2015年の漫画、映画、ゲームなど振り返り

社長のみなさーん、年末ですよー。年末振り返り企画として、今年の漫画・映画・ゲームなどから特に良かったものをザックリ紹介。 

映画『ジョン・ウィック』 

2015年新作映画は『チャッピー』『キングスマン』などを観ましたが、この作品が一番面白かった。かつ、一番自分の趣味にマッチしてた。殺し屋がキレて全員ぶち殺すという単純明快なストーリーなのに、アクションのカッコよさ、シリアスかつ殺伐とした雰囲気、セリフの応酬のセンス、映像&演出の上手さで、作品全体の満足度を底上げしてる。あとまあ純粋に燃えるよね、引退した凄腕の殺し屋が復讐のために立ち上がって、かつての仲間の協力も得ながら巨大組織と対決するというプロットは。本名ジョン・ウィック、あだ名はブギーマン、またはバーバ・ヤガーってカッコよすぎか。続編も計画中らしいし、期待できる。

映画『マッドマックス 怒りのデスロード』 

いい・悪いの価値観を超える作品がしばしば誕生しますが、2015年は『マッドマックス 怒りのデスロード』がそれでしょうな。最初から最後までハイスピード・ノンストップ・フルスロットルで、映画と言うか「体験」だった(っていうのは誰しも言ってるけど)。『ジョン・ウィック』と同じくらいストーリーはシンプルで、説明・解説も最小限。主役のセリフだって数えるくらいしかないのに、ビックリするくらい面白いっていうんだからワケがわからない。

ただひとつ言えることは、細部にいたるまで作り込みへの情熱度がハンパない。あらゆる小道具やちょっとしたセリフ、キャラの衣装や背景の映像が、マッドマックスの世界とキャラクターたちの心理を雄弁に物語っている。映画でしかできないこと、映画にしかできないことに、制作陣が真正面から本気で取り組んで・しかも成功させたという快作。

漫画『あもくん』(諸星大二郎) 

あもくん (幽COMICS)

あもくん (幽COMICS)

 

みんな大好き諸星先生の現時点での最新作。角川から出てた幽COMICSのまとめ。父親である「私」と息子の「あもくん」、その周囲で起きる異質な出来事を描いた連作短編。ちょっとした違和感からゾッとするようなオチに導いていく諸星テイストは健在。いくつかユーモア風味の作品もありますが、基本的には現実と恐怖のはざまに落ち込んでいくような、足元のおぼつかない雰囲気を味わえます。結構むかしの作品の所収だけど、単行本化は今年初なのでやっぱり外せないよね。 

漫画『ゴールデンカムイ』(野田サトル) 

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

ツイッタのフォロワーさんがおススメしているので読んでみたら、近年まれに見る・なんとも形容しがたい異色作だった。舞台は開拓時代の北海道(蝦夷)。退役軍人&アイヌ少女とが、独立国家建設を狙う軍師団や死んでいなかった土方歳三らを相手に金塊争奪戦を繰り広げる、というのがストーリー。……なんだけど、実態は北海道の珍味を食いつくすジビエ料理漫画、かつアイヌ関連のトリビア紹介漫画としての描写のほうがインパクトあって、一種異様な面白さを醸し出している。スケールのデカい物語と、半径5メートルくらいの身近な話題が同居している感じ。

ヒロインの顔は時おり不細工になるし、実在人物をモデルにした奇怪なキャラが何の前触れもなく出てくるのも珍味のような味わいがある。ただ面白いだけではない、謎な作品。ぜひこのテイストを忘れずに突き進んでほしい。

漫画『衛府の七忍』山口貴由 

『エグゾスカル零』を終えた若先生の最新作。天下泰平を推し進める徳川幕府と、その支配に虐げられるさまざまな「まつろわぬものたち」の復讐を描いた、死山血河の怨霊忍法残酷絵巻です。時代考証も現実味も笑って吹き飛ばすようなありえない描写が満載で、外連味のあふれる戦闘シーンと発想の狂った必殺技が満載。羽毛なみに命が軽い世界観で、すぐ殺す・すぐ死ぬ・すぐ内臓が出るんだけど、根っこのところがどこかテンションおかしいいので、とにかく愉快痛快に読めるのが良いですね。『覚悟のススメ』や『蛮勇引力』、『エグゾスカル零』と同じ名前の登場人物も出てくるので、山口貴由ファンであればあるほど楽しめます。

OVAジャスティス・リーグ:ゴッド&モンスター』 

ジャスティス・リーグ:ゴッド&モンスター [Blu-ray]

ジャスティス・リーグ:ゴッド&モンスター [Blu-ray]

 

ブルース・ティム先生のプロデュースによるジャスティス・リーグOVA。リブートというか、ほとんどエルスワールドもので、スーパーマンはゾッド将軍の息子、バットマンはカーク・ラングストロム博士(マンバット)、ワンダーウーマンはオリオンの恋人ベッカという改変っぷりが見どころの一作です。正史とは全然違っててかなりバイオレンスだし人もガンガン死ぬ(そのシーンもがっつり描写する)。っていうか、この3人だって悪人とあれば命を奪うこともためらわない。

