いやー、昨日から読みたくなっちゃってさあ。ダンボールひっくり返してさあ。まだ読んでる。
あ・ら・す・じ。
妖怪を滅ぼす古今無双の霊槍“獣の槍”に選ばれてしまった中学生・潮(うしお)と、
そのうしおを食べるべく彼にとり憑いている妖怪・とらが、
あっちこっちで熱く激しい妖怪バトルを繰り広げるとゆーもの。
やがて1人と1匹は、最凶最大の妖怪“白面の者”との戦いに巻き込まれてゆく……。
ストーリーにおいて特筆すべき点として、全33巻という長編作でありながら、
最後のボスがほぼ序盤から決まっていることが挙げられる。
いや、もちろん、ラストまでには波乱万丈・紆余曲折があります。
紆余曲折どころじゃねーな。曲々々々折くらい。
白面の者との戦いが1本あるんだけど、同時並行的に単発エピソードも40近くある。
だけどもそのどれもが無駄エピソードではなく、ラストまでにしっかり絡んでくる。
ありがちな「○○とは何だったのか」的なエピソードがない。
潮の出生も、とらの出生も、獣の槍も、白面の者とのただならぬ因縁があり、
最後の最後でその因縁にケリをつけるという一本大きな柱がストーリーを貫いている。
最終決戦には、1巻からのいろんなキャラクターや要素が総出演してきて、
おまけにあらゆる伏線を回収しまくってきて、もう!
そのクライマックス感とカタルシスたるや少年漫画史上でも屈指。
コミックス26巻から33巻までの盛り上がり方は、何と言えばいいのか、
神仏でさえも「おい早くページめくれ」ってうながすくらい。
まあ細かいところをつっつけば、いろいろと矛盾がないでもないけど、
そこまで致命的じゃないし、単行本にして総ページ数5000というボリュームを考えるなら、
むしろよくぞこれだけの大きな風呂敷をまとめ上げたと感嘆せざるを得ない。
そして、ストーリーだけでなく、そのテーマ性も深い。
バカだけど明るくて真っすぐな潮と、自分の欲望に忠実なとら。
この1人と1匹、人間と妖怪、すなわち陽と陰の複雑な和合が、物語の根底に流れている。
そんでもって、さらに物語を奥深くするのは、潮や人間が必ずしも“絶対的な陽”とは限らないし、
とらや妖怪が必ずしも“絶対的な陰”とは限らないということ。
確かに潮は基本的には陽で、とらも基本的には陰だけど、
その境界線はあいまいなもので、潮には潮の、とらにはとらの、それぞれ陰陽があるわけです。
キャラクターが単なるストーリー上の記号に陥っておらず、光と影を行ったり来たりしてる。
そういう明るい部分、暗い部分の混ざり合ったどろどろしたものが、
キャラクターに深みを与える。存在感を与える。共感を呼び、世界とつながる。リアルになる。
虫取り網を持って野山を駆け巡る笑顔の少年が、ときに虫を平気で殺してしまうように、
あるいは恋愛小説に夢中の少女が、親に隠れて陰惨なホラー映画を鑑賞してしまうように、
人間だれしも仄暗い何か、後ろめたい何かを心に隠し持っている。
「うしとら」は、その隠したい部分・見せたくない部分を、ビシビシ突いてくる。
「明るい部分を描きつつも、陰の部分、闇の部分も描きたい」、「月と太陽の両方を描きたい」。
キャラというミクロな視点だけじゃなくて、作品全体をこの陰陽のバランスが支えている。
そもそも、“妖怪と戦う”という設定の時点で陰が生まれるのは明らか。
だって妖怪を、しかも悪い妖怪を描くんだったら真昼だけってわけにゃあいかないもの。
そりゃあもちろん、ストーリー全体としては正統派の少年漫画の見本みたいなもんですよ?
だけど夜のシーン、暗い場所での戦闘は圧倒的に多いし、エグイ人死にもきっちり描く。
どれくらいエグイかっつーと、人体損壊も生首もある。無論、モブキャラのですけど。
おまけに、ところどころで“潮の持つ明るさが苦手だ”というワンシーンも描かれる。
明るすぎて、真っすぐすぎて、着いて行けない。そういう感じ。
だけども、そういう目を背けたくなるところ、弱き部分にも、描かれるべきものがあるのだと。
単なる正義のお話でも、お涙ちょうだいのお話でもない。
血だらけになって、泣いて、死なれて、裏切られて、それでも歩みをやめない、ぶ厚いドラマ。
それこそが本当の意味での王道ってやつだし、
傷つきながらも大人を目指す少年たちの気持ちを斟酌した少年漫画だと思う。
熱い名言、熱いシーンは数えきれないほど多く、読んでいて勇気がわいてくること請け合い。
上に述べたように、暗く・哀しいシーンもあるけど、それを含めて、胸が“ギュッ”となる。
人間のいろんな感情を、見事なドラマに仕立て上げ、
そのドラマひとつひとつを織って壮大なタペストリーに仕上げた奇跡の名作。10つ星。読め!