Fables vol.1 "Legends in Exile" (翻訳その8)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたファンタジーコミックです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

<チャプター4:記念集会>

<こうしてビッグイベントの日がやってきました。フェイブルタウンの人々にとっては、1年で最も重要な日。クリスマスと独立記念日が何倍にもなったかのようなビッグイベントです>

【馬車に乗って、正装のビーストとビューティ夫妻がやってくる。ビーストは呪いを抑えられているらしく、完全な人間の姿をしている】

ビースト「薄明かりの中、正面玄関から入場する。約束通りだね、いとしい人」

ドアマンのジョン「ビューティ婦人、ビースト候、今宵お二方をお目にできて光栄に存じます。もしビースト候が完全に獣の姿でありましたら、お引き取り願ったかもしれませんが、喜ばしい限りです」

ビースト「我が妻のおかげだよ。私が再びハンサムになるくらい、この日に関することを熱望していたからね。もちろん、“この日”には私自身も含むんだが」

ビューティ「よしてよ」

ビースト「チケットだ、ジョン」

ジョン「いえいえ、チケットは会場でお受け取りいたします。19階へお上がりください」

ビューティ「くじ引き券はどこで買うのかしら?」

ジョン「警備デスクです。中に入ったところですよ」

【エレベーター前の警備デスクでくじ引き券が販売されている。ドレスやタキシードを着た多くの人々(もちろんフェイブルズ)が、抽選券を購入している】

ビューティ「いいでしょ? 今夜の抽選会が始まる前にもう少し券を買っておきたいのよ」

ビースト「どうしてだい? あれは非常に高価だよ。もう一度、自国の領土を得られるチャンスを買う余裕は、僕等にはないよ」

【券売所に掲げられている売り文句】

<自分の王国を手に入れよう! くじ引き券売り場>

ビースト「僕等はすでに役立たずの領土と城を所有しているじゃないか、ホームランドで永久に失われてしまった領土と城を。なぜ失われた領土と無価値な肩書きを得るために、借金しなくちゃならないんだ」

ビューティ「なぜって、それはあなたの領土でありあなたの肩書きだからよ。私は、お金と結婚したただの雇われ百姓の女。自分自身のものである何かが欲しいの。もし抽選が当たったら、私は自分自身の権利で女王になれるわ」

ビースト「最低賃金のために書店で働いているのに?」

ビューティ「今夜を台無しにするつもりなの、ダーリン?」

※ビーストとビューティは財産の大部分をホームランドに残してきたため、あまり余裕のない生活を強いられているらしい。ビューティは書店で、ビーストはビルのメンテナンス担当として働いている。

グリンブル「抽選券1枚100ドル、5枚購入で50ドル引きですよ!」

【くじ引き券に群がる人々を眺めるプリンスとスノウ。プリンスはタキシード、スノウは肩の露出した黒のロングドレスを着ている】

プリンス・チャーミング「素晴らしいな、スノウ。今なら、なぜ私が君の助けを必要としたかわかるかい? 肩書きを売却する最良の方法がくじの抽選にかけることだったなんて、そんなことは思いつきもしなかったよ」

ホームランドの領土を抽選にかけるというアイデアはスノウの発案のようだ。これに対し、プリンスはオークションで自分の肩書きと領土を売却しようとしていた。翻訳その3を参照。

スノウ「あなたには何物も思い浮かばないでしょうね。特権階級であるばかりでなく、賢さも生まれ持っているなんて考えられないもの」

プリンス「手痛いな」

プリンス「どれくらい儲けが出たんだい?」

スノウ「今朝の時点では30万ドル近く。けど今日も売り上げは伸び続けているわよ。現時点で2倍くらいになってなきゃおかしいわ」

プリンス「お見事。完全に実体のないものを得るわずかなチャンスに、進んでお金を払う人がそんなにいるとは、いったい誰が考えただろうね」

スノウ「“富くじは愚者の税金”とはよく言ったものよ」

【そっけないスノウの態度にプリンスは言う】

プリンス「今夜ずっとそんな風に振る舞うつもりかい? 自分らしさってやつを忘れてしまったのか? もう300年も400年もしかめっ面をしているじゃないか」

スノウ「あなたがそうさせていると知るべきね」

プリンス「僕がローズ・レッドと浮気したことについては時効だろう? どうして一度の不幸な事故についてそんなに思いつめるんだ。君は永遠に若く、美しい。それは最大限に活用すべきだよ」

【スノウにぐっと顔を近づけるプリンス。背後ではビーストが時間を気にしている】

プリンス「実際、今宵の君は文句なしに美しい。誰か特定の人のために着飾っているのかい? それとも僕のため?」

ビースト「そろそろ上階に行かないと朗読に送れるよ、ハニー」

スノウ「失礼ながら、あなた、いきなり平凡でうんざりするような人間になったわね。この夜のあと、より一層悪くなるんじゃないかしら」

【冷たく言い放ってプリンスから離れるスノウ】

スノウ「元“大物”として最後の素敵な夜をお過ごしなさい。誰もが認める“つまらない人物”になる前にね」