そんな3人が直面するのは、高名な科学者たちの連続殺人事件。武力だけでは太刀打ちできない強大な敵と陰謀、そして自分自身の苦悩に直面した我らがビッグスリーは、果たしてこの危機をどう乗り越えるのか……? 作画は相変わらずの高クオリティーだし、ブルース・ティム絵の素晴らしさも健在なので、人を殺すヒーローに抵抗がない人は必見。本編とは関係ないけど、解説映像でブルース・ティムが「NEW52は期待したほどユニバースに変化をもたらさなかった」みたいなこと言ってて笑った。

ゲーム『ウィッチャー3 ワイルドハント』 

ポーランド発、CD Projekt RED謹製のアクションRPG。自分はPS4版でやりました。ウィッチャーシリーズ今までやったことなかったんだけど、トレーラー見て「ええやん!」と思ったのね。で、買ってやってみたらこれがエライ面白くてびっくりした。主人公は特殊な能力を持つモンスターハンターのゲラルト。行方不明の恋人イェネファーと養女のシリを追ううち、世界の存続を脅かす強大な敵と対峙するはめに……というのがおおまかな物語です。

とにかくストーリーと世界観、キャラクターが見事にマッチしていて、どっぷり浸かれます。シリーズ初心者でもゼロから楽しめるよう、ところどころで重要なキーワードは説明してくれる(質問できる)のがよかったんだと思う。ゲラルトはいわゆる「しゃべる主人公」なんだけど、こういうユーザーフレンドリーさがあったので、しっかり感情移入できた。『ラスト・オブ・アス』以来といってもいい。小道具の作り込み、軽妙かつユーモアあふれるセリフの応酬、ハッピーエンドや単なるお使いに終始しないサブクエストの数々など、本当の意味で何度も楽しめる一作。

戦闘がやや単調なのと、インベントリ周りのUIの煩雑さがちょっとだけマイナスだけど、全体の完成度は非常に高いです。最後のDLC『血塗られた美酒』が2016年に発売予定なのでこちらも期待。あとスパイクチュンソフトによる日本語版ローカライズのクオリティーにも拍手。ほとんど洋ゲーと意識せずに楽しめます。ゼニマックスアジアも見習えよな。

ゲーム『FallOut 4』 

で、今年最後に買ったゲーム。『FallOut 3』からは8年、『FallOut: New Vegas』から5年を経て登場したシリーズ最新作です。核戦争後のボストンを舞台に、200年の冷凍睡眠から目覚めた主人公が、奪われた息子を探して放浪しまくるオープンワールドRPG。もちろんシリーズの特徴といえる自由度は変わらずで、メインストーリーを追うもよし、各地のロケーションで強力な武器を探しまくるのもよし、サブクエストしながら仲間とのロマンスを育むのもよしです。

おまけに今回はこれまで単なる無駄アイテムだったJUNK品を使って、武器改造と拠点開発までできる。拠点開発の自由度がかなり高くて、巨大アパートの建築、ライトボックスを使った看板設置、販売店や医療スペースの設置、自動タレットやトラップを使ったモンスター対策設備設置までできる。もちろんやらなくてもいいんだけど、荒廃したボストンを少しでも復興できるとなれば、やってしまうんだよなあ。主人公にフルボイスがついたことで完全なロールプレイはやりにくくなったけど、その分、演出やコンパニオンキャラとのやり取りが濃密になったのは前向きに評価したい。

あと、プレイしてすごく思うのが「もはや戦後ではない」ってこと。FallOut 3やNVでは、まだ核戦争の爪痕が色濃く残っていたけど、今作には「過去を振り返るのはやめて、いま・この世界で生きていこう」という雰囲気がそこかしこに感じられる。過去作では見られなかった青い空と、拠点開発というプレイングが、まさにその象徴じゃないかしら。バグや日本語版ローカライズの微妙さなどでマイナス点もあるし、不親切な面も見え隠れするけど、それを吹き飛ばすほどの魅力があるのは間違いない。あれこれDLCも出るだろうし、2016年の半年は遊べそう。

 

と、いう感じの1年間でした。今年も楽しい漫画、映画、ゲームをありがとうございました。制作者さんたちに感謝&ラヴ。来年も面白いものに出会えますように。それでは皆さま、よいお年を。

Lady Killer #5

※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。

【前回からの続き。車の外には、銃を突きつけるペックが立っている】

ペック「逃げる気か、ジョシー。わかってるだろ?」

ジョシー「わかってる?」

ペック「ああ。だが話をつけることもできる。あそこへ戻ってあのガキを殺せ。俺の言うとおりにすりゃうまくいく」

ジョシー「そうかもね。それか、あんたの銃を奪ってその頭を撃つか」

ペック「そりゃ無理だな。お前は銃の威力を知ってる。だからこうなってるんだろ」

ジョシー「ステンホルムのところに戻って泣きつくんだね。イカレ野郎!」

【ジョシーは座席に座ったままの体勢でペックのあごを蹴り上げる。そのままペックに背を向け、車のダッシュボードに手を伸ばしてナイフを取ろうとするが】

ペック「こんなことしたくなかったぜ。まあ今はもう楽しんでるよ!」

【ペックの撃った銃弾は、ジョシーのハイヒールをかすめる。驚いて動きを止めるジョシー。ペックは車に乗り込み、再びジョシーに銃を向ける】

ペック「いいアイデアだ。車の中で殺すほうが都合がいい。恋人同士の痴話ゲンカに見えるだろうな。若い女のほうがちょっかいを出しちまって、どうにもならない状況に陥ったわけだ」

