SFです。R・A・ラファティ『九百人のお祖母さん』。短編集です。
このラファティという作家は、非常に独特な作家として知られていまして、
あまりに独特過ぎて「彼の作品は“ラファティ”というジャンルだ」とまで言われています。
(Wikipediaの当該項目参考のこと)
日本でいえば、誰だろう、分野も系統も全然違うけど、平沢進みたいな立ち位置。
ヒラサワはいろんなジャンルの音楽に手を出してるけど、
恐ろしいことにどれもヒラサワしてるでしょ。ラファティもそんな感じだと思ってもらえれば。
さて一般的にSFというとサイエンス、つまり科学をテーマにしている小説を指しますが、
竹取物語をSF作品と見なす人がいるように、その枠組みは広大無辺です。
メカメカしいガジェットや宇宙的なキャラ、未来を先取りした物語だけがSFではないわけ。
そういう意味ではこの短編集もまごうことなくSF小説。
なんだけど、それだけでは言い表せない奇想天外・摩訶不思議な魅力があります。
ざっといくつか簡単に紹介。
◆ ◆ ◆
誰も死なない星に降り立った男が、900人のお祖母さんをたどることで
宇宙の始まりを探し求めようとする表題作、「九百人のお祖母さん」。
60倍の加速された時間で生きる術を見つけた男が見つけたのは、
歴史から隠された叡智のヒントだった……。「時の六本指」。
とある惑星の人々が取り入れている教育制度と行政に関する
いくつかの信じがたい報告書、「カミロイ人の初等教育」、「カミロイ人の行政組織と慣習」。
わずか3メートルの溝に圧縮された、
800メートル四方の土地を巡るドタバタ喜劇、「せまい谷」。
生命を賭して血みどろの狩りに挑む男の戦いを、泥臭くも幻想的に描いた「山上の蛙」。
言語学に散らばる不可思議な疑問や、子どもたちの間で流行した残酷な童謡、
人々の心に潜む奇妙な喪失感などをつなぐミッシングリンクとは……。「その町の名は?」
◆ ◆ ◆
その他、全部で21の短編が収録されてますが、
基本的にどれも不条理で、ばかげていて、奇妙な物語ばかり。
本書の訳者あとがきにも書かれていますが、まさに“ホラ話”としか言いようがないです。
それも、単なるホラ話じゃなくて、
根拠も、とらえどころも、意図も、時にはオチさえもないような、真の意味でのホラ話。
「えっ、それで終わり?」みたいな話も多く、起承転結さえ怪しい。
というか、むしろ「面白がらせようとすら思ってないんじゃないか」と、考えてしまう。
とはいうものの、メチャクチャでありながらも絶妙なバランスで物語は成立しており、
小説として破綻していないのがすごいところ。
こういう文才は、ある意味貴重だし、
SFというジャンルの底の深さと広さを感じさせてくれるので、純粋にすごいと思う。
テーマやストーリーの筋道がはっきりしたオーソドックスなSFを好む人には
いささか読みづらいかもしれませんが、こういうSFもあるということ──というか、
“こういうの”もあるのがSFだということは知っていてほしい。そういう文脈でおススメ。