時間が空いたな。夏だからね。ダルいねん。で、同じく夏だから、ホラー漫画でも取り上げる。オガツカヅオ『りんたとさじ』。今は亡き「ネムキ」掲載作品。あ、今はNemuki+か。
霊感があってアヤしいバイトに精を出しているリン太と、その彼に「佐藤順子 略してサジな」と言われたことでホレたサジが体験する、現実とあっち側のはざまにあるような、不思議怪奇物語です。全1巻で、1話完結タイプの連作短編。
- コタツの中で“寝てる”奥さんと、その旦那が語るお話し、「炬燵の人」。
- 綺麗な妖精になった片付けられない女、「妖精の人」。
- 死んだ猫にとらわれ続けている夫妻と、隠された真実、「鳴く人」。
- 事故死した妻と娘と、生き残った中年男性をつなぐ電話、「さくらの人」。
……など、全8話構成。どの作品も20~30ページ前後ですが、これまでの展開をガバッとひっくり返すような凝った仕掛けが多くて、絵で恐がらせると言うよりも、ストーリーで読み手を引っ張っていくタイプの作品です。脈絡のなさや展開の不条理さで恐がらせる『不安の種』とは、また違った恐怖。いやまあホントは恐いビジュアルもあるんですが、メインではないって話。
オチがしっかりついている話もあるけど、もやもやさせたまま終わる話もある。最後まで読んでもわけわからない、という人もいるかもしらん。でも、「その先に何がくくりつけられているかわからないヒモ」を延々と手繰り寄せているような不安感・浮遊感がグッド。
特に際立って描かれているのは、人の思いや情念の持つ危うさ。憎悪や怒りだけでなく、憧れや愛情・慕情といったのポジティブな感情でさえも、度が過ぎれば異常な事態を招きうるんだということを、描いています。セリフや説明で、ではなく、あくまでストーリー展開から読み解けるようにね。死者を死者たらしめるのは、生者なんだなということがよくわかる。
で、言い忘れてたんだけど、すんげーマイナー作品なんだよね。いや、俺がそう思い込んでるだけかもしれんけど、少なくとも周囲では知ってる人見たことない。
でもだからこそ、掘り出し物感があって、初めて読んだ時は嬉しかった。もっと読んでみたい作者なのだけど、今のところ残念ながら単行本はこの1冊だけなのよね。雑誌掲載自体は続いているようなので、今後に期待。を込めてオススメ。