【と、そのときペックの後頭部にショットガンが付きつけられる】

通りがかりの老人「銃を下ろして、車から出るんじゃ!」

ペック「落ち着けよ、おっさん。過剰反応するな」

【両手を挙げるペック。その手からジョシーが銃を奪い取る】

老人「大丈夫かね、お嬢さん」

ジョシー「そんな変人、知らないわ。私のあとをつけてきたと思ったら、いきなり襲ってきたのよ!」

【ジョシーはそう言いながらペックのスポーツカーに乗りこむ】

老人「どこへ……?」

ジョシー「そいつを押さえておいて。警察を呼んでくるわ!」

老人「ちょっと待ってくれ。わしはそんなつもりじゃ……」

ペック「待てジョシー、俺の車だぞ! クソッタレ!」

【そのまま走り去るジョシー。老人はあっけに取られてそれを見送る。その隙に老人のショットガンを奪い取るペック】

老人「あんたらイカれてるのか、わしは……」

【老人の言葉を聞きもせず、ペックは彼の頭を撃ち抜いた】

ペック「俺の車を持っていきやがって!」

【場面転換。ジョシーは、どこぞのマンションの前にペックのスポーツカーを駐車させる。車内にあった自身に関するファイルを手にして自宅へ戻り、電話をかける】

電話を取った中年女性「はい、サンプソン・レジデンスです」

ジョシー「エディス? 坂の下の1205番地に住んでるジョシー・シュラーだけど」

エディス「あら、こんにちはジョシー。どうしたの、急に?」

ジョシー「正しい人に電話していると願うわ。あなたが周囲に目を光らせているおかげで、近所のみんなが安心しているのよ」

エディス「まあまあ、何か見たのかしら?」

ジョシー「実は、イエスよ。怪しい車が学校の遊び場の前に停まってるの。あなたの家の窓から見えるはずよ」

エディス「見えるわ! 小さなスポーツカーね? 変質者か何かかしら。遅かれ早かれ、何か起きそうね。ここじゃ誰も望んでないことばかり……」

【どうやらジョシーは、このエディスのマンションの前にペックの車を停めたようだ】

ジョシー「結論を急がないで。あなたのこと信頼してるわ。だから何かよくないことが起きないように見張っててくれると思うけど……」

エディス「そりゃ絶対にね! 私に電話したのは正解よ。いつだったか、子どもたちがマリファナ吸ってるのを見かけたって話はしたかしら……」

【そこまで話をすると、ジョシーは電話を切る】

エディス「ふーむ」

【怪訝な顔で電話を見るエディス。次回へ続く】 

Lady Killer

Lady Killer

 

 

Lady Killer #4

※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。

【前回からの続き。ステンホルムが、ジョシーの今後の処遇についてペックに話している】

ステンホルム「ジョシーのように、市井の人間として長く生活してきたエージェントは、結局のところトラブルの元になる」

【ステンホルムが調べたというジョシーのファイルには、彼女の過去の写真が貼られている。それを見る限り、ジョシーは幼少期から殺しの仕事をしていたようだ】

ペック「彼女が厄介者になると心配しているんですか? 彼女に限ってそれはないですよ。ジョシーは私が抱える最高の女性エージェントのひとりです。その忠誠心には疑いがない。それに、言うまでもなく私のコントロール下にあります」

ステンホルム「それは疑っておらん。だがリスクはリスクだ。彼女が現在の任務を終えたら、存在を消さねばならん……私はそう考えている。それこそが話し合いたいことだ。彼女を片付ける責任は、きみにあるようだがな」

ペック「お言葉を返すようですが、私にはどうしようもありませんよ。それより、彼女をクビにしてキッチンへ送り返せばいいじゃないですか。子育て主婦をさせればいい」

ステンホルム「あんなタイプの女に育てられるより、孤児になったほうがましだろうが」

ペック「あんなタイプって、どんなタイプですか、ボス?」

ステンホルム「一時の感情に惑わされるなよ、ペック。この仕事は人を変えてしまうんだ。結婚して子持ちになるような女性は、結局この仕事では不利なんだよ」

ペック「……では、もうすでに決まったことなんですね」

ステンホルム「まったくその通りだ。もしきみには荷が重いというのなら、すぐに別の人材をきみのポジションに置くこともできるがな。デイビッドなんかどうだ?」

ペック「……わかりました」

【伏し目がちに承諾するペック】

ステンホルム「この件に関して、これ以上の話し合いは無用だ」

【ファイルを持って退室するペックだったが、ステンホルムの女性秘書を見るなり、笑顔になって声をかける】

ペック「お待たせ」

【場面転換。ジョシーはステンホルムから与えられた仕事に取り掛かっていた。暗殺対象の、少年の家を訪れている】

少年「はい、どなた?」

ジョシー「こんにちは。私はサラ。先日、忘れ物しちゃったのよ。中に入ってもいいかしら?」

少年「えーっと、うん。いいよ」

【家の中に入りこむジョシー】

ジョシー「お鍋を取りに来たのよ、料理するのに必要なの。あなたのお母さん、いつでも取りに来ていいって言うから」

少年「ママがそう言ったの?」

ジョシー「そうよ」

少年「いつ?」

ジョシー「昨日よ、電話でね。他に聞きたいことは?」

少年「あんたがママと話したはずないよ」

ジョシー「話したわよ。こんなことでうそはつかないわ」

少年「あんたはうそつきだ。ママと話したことがあるわけない。ママは死んだんだもの。ママもパパも、ある男に殺されたんだ。おじさんが『お前も危ない』って言ってた。あんたは僕を殺しに来たんだ。そうだろ?」

