Fables vol.1 "Legends in Exile" (翻訳その12)

※『Fables』は、おとぎ話を題材にしたアメコミです。悪の勢力によって、おとぎ話の世界“ホームランド”から追放されたさまざまなキャラクターたちが、現実世界で素性を隠しながら生活しています。キャラクターたちは自らをフェイブルズと称しています。

<チャプター5:素晴らしき応接間のシーン(ただし、応接間なし)>

【前回から引き続き、コール老王のペントハウス。ビグビーの解説シーンが始まる】

ビグビー「テレビでどう見えようが、一般的な警官の生涯というものは退屈でつまらない、しかも終わりのない骨折り仕事と言うことができる」

ビグビー「銃撃戦もカーチェイスもごくごくわずか。それらは膨大な時間外の書類仕事を生むから、まともな警官なら仕事の中断になるようなそんな仕事を歓迎しないものなんだ」

ビグビー「誠実な警官ほど裕福にならないし、最終的に現実世界の警官は20年から40年で引退する。俺自身は、ホームランドからの追放と“大赦”以来、200年以上もこの仕事をしてきた」

ビグビー「銃撃戦も、ついでに言えば発砲にさえ出くわしたことがない。カーチェイスどころか車の運転を学んだこともない。容疑者を追いかけたことでさえ、片手で数えることができる」

ビグビー「概して、刺激的なキャリアを経験したとも、興味深いキャリアだったとも言うことはできん。しかし大事な瞬間には、ささやかな報酬が得られる。自分を探偵だと想像する人は誰であっても、優れた“応接間のシーン”を演じる日にあこがれるんだ」

ジャック「どういうことだよ?」

ビグビー「誰が何をやったのか、犯人がどうやったのかを解き明かす瞬間にあこがれるってことさ。そして一番重要なんだが、それら全部をどうやって理解したのかを、みなに説明する瞬間にもあこがれるんだ」

【フライキャッチャー、とぼけて言う】

フライキャッチャー「僕らは応接間に行かなきゃならないってこと?」

ビグビー「いいや、場所は実際のところ問題じゃない。ここで十分だ」

コール老王「ならば続けたまえ、ウルフ氏。じらさられるのは我慢できぬ」

ビグビー「フェイブルタウン市長のご命令とあれば、従うほかありませんな。この事件の核心に対する疑念は、事件の一報を聞いた瞬間にまでさかのぼる」

ビグビー「俺たちはアッパー・ウエスト・サイドに住んでいるな。ローズのアパートがある下町からは遠い。ジャックは“事件”を報告するために、タクシーに乗車しなきゃならなかった。その間、落ち着いていられたんだ。タクシーが駐車した場所から俺のオフィスまでの短い走りでは、ジャックが息切れすることはない。しかしジャックは半狂乱状態だったし、息も絶え絶えだった」

回想シーンのジャック「はあはあ…恐ろしいことが起きたんだよ!」

ビグビー「なぜか? ひどい事件を発見して、それを知らせるために駆け付けたばかりだという筋書きを俺に思い込ませたかったからだ。しかしジャックは、やり過ぎてしまった」

ローズ「うまくやりなさいって言ったでしょ、まぬけ!」

ジャック「けどよ…」

ビグビー「額面通りに受け取るなと忠告を受けたようなものだ。そうして、ローズ・レッドのアパートを注意深く見た。それが“計画された”犯行現場──しかもヘタクソな計画──だというのは、すぐに気づいた」

ビグビー「血はリビングルームの床のいたるところに飛び散り、広がっていた。犯行後、いささかの足跡もつけずにそこに出入りすることは不可能だ。しかし、ジャックはローズを探すため、そこを調べたと言ったな?」

回想シーンのスノウ「ローズがいるかもしれないじゃない、ベッドルームを調べて!」

回想シーンのジャック「もう調べたよ。彼女はいなかった」

ジャック「あんたと同じように、血だまりを飛び越えて歩かなかったとどうして言えるんだ? 証拠を維持するためにさ」

【スノウ、皮肉めかして言う】

スノウ「まあ、確かに。目の付け所がいいこと!」

ビグビー「それはないな、ジャック。恋人がベッドルームで出血して死にかけているかもしれないのに、現場の証拠維持を気にして部屋に入るやつがいるか?」

ビグビー「それだけが間違いだったわけじゃない。お前たち2人は犯行現場を演出しようとしたな。このときや家財道具は本当に叩き倒すべきだったんだ、自分らの望む位置に注意深く置くんじゃなくてな」

ビグビー「柱型ランプは倒れていたが、電球部分は壊れていなかった。ローズが好んで使っていたというセラミックの灰皿も床に投げ出されていたようだが、破片はひとつもなかった」

ビグビー「またローズは、ステレオは無事のままにしておきたかったに違いない。両側には血が気前よく飛び散っていたというのに、ステレオだけは奇跡的に避けられていたからな」

ビグビー「投げつけられたたくさんのCDは、そこで取っ組み合いが行われたと推測したい人間にとっては、格好の飾りつけだった。しかしローズは、そんなに好んでいなかったCD──CDラックの後ろ側のものだけを“犠牲”にするつもりだったんだろう。好んで聴いていたCD──ラックの前面に並んでいる分は、まったく触れられていなかったんだ」