでしょう。

だって漫画自体は抜群に面白いんだもん。

(逆に、万人が認めるいい香りで美しい盛り付けだけど、

 味が不味い料理ってのはダメ。食えない。漫画でいえば面白くない、読めない)

と、も、か、く、本当に面白い漫画を読みたいのであれば、

たとえ絵柄が肌に合わなくても、ガマンして読め。っつーか声に出して読め。

十中八九、ほぼ間違いなく、きっと、途中から気持ちよくなってくるから。

単行本は全11巻・全100話。伏線すべて回収し、

しっかりかっきり大団円というまれに見る傑作。5つ星。読めよ。