【後ろ手に包丁を隠し持つジョシー。一瞬見つめ合ったのち、少年は2階へと駆け上がる。ジョシーもそれを追う。少年は自室へと駆け込み、ベッドの下に潜り込んだ。ジョシーも少年の部屋に入るが、壁に立てかけられた家族写真を手に取り、そこに写された少年とその両親の姿を見つめる】

ジョシー「あの子はもうここにはいない。逃げられた。たぶん安全な隣の家に駆けこんでしまっただろう。少なくとも、私ならそうする。

【ベッドの下で、ジョシーの独り言を聞く少年】

ジョシー「おじさんが帰ってくるまでそこに隠れていて、帰ってきたら襲われたことを話そう。だっておじさんは警察官だから。おじさんならどこか安全な場所を見つけてくれるだろう。誰も僕を傷つけない、あんぜんな場所で暮らそう」

【ジョシーは包丁を棚に置いて、部屋から出て行く】

ジョシー「ママとパパのこと、ごめんなさいね。それじゃ」

【少年の家から出て、車に戻ったジョシー】

ジョシー「クソッ!」

【涙に目を浮かべ、ハンドルを強く叩く。そのとき、ペックの車が背後に停まった。ジョシーは車を急発進させる。ペックもそれを見て、ジョシーのあとを追う。しばしのカーチェイスののち、ペックの車に接触されて、ジョシーの車はスピンして止まった】

ペック「どこへ行くんだ?」

【スピンした際に頭部をぶつけたジョシー。顔を上げると、そこには拳銃を突きつけるペックが立っていた。次回へ続く】 

Lady Killer

Lady Killer

 

 

Lady Killer #3

※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。

【自宅の地下にあるダンス室で、ジーンの誕生パーティーがおこなわれている。近所の若い夫婦たちがあつまり、思い思いに飲み、談笑している】

パーティー客たち「昔とは違うんだよ、ボブ……」「彼ったら貧乏で……」「酔ってないわよ、そっちがおかしいんじゃない?」「マティーニは誰が飲むんだ?」「この世で公平なのは現金だけだよ」「どこ触ってるのよ、奥さんが見てるわよ!」

【ジョシーは招待客たちの世話をしている】

パーティー客たち「誕生日おめでとう、ジーン」「ダサいって言ってるわけじゃないわよ。ただその黄色のドレス、似合ってないんじゃない?」「楽しいパーティーだな、ジョシー。このアンブロシアも最高だ」「レシピ、教えてあげるわよ」

ジョシー「大丈夫? ほら、もうやめておいたほうがいいわ」

【飲み過ぎで悪そうな女性から、酒を取り上げようとするジョシー】

女友達「ジーンが、もっとチェリーを持ってきてって。マンハッタンを作るって」

ジョシー「分かったわ。ルースを見ててくれる?」

【ジョシーは、酔っぱらった女性を他の人に任せ、上の階へと向かう。その途中、世h貸ししている双子に声をかける】

ジョシー「子どもは、もう寝る時間よ。言うこと聞きなさい」

子どもたち「おやすみなさい、ママ」

ジョシー「おやすみ。いい夢を見るのよ」

【明かりをつけてキッチンに入ると、中にはジーンの母がいた】

ジョシー「お義母さん、驚かせないでください。起こしてしまいました? 音楽がうるさすぎますか? 音を小さくするようジーンに言っておきますから」

義母「あんたのせいで眠れなかったね。あんたが言うような理由じゃないけど」

ジョシー「そうですか?」

義母「昨日はずいぶん長い間、外出してたじゃないか、私に子どもを押し付けて。何をしてたか知ってるんだよ!」

ジョシー「何をおっしゃりたいのか、わかりませんわ」

義母「あんたはホスピスで働いてるんじゃない。あの男と一緒にいたんだろ。いつもあの男の車が近くを走ってる。私が何も知らないと思ってるだろうけど、いつかジーンに自分がどんな女と結婚したから、分からせるよ」

【ドイツ語を交えながらジョシーに詰め寄る義母】

ジョシー「何かの間違いですよ、お義母さん。男なんていません。勘違いしているのでは。起こしてしまったことは謝ります。疲れて感情的になってるんでしょう、お休みになったほうがいいです。パーティーは静かにさせますわ」

【そこへ、先ほどの女友達がやって来る】

女友達「ジョシー? ルースが気分悪そう。コーヒーもらえないかしら」

ジョシー「ええ、いいわよ。チェリーを取ったらすぐ行くわ。おやすみなさい、お義母さん」

【チェリーの瓶詰めをつかんで出て行くジョシー。場面転換。ステンホルムのオフィスの前で、ペックが秘書らしき女性をナンパしている】

ペック「ドリス・デイに似てるって言われたことない? 似てるよ! きみのほうが彼女よりかわいくて、もうちょっと小悪魔っぽいけど」
ドリス・デイは1940年代~50年代に活躍した女優。

【と、そのとき背後からステンホルムがやってくる】

ステンホルム「ミーティングの予定だったと思うが、ペックくん?」

ペック「そうだった」

【ステンホルムは、ペックを自分のオフィスへ招き入れる】

ステンホルム「今度来るときは、スタッフにちょっかい出すのをひかえてもらえるとありがたいんだがな」

ペック「彼女のほうから色目を使ってきたんですよ。そのことを話し合うために呼び出したわけじゃないでしょう」

【ステンホルムの机にあるリンゴを勝手に食べようとするペック。ステンホルムはリンゴを取り上げ、代わりにファイルを渡す】

ステンホルム「知っての通り、私はミス・シュラーに関する直近の問題を調べた、個人的にな」

ペック「別段、驚くことでもないですね」

【キティ・キャット・クラブでの様子を撮影した写真を見ながら、ペックは応える】

ステンホルム「言葉に気を付けろよ、ペック。彼女の将来のポテンシャルをどう評価するか、これは慎重さが求められるんだ。結果として、私は心配している。ジョシーのような女は、将来的には我々にとって危険な存在なのだ」 

Lady Killer

Lady Killer

 

 

Lady Killer #2

※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。

【前回からの続き。ネコのコスチュームを着たジョシーが、中年男性らの座るテーブルまで注文を取りに来る。そのうちのひとりが殺害のターゲットのようだ】

ジョシー「こんばんは、クリスタルといいます。今夜、私が皆さんの子ネコになりますわ。お飲物はいかがです?」

ボディーガードら「スコッチ、ロックで」「ストレートのウイスキー」「クレム・ド・ミント」

VIP「しっぽを一切れもらおかな、子ネコちゃん」

ジョシー「ごめんなさい、それはメニューにないのよ」

VIP「なら俺もスコッチだ」

【談笑するターゲットらのもとに、注文のドリンクを持って戻ってくるジョシー】

ボディーガードら「やつの顔見たかよ」「泣き叫んでたぞ」

【ターゲットがドリンクを飲むと、コースターにメッセージが書かれているのに気づく。メッセージは「店のクロークで会いましょう」】

VIP「すまんな、諸君。ちょっと席を外すぞ」

クロークルームにやって来るターゲット】

VIP「子ネコちゃーん、いいことしようぜ。お堅い女の子は嫌われるぞ」

【ジョシーの姿を探すターゲット。その背後からジョシーが飛びかかり、首のうしろに蹴りを食らわせる。倒れるターゲットに馬乗りになり、ネクタイを締めて彼を窒息させようとする】

VIP「なん……ぐあっ!」

【ターゲットはジョシーを平手打ちする。今度はジョシーのほうが倒れる】

VIP「このクソアマ、てめえが誰かなんて知らんが……誰に手を出しているかわかっちゃいねえようだな」

ジョシー「いいえ、はっきりわかってるわよ」

【倒れた状態からターゲットの顔を蹴り上げるジョシー】

VIP「殺してや……うっ!」

【再び倒れ込むターゲット。ジョシーはもう一度背後からネクタイを絞め上げる。ほどなくしてターゲットは絶命した。そのとき、背後から人影が現れる。タクシー運転手の姿をしたペックだった】

ペック「呼んだかな? その格好、似合ってるじゃないか。ここで正式に副業したらどうだ?」

ジョシー「この男をどかすの、手伝ってくれない? それとも、まだぼさっと突っ立っていたいわけ?」

ペック「なら聞け。今週の金曜はどんなに忙しかろうと……」

ジョシー「早くして」

ペック「ハッ! ずいぶん傲慢な態度だ。いいから心して聞けよ。ボスがきみに会いたがっている」

ジョシー「ステンホルムが? なぜ?」

ペック「知らん。とにかく会いたいんだとさ。よし、これで別人だ」

【ペックは遺体の首にネッカチーフを巻き、さらに帽子をかぶせた。2人は遺体を両脇から抱えて、そのままクラブの入り口から出て行く】

ペック「そうそう、一歩ずつ足を出して。おっと! 酒よりチーズバーガーのほうをたらふく食ってきたんじゃないですか?」

【クラブ入り口の女の子に声をかけるペック】

ペック「自宅まで送り届ける乗客をゲットしたよ。また今度どうかな、お嬢さん。電話してくれよな」

【ペックはタクシーの後部座席に遺体を載せる】

ペック「気分が悪くなりそうだったら、自分の帽子に顔を突っ込むんですよ、お客さん。……やれやれ、この死体を下ろすときは重労働だろうな。で、ステンホルムには6時に待ち合わせだって伝えるぜ」

ジョシー「ええ、いいわ……いや、やっぱり待って。ジーンが家にいるわ。3時にならない?」

ペック「おいおい、マジかよ」

ジョシー「ボスに言えないの? 私のためなのに?」

ペック「わかったよ」

【遺体を載せたタクシーはその場を去っていく。その場に残されたジョシーに、店の女の子が声をかける】

店のウェイトレス「ここにいたのね、クリスタル。7番テーブルがお待ちよ」

【場面転換。役員室で待つジョシー。そこへスーツ姿の中年男性がやって来る】

ステンホルム「すまん。遅れたな、ミス・シュラー。持ち帰りのカウンターがいつもより混んでいたもんでな。座っててくれ。食べてる間、顔を上げたくないもんでね。消化不良を起こすかもしれん」

【包みの中からサンドイッチを取り出すステンホルム】

ステンホルム「食べながらでも気にせんだろ? きみは聞き分けのいい女性だから。無論、問題が発生したときを除いてだが。教えてくれ、ミス・シュラー。この仕事は好きかね?」

ジョシー「はい、もちろん」

ステンホルム「ふーむ、カンパニーで働いてどれくらいになる?」

ジョシー「15年です」

ステンホルム「そうだ。我々の仕事の重要性を知るには十分な年月だ。きみは仕事に真剣に取り組んでいる。そうだな?」

ジョシー「そう思いたいですわ」

ステンホルム「そうするべきだ。そして、自分の家庭のことも重要だと思っているな。だから厄介ごとが起きないようにしている。今後はどうするのかね?」

ジョシー「どう、とは?」

ステンホルム「現在のきみのポジションは、長く居続けるものじゃない。あと数年で、より上のポジションにいける」

ジョシー「私は満足しています」

【ステンホルムは赤いファイルを取り出し、ジョシーに手渡す】

ステンホルム「それはよかった。やってほしい、難しい仕事があるんでね。……それと、予定変更をペックに頼んだそうだな。聞きたくない話だった。スケジュールを変更させるのは、キティ・キャット・クラブが初めてではなかったぞ」

ジョシー「ペックが大げさに言っているだけです。スケジューリングは、プロにとっての取り組むべき仕事のひとつです」

ステンホルム「では家族は? 家庭を持つことも取り組むべき仕事なのかね?」

ジョシー「家族と仕事は別個のものですわ」

ステンホルム「自分にとって何が重要か、よく吟味することだぞ、ミス・シュラー。何が優先すべきことなのかもな」

ジョシー「求められる仕事は完遂します。今まで通りに」

ステンホルム「いいだろう。先ほど言ったように、この仕事はデリケートで難しい。この仕事をこなせる女性だと信じたいところだ。それと私が言ったことをよく考えるんだな。きみは、この部屋に上がってくるハシゴを上っているが、そこから転げ落ちるところは見たくない」

ジョシー「おっしゃることはわかりましたわ、ステンホルムさん」

ステンホルム「わかってもらえてうれしいよ。では良い週末を過ごしたまえ」

【場面転換。車で自宅まで帰ってくるジョシー。トランクから買い物袋を取り出している。庭では双子の子どもらが遊んでおり、近所の友人と思しき女性がベビーシッターを任されていたようだ】

ジョシー「2人とも、買い物袋を持つのを手伝って」

ベビーシッター「忙しかった?」

ジョシー「まあまあね」

ベビーシッター「あなたがボランティアに行っている間、2人の面倒を見るのが私だってこと、お母さまは気にしなかったみたい。よかったわ。ほら幸せそうよ」

【義母は庭先のベンチで黙って座っている】

ベビーシッター「あなたがホスピスで働いているなんて、信じられないわね。あそこじゃ、人が毎日亡くなってるんでしょ。気が滅入りそう」

ジョシー「気にならないわよ。最期のときにも、彼らにやってあげなきゃいけないことはある。それをやる人も必要よ。それが私だっただけ」

ベビーシッター「私より進歩的なのね」

【自宅へと帰っていくベビーシッター】

ジョシー「明日、ジーンの誕生日パーティーには来るんでしょ?」
※ジーンは夫の名前。

ベビーシッター「絶対行くわ」

ジョシー「このあいだ作ってくれたアンブロシアを持ってきてくれない? ジーンったら、すっかり気に入ったみたいで、話すと止まらないのよ」
アンブロシアは、パイナップル、オレンジ、マシュマロ、ココナツなどを用いて作るフルーツサラダの一種。

ベビーシッター「わかったわ。マシュマロ多めでね!」

【場面転換。買い物袋をキッチンに運ぶ双子たち。うちひとり(ジェーン)が、ステンホルムから渡された赤いファイルを手にしている】

ジェーン「ママ、見て!」

ジョシー「ジェーン、それはあなたのものじゃないでしょ」

ジェーン「ごめんなさい、ママ」

もうひとりの双子「ジェーン、悪いことしたの?」

【ジェーンからファイルを取り返したジョシー。ファイルの中には次のターゲットの写真がある。見ればそれは小学生くらいの男の子だった】

ジョシー「手を洗ってらっしゃい。誰も悪いことはしてないわ」

【場面転換。ベッドルームで夫のジーンと話すジョシー】

ジョシー「ねえ?」

ジーン「ん?」

ジョシー「今日、妹と電話で話したのよ。いま作っているドレスのアレンジで、手伝いに来てほしいんですって。でも、あなたはベインブリッジ島に行きたがっていたし、断るべきよね?」

ジーン「いや、行っておいで。僕は車の修理をしているよ」

ジョシー「ホントに? 嫌なら……」

ジーン「また明日な、ダーリン。おやすみ」

【そういって眠るジーン。ジョシーはベッドに入って、思いつめたようにじっと目を開けている。第3話へ続く】 

Lady Killer

Lady Killer

 

 

Lady Killer #1

※『Lady Killer』は殺し屋兼主婦のジョシー(ジョセフィン)を主人公にしたアメリカンコミックスです。周囲に殺し屋の顔を隠しながら、良き妻・良き母として毎日の生活を送るジョシーの姿が描かれます。

【水色の制服を着たセールスレディが、客の家のドアをノックしている。ドアが開けられ、中からは小型犬を抱えた中年婦人が顔を出す】

セールスレディ「エイボン化粧品です」

【すぐに玄関先に足を踏み入れるセールスレディ】

セールスレディ「ごきげんいかがですか。アンダーソンと申します。エイボンの春の新作コスメをご紹介したくうかがいました」

婦人「どうも…。フランチ、おやめ!」

【婦人の足元には、ほかにも数匹の小型犬が駆け回っている。気にせず家の中にあがるセールスレディ】

セールスレディ「きっと後悔はさせません。最近のコスメでは、エイボンがいちばんですからね。こざっぱりした良い部屋ですわ、ローマンさん。ローマンさんでよろしいですよね? 以前、われわれのところで化粧品をお買いになられた」

ドリス「ドリスって呼んで。おたくからは以前、クズみたいな口紅を1本買っただけよ。それなのに私の生活の邪魔をするわけ?」

セールスレディ「ローマンさん、最後にお化粧をされたのはいつです? ぜひ今季の新色をお見せしたいですわ。どんなシーンにも使えるチークもございますよ」

ドリス「ねえ、ホントに必要ないんだけど……」

【意に介せずトークを続けるセールスレディ。持ってきたカバンのなかから、口紅と香水を取り出す】

セールスレディ「例えばこのコーラルレッドのリップ。これなんかお客様の顔色にぴったりです。こちらの香水は殿方をワイルドにさせますよ」

【香水のスプレーをドリスの顔の前で吹きかけるセールスレディ】

セールスレディ「すてきじゃありませんこと? ジャングルガーデニアというんです。エキゾチックな香りですわ」

【香水の香りでせきこむドリス。そのすきを狙って、セールスレディは彼女が持っていたコーヒーに小さな錠剤を入れる】

セールスレディ「ああ、申し訳ありません。こちらをお飲みになって……」

【知らずに錠剤入りのコーヒーを飲もうとするドリス。しかし、犬たちが急に彼女のひざに飛びあがり、コーヒーはこぼれてしまう】

ドリス「クッソ、このバカ犬!」

【ドリスは台所に行って、こぼれたコーヒーの片づけをする洗剤を探す。その背後から、セールスレディが声をかける】

セールスレディ「本当に申し訳ございませんでした、ロマノフさん」

ドリス「ドリスって……いま何て言った?」

【ドリスが顔を上げると、セールスレディはその手に金づちを持っていた】

セールスレディ「ロマノフ、が本名よね? 誰が、どうしてあなたに死んでほしいかは知らない。私が知ってるのは、そいつらが私にカネを払ったことと、そいつらがカネを払うだけの理由があったってこと」

【いそいで包丁を手にしようとするドリス。しかしその手は、セールスレディが振るったハンマーで叩きはらわれた。セールスレディは背後からドリスの首を絞め、床に転がった包丁に手を伸ばす。そしてドリスの胸に刃を突きたてた。盛大に血が飛び散る。セールスレディのスカートにも、少し血がついてしまう】

セールスレディ「あーあ、ちぇっ」

【場面転換。先ほどのセールスレディが、自宅で食事の準備をしている。キッチンでは双子の女の子が先住民の格好をして遊んでいる】

セールスレディ「2人とも、机の上は片付けてくれないかしら。お父さんがもうすぐ帰ってくるわよ。お母さんの言うこと聞いてくれる……」

【と、そのとき父親が帰ってくる】

双子の少女たち「パパー!」

【子どもたちをあやしながら、妻に帰宅のキスをする夫】

夫「ただいま、ダーリン。忙しかったかい?」

セールスレディ「そうね、普通よ」

少女「パパ、スカッシュよ!」

セールスレディ「スクワウでしょ」
※スクワウ(Squaw)は北米先住民の女性のこと。

【そのやりとりを見ていた老女が、なにやら声をあげている】

夫「母さん、英語を話してくれよ。ジョシーはドイツ語はわからないんだ、知ってるだろ」

義母「あの子は肉屋から帰ってくるのも遅かったし、まだ夕食の準備もしていないじゃないか」

ジョシー「ごめんなさい、お義母さん。ちょっと買い物に行ったら、そこで偶然友だちにあったものですから。夕食はすぐにできます」

夫「ね? もうすぐできるってさ」

【憮然とした表情でため息をつく義母。電話のベルが鳴る】

ジョシー「はい、シュラーです」

電話の声「ジョシーか? ペックだ。次の仕事があるんだが、家にいるか?」

夫「誰だい?」

ジョシー「ごめんなさい、もう生命保険のお話は間にあってます」

電話口のペック「話をそらすなよ、ジョシー」

ジョシー「ごめんなさい、今は夕食の時間ですから。セールスにつきあっている時間はないんです」

電話口のペック「なら23時に鉄工所で会おう。それならいいだろ?」

ジョシー「失礼ですが、もう切らないと」

【電話を切り、少しだけ沈黙するジョシー】

ジョシー「ご飯よ!」

【夕食を終え、居間でテレビを見ながらくつろぐジョシーとその夫、義母。そのとき、玄関からノックの音が聞こえてくる】

夫「見て来てくれないか?」

【ジョシーがドアを開けると、黒いスーツに身を包んだ精悍な顔つきの男性が立っていた。手にはパイプレンチを持っている】

ペック「こんばんは。下水道修理にうかがいました」

ジョシー「何しに来たのよ?」

【家の外に出て、玄関先で話すジョシーとペック】

ペック「約束をすっぽかされるような気がしたんでね」

ジョシー「夫がいるのよ!」

ペック「知ってるよ、だから変装してきたんじゃないか」

ジョシー「何の変装?」

ペック「配管工。パイプの水漏れはありませんか?」

ジョシー「すてきね」

【家の中から夫の声が聞こえてくる】

夫「ジョシー、誰だい?」

ジョシー「お隣のマージよ。明日、パン屋でセールがあるんですって」

夫「ああ、こんばんは、マージ!」

ペック「こんばんは!」

ジョシー「やめて! ちょっとマージとそこまで出るわ。すぐに戻ってくる」

【玄関先から駐車場のほうへ移動する2人】

ジョシー「家に来られると面倒なんだけど、ペック」

ペック「仕事があるんだよ、ジョシー。やる? やらない?」

ジョシー「詳しく話して」

【玄関先から離れた2人の様子を、窓から義母がその様子をうかがっている。ジョシーはそれには気づかず、ペックと話を進める】

ジョシー「キティ・キャット・クラブ?」

ペック「聞いたことはあるか?」

ジョシー「ダウンタウンにある変態ご用達のバーでしょ。ウェイトレスが水着で歩き回ってるっていう」

ペック「その通り。標的はクラブのVIPだ。普通、こういった要人暗殺の仕事はきみには回さないんだが、こいつはボディーガード付きなんだ。大勢な。俺の手駒じゃ、誰も標的に近づけない。標的がひとりになるのは便器に座るときか、女に乗るときかだけだ」

【真顔で見つめ返すジョシー】

ペック「すまんね、きみがデリケートなのを忘れてたよ。とにかく、きみはほかのスパイにはないものを持ってる」

ジョシー「それは?」

ペック「おっぱい。おっと、ちょっとしたジョークだよ」

ジョシー「下品なこと言うのはやめて」

ペック「わかった、すまん。マリア様に誓うさ」

ジョシー「あなたと話すのは疲れるわね」

【ジョシーに封筒を手渡すペック】

ペック「必要な情報は全部ここにある。がっかりさせないでくれよ、ジョシー」

ジョシー「させたことがあったかしら?」

【場面転換。キティ・キャット・クラブ。ネコ耳としっぽ付きハイレグ衣装を着けたジョシーがドリンクを配り回っているところで第2話へ続く】 

Lady Killer

Lady Killer

 

 

「正直者やマジメな人が損をしない社会を」って言うけどさ

損得や利益の価値観にとらわれてる時点で、ズルして得した人とそんなに変わらないんじゃね?

 

もちろん「正直者やマジメな人が損しない世の中」は理念として共感するし、そんな社会になればいいと思うよ、俺も。というか、実際いつかはそういう社会になるとさえ思ってる。

 

でも「正直者・マジメな人が損をしないこと」を望む気持ちのウラには、「損しないために正直になろう、マジメにやろう」という計算があるんじゃない? それは結局、得するためにズルしようって気持ちと同じ地平に立ってる気がする。

 

そもそも、正直な心根であることやマジメに生きることと、何らかの損害を被らないことは本来別モノであるはず。それなのに「正直者やマジメな人が損しない世の中」が叫ばれている。

 

ということは、「正直さ・マジメさは現世利益として報われるべき」という期待感が見えないところで広がっているのかも知れん。何か良いことをすれば、報酬が得られてしかるべきだという資本主義的期待。それはあたかも「悟りを開くために功徳を積む」のと同じ話で、本当はおかしなことなんだけども…。

 

いや、別に「損したくない・得したい」という目的のために正直者であってもいいんだよ。でもそれならその欲深さは自覚されるべきだと思うのよね。「正直者やマジメな人が損をしない社会を」というスローガンは、その欲深さを覆い隠してしまう耳触りの良さがあるから、やっぱりどうも一歩身を引いてしまう、個人的には。

 

理想を言えばさ、現世的な損得から解き放たれた価値観を生きていきたい。見た目の損得、目の前の損得にとらわれなくなったら、たぶん無敵だと思うのよね。それこそ『あっかんべエ一休』(坂口尚の)みたいな生き方できたらな、と。

 

でも多分無理だから、だからこそさっき書いたように、自分の欲深さと向き合うことには意識的でありたいなと思うわけであります。 

あっかんべェ一休(上) (講談社漫画文庫)

あっかんべェ一休(上) (講談社漫画文